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第三章
5.「勘違い」*真奈
しおりを挟む「ここでいい?」
「この商店街を十分位歩けば、駅だから」
二十分位走ったところで掛けられたそんな言葉に、すぐに頷いた。
別にどこに行きたい訳でもない。
とりあえず俊輔に見つからないところに行けばいいだけだし。
車を見送って、何となく息を付く。
なんだかネオンの光がやけに眩しく感じて、目がチカチカするような。
とにかく今日は、どこかに泊まろう。すぐにでも眠りたいような気がする。
……駅に近ければ、ホテルもあるだろうし。
そう思って、商店街を、駅に向かって歩き始めた。
そしてすぐに、自分の状態を、思い知った。
思っていた以上に、体に力が入らない。
特に足に力が入らなくて、歩くのが大変だなんて思うのは、生まれて初めてだった。
がく、と足から力が抜けて、よろけた。
運の悪いことに、柄の良くない連中の前を塞ぐような形でよろけ、思い切りぶつかってしまった。
「痛ってぇな…… 何なんだよ、フラフラしやがって」
襟元を掴まれて、睨まれる。
でも、その睨みも迫力も、俊輔のそれには遠く及ばない気がして。特別、何の感情も持てなかった。ただぼんやりと、その顔を見つめてしまう。
「何だ、お前……」
気味悪そうに言われて、手を離された瞬間、膝をついて崩れ落ちた。
頭上で何か言われる。何か揶揄されている雰囲気は分かる。……けれど、何の言葉も、頭に入ってこない。
男達が何か言いながら立ち去っていく。ゆっくりと立ち上がり、またゆっくりと、歩き始めた。
睨まれた事で、俊輔のあの夜の視線を思い返してしまった。
本当に、怖かった。
……一晩で、俊輔の事が何もかも分からなくなった。
……元々、何も、分かっていなかったのかもしれないけど。
だけど、少しだけ、その存在に慣れていた気がしていた。
西条さんが 若が執着してるとか、言うから。
俊輔が、何だか優しいような気がしていたから。
少しの間だけ、勘違いしてしまっていたのだと、気付いた。
「俊輔に必要とされてる」なんて。 そんな意味の分からない勘違いを。
梨花に、痛い言葉を突きつけられて、嫌悪感ばかりが爆発して、俊輔を拒否した。拒否したら、どうなるだろうなんて、予想してた訳ではないけれど、俊輔が、あんな風に、あんな事をするなんて、夢にも思わなかった。
あそこまでされる、なんて、何でだか全く考えてもいなかった。
……俊輔はやっぱりオレのことなんか嫌いで、別にオレのことが必要だった訳じゃなくて。
ただ、セックスだけ。それだけあれば良かったんだと、思い知らされるみたいなやり方で、犯されて。
変態に譲り渡されるとか、他の誰かと寝かされるのも。
そんな可能性もあるのかも知れない、と思ったら。
怖くて、たまらなくなった。
縛り付けられて、否応なくあんな風に乱暴されて。殺されるのかと、思って。やっとそこで気付いた。そんなところで、やっと。
――――……多分オレ……何でかわからないけど……。
俊輔に。
あんな、誰にも執着しなそうな、欲しいもの全部持ってるみたいな、俊輔に。
必要とされてるんだと思って、多分、それが嬉しかった。
あんな風に乱暴されて、そうじゃない事を思い知って初めて、自分の気持ちに気付いた。
母さんが亡くなって、父親は居るけど、あんな感じで。
友達はたくさん居る方だとは思うけど、皆には帰る家族があって。それは当たり前なんだけど……。
……必要とされてるって。
嬉しかったのかも。
だから俊輔のこと、憎めなかったのかも。
「――――……は。 馬鹿、みたい ……」
俊輔にとっては――――……ただいつでも抱ける、そんな道具みたいな存在で。
それをオレが拒否するなんて、有り得ないことだったんだって、思い知って。
そしたら。……もう何もかも、どうでも良くなって……。
梨花からの、逃げる提案に乗ってしまった。
秀人のことも……オレに執着してないなら、やっぱり、俊輔は何もしない、と思うし。
抱きやすかった道具が、勝手に居なくなったことを、怒るかもしれないけど。
「――――……」
……ダメだ。 ……歩けない。少し休も……。
商店街の、シャッターが閉まってる店の壁に背を付いて、ズルズルと崩れ落ちた。
包帯を巻いた手首が、ジンジンして痛い。
……後ろも、疼くみたいに、ずっと痛い。
……変な格好で延々ヤラれてたから、あちこちが変な筋肉痛で痛い。
何だか、体のあちこちが痛いけど――――……。
…………何か一番痛いのは。気持ち、かなあ……。
なんとなく、胸の上のシャツをぎゅ、と掴んで俯いた。立てた膝の間に、顔を埋める。
何でか分からないけど、俯いた瞳から涙がこぼれ落ちていく。
何でオレ――――……泣いてんだろ……
こんな、とこで……。
勝手に逃げ出したのは自分だし。……明日から普通に生きていける訳で。
やっと逃げ出せて、こんなに嬉しいことはない筈なのに。
今落ちてくる涙は……嬉し涙ではない、気がする。
ほんと……。
……何もかも、意味わかんねえ……。
涙を止めることも出来なくて。立ち上がる気力もなくて。
ただ、俯いていることしか、出来なかった。
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