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第二章
25.「真奈を抱く理由」*俊輔
しおりを挟むソファで寝ている真奈を起こして、風呂に入れてあっためてから寝させようと思ったのに、ふと思いつきで悪戯を仕掛けたら抱きたくなって、結局そのままベッドで寝落ちさせてしまった朝。
着替えて、真奈に視線を向けると、ぐっすり眠っている。
……まあ、そうだよな。昨日、バスルームでも抱いて、その後、また夜中まで、やってたし。
和義に呼ばれて、食事を取っていると、梨花が起きてきた。
昨夜一緒に過ごさず、部屋にも入れなかった事で、相当機嫌が悪いようだった。
「……おはよ、俊」
一応声はかけてくるけれど、笑顔も何もない。
「……すっげぇ、不細工だぞ」
そう言うと、梨花は、キッとオレを睨んだ。
「……信じらんない。そんな事言う?」
「嫌なら、朝っぱらから不機嫌そうな顔、してんなよ」
言ったオレに、黙りこくって、梨花は俯いた。
「……うん」
表情から険を落として、素直に頷いた梨花。
オレに対してひたすら素直なところは、変わらない。
金持ちで美人で、二人姉妹の妹。ちやほや可愛がられて育って、まあ、そうなるだろうなという程に、気は強いし、お嬢様気質。
気が強いというか……なんでも思う通りに行くと思ってるタイプ。
まあ、きっと、普段はそうなんだろうが。
……オレのことを好きで、結婚したいとか言ってるのは、昔からずっと、知ってる。
今は、それだけでもいい、と言われて、別にそれだけなら、と特に気にせず関係を持ったが……別に結婚前提でもないし、付き合ってる訳でもない。それは梨花も分かっているし、オレが束縛されたりするのを嫌いなのも知ってるから、必要以上には攻め込んでは、こない。
でもそろそろ――――……やめた方がいいとは、思っている。
オレを好きなのが本気なら、だらだら続けず、可能性がないことを伝えた方がいい。特にもう今は、そんな関係を続ける気もないのだから。
言うのは、かなり骨が折れそうだが、ちゃんと終わらせないといけないとは思う。
――――……遠い親戚とは言っても、親戚が集まる時には居るからな……。そもそも手を出さなきゃよかったのにと、過去のオレに対しては思うが。今更どうしようもない。
目の前に座って、コーヒーを飲み始めた梨花に視線を向ける。
「大学が終わったらまっすぐ帰ってくる。行きたいとこがあるなら付き合うから、待ってろよ」
「うん」
嬉しそうににっこり笑う梨花に何となく息をつきながら、オレは食事を終えて、立ち上がった。
部屋に戻って、いつものように、寝室を覗く。
ぐっすり眠っている真奈を見下ろしていたら、ふと、昨日の事を思い出した。
『しゅ……け、と…… 寝たいって……子が……居る、のに……なんで……?』
そんな風に聞かれて。
それには、答えずに、オレも聞き返した。
『相手がいねえから、オレがお前を抱いてんだとでも思ってンのかよ?』
そう聞くと、真奈は首を振って、オレを見つめた。その視線に耐えられなくて、もう何も言えないように抱いて、誤魔化した。
真奈を抱くのは、オレが抱きたいのが、真奈だからだ。
……他の奴を抱く気が、しない、から。
それをもしも、真奈に言ったら。
そんなのは嫌がって、オレに対する嫌悪が倍増するのだろうか。
それとも少しは……何か、関係が変わるんだろうか。
――――……わかんねえな。つか……変わる訳、ないか。
こんな風に、ほぼ無理やり、手に入れて。
……やってることが最低なのは、嫌というほど、分かってる。
……こいつが人が良すぎて、オレを憎み切らないから、こんな風な感じで居られるだけで。
そういうのも、分かってはいる。
サラサラした、柔らかいその髪の毛に触れて、そっと頭を撫でて。
それから、部屋を後にした。
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