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第三章
4.「外へ」*真奈
しおりを挟む「夕飯は別の者に運ばせますから……真奈さん?」
「……あ、……はい?」
「大丈夫ですか? 気分、悪いですか?」
「……いえ」
心配そうに言われて、首を振る。
ここを出るということだけが頭にあって、西条さんの言葉が頭に入ってこない。
「……今夜は若と一緒に帰ってきます。……ここに若をお連れしますね?」
「……」
西条さんを見上げる。
何を思ったのか、西条さんは苦笑いを浮かべた。
「手荒な事はさせません。若もなさらないと思います。不安かもしれませんが、私が約束します。絶対させませんから」
「――――……」
「何か、欲しいものはありますか?」
「……大丈夫です」
西条さんが屋敷を出たら――――…… 逃げ出す訳で。
……後ろめたくて、どうしようもない。
俊輔の為に仕方なく面倒を見てるのだとしても、それでも昨日一昨日は、多分俊輔に逆らってでも、ここに隠してくれた訳で。
優しくしてくれてるのに、これで逃げ出したら、西条さんのせいになったり、しちゃうのかな……。
大丈夫、かな……。
「じゃ出かけてきますね。何かあったら電話をください。出られない時でも折り返しますから」
頷くと、西条さんが部屋を開けようと、ドアのノブに触れた。
「……っ西条さん」
「はい?」
「……ありがとう、ございました……色々……」
「……いえ」
呼びかけたは良いけれど、何も言う言葉を持たなかったオレは、辛うじて礼を告げた。
すると一瞬不思議そうな顔をしながらも、西条さんはふっと笑みを浮かべて首を振ると、ゆっくりとドアの向こうに消えていった。
力を失って、息を付く。
それから、どれ位時間が経ったか。
梨花が部屋を覗いて、西条さんが出かけてしばらく経ったから、と言った。起き上がって、俊輔の部屋に寄って、オレは服を着替えた。
広すぎる玄関で靴を履いて、玄関の外に居た数人の間に紛れ込んだまま、屋敷の敷地内に停めてあったワゴン車に乗り込んだ。
梨花が門を開けるように頼んだみたいで、車で近づくと簡単に門は開き、車は門の外に抜け出た。
「――――……」
あまりにあっけなさ過ぎて、拍子抜けする位だった。
一人で抜け出すのは、極端に難しいと思ってた。そもそも門が開かないし。屋敷から出る時バレるし。
たかが門を開けてくれる人間が一人居ると、こんなに簡単に抜け出ることが出来るんだ。
あの屋敷から、外に出ることは。
こんなに、簡単なこと、だったんだ。
絶対出られない場所、みたいに思ってた。
「どこで下ろせばいいんだ?」
「好きなトコで下ろしてやれって言われてんだけど?」
運転してる奴らに、話しかけられて、ふと考える。
「……オレを下ろした後はどこに?」
「金入ったし、どっか遊び行くけど」
「……じゃあ、そこに向かう途中で、どこかの駅の近くで下ろしてもらえれば」
「OK」
どう見たって、柄も素行も悪そうな、連中。
金が入ったって言ってるってことは――――……金で雇ったってことなのか……。
つか、どんな一族だよ、大体。
もうあの一族には関わりたく、ない。
……逃げ出したりして、ものすごく頼みにくいけど、秀人のことを、西条さんに何とか頼めたら……。
でもきっと、西条さんだって、オレの存在は本当は邪魔なはずだし。何とかなる気がする……。
それから、この金も当面生活する上で少し借りるけど、絶対返そう。なんなら父親に連絡してみるのもありかもしれない。
父はオレが、世話になってる先輩の家に居ると思ってる。最初に俊輔の家に居ることが決まった時に、西条さんも一緒に電話に出て、ものすごくうまく話してた。絶対何も疑わずそう思ってると思うけど。
……まあ基本、オレのことは、あの人に関係ないし。
キレイさっぱり返して、もうそれで、あんな世界とは、おさらばだ。
俊輔とももう、これっきり、だ。
……それで、良いんだ。
どんどん屋敷から離れていく景色を目で追いながら、オレは、繰り返し何度も、心の中で呟いていた。
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