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第三章
6.「後悔」1*俊輔
しおりを挟む真奈を傷つけて抱いた翌朝。
オレは一睡も出来ないまま、部屋を出た。
和義がオレの顔を見て、一瞬ひどく驚いたのが分かったけれど、それは完全に無視した。
オレがどんな顔をしているか知らないが、それを、聞きたくもなかった。最低限の用事だけ聞いて屋敷を出た。一応大学には来て、始まるまで端の一番後ろの席で伏せていた。誰とも、挨拶すら交わしたくなかった。
講義が始まったけれど。
……なにひとつとして頭に入ってこない。
浮かぶのは、昨日の真奈の姿だけ。
思い出したくなくて、教授の言葉に耳を傾けるけれど、すぐに、声は遠のいて、消えていく。
「――――……」
昨夜――――…… 真奈を、縛り付けて、犯した。
可愛いなどと感じていた感情は掻き消えて。
……違う。可愛いと思っていたことが余計に、自分の感情を逆撫でして、拒否されたのが許せなかった。
それでも、顔を見ると、声を聞くと、その怒りみたいな感情すらすぐに鈍る。
何だかそれも、許せなかった。
顔を見たくなくて、声も聞きたくなくて。
ただ、めちゃくちゃにしてしまいたくて、
顔も見ないように後ろから。……抵抗も出来ないように声も聞こえないように、縛り付けた。
真奈が完全に意識を失ってから寝室を離れて、一晩中ソファで過ごした。特に何も考えていなかった。ただ、ぼんやりとしていただけ。目の前の何もかも、映ってすらいなかった気がする。
朝、気も進まぬ儘に真奈を見に行くと、離れた時のままの体勢。一瞬生きているか不安になった。
近づいて、まだ解いてもいなかったネクタイの結び目を緩めて、口に手を近付けると、ちゃんと息をしていて。
心底、安心して――――……けれど、そんな自分がまた腹立たしかった。
こんなに、今までの誰よりも気に入ってて、執着していても。それを伝えることも出来ず。たとえ伝えたとしても、何がどうなるという訳でもなく。
自分たちの関係は。……少なくとも真奈にとっては、ただ、無理に捕らえた者と、捕らえられた者。
それだけであることは、分かっていたはずなのに。
今更、拒否された位で、自分があんなにキレるなんて、思わなかった。
それだけ、ショックだったのは――――……もう今更否定しきれない事実、で。
だからといって、あんな風に、するとか……どうしようもねえな、オレ。
「――――……」
教授のマイクが、一瞬ハウリングを起こして、キーン、と嫌な音を立てた。
はっと、我に返る。
……苛々した、嫌な感情だけが体を巡る。
昨日の、真奈の苦しげな様子。
朝見た、ベッドの血痕。手首の傷も。全部が鮮烈な映像として、頭の中に、残っている。
和義が、恐らく見てくれているとは思うのだが、どうしても、心配で。
オレが学校の間、和義は様々な用事をこなしてるし、今日に限って真奈の所に行くのが遅くなっているかもしれない。早く手当をした方が良いのは、分かっていた。ひどく傷つけた認識は嫌でもある。
和義に電話で確認するのも、何だかものすごく嫌で。
自分の目で、真奈を確認したいと思ったその時、ちょうど一限が終わった。
何一つ、頭に入っていない。
どうせ今日、学校に居ても、全部これだろう。
オレは屋敷に戻ることを決めて、立ち上がった。
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