55 / 140
第二章
24.「梨花」*俊輔
しおりを挟む部屋に戻り、バスルームで真奈を抱いた。外に食事に行くか尋ねると、驚いたような顔はしていたけれど、真奈は頷いた。服を着替えて真奈とともに玄関に向かったところで、和義が外から戻ってきたが、なんだか様子がおかしい。
「和義?」
声を掛けると、和義は珍しく戸惑ったような顔を見せ。
「あ、若……あの――――……」
言いかけた和義の脇から顔を覗かせたのは――――……梨花だった。
「俊!」
笑顔の梨花に抱き付かれて、とりあえずその体を抱き止める。
「またお前は、連絡もせずにいきなり……」
「だって。ここんとこずっと俊に会ってなかったから。会いたかったんだもん!」
抱き付いたままの梨花は甘えるように言って、オレにすり寄ってくる。
…… 相変わらず、だな。
苦笑しながら色々質問して、和義に梨花のことで指示を出し、それから真奈を振り返った。
「真奈。――――……出かけるの、無しだ」
「……うん」
頷いて、真奈はそれきり黙っている。
真奈の食事を用意させるようにと和義に告げると、梨花が真奈を見ながら、オレを振り仰いだ。
「俊、この人は?」
「ああ……」
何と言うべきか一瞬言葉に詰まったオレに、和義が助け船を出してきた。
「真奈さんです、梨花さん。事情がありまして、今このお屋敷で生活されてます」
「……ここで?」
怪訝そうに眉を寄せた梨花の腕を掴んで、オレは歩き出した。
口では色々文句を言いながらも、楽しそうにじゃれてくる梨花をとにかく引っ張りつつ、屋敷外へと引っ張り出した。結局、和義によると、梨花は今回はちゃんと親に頼み込んでから来たらしく、数日預かる事が決まった。
「ね、ちゃんとOKもらってるでしょ?」
嬉しそうに笑う梨花。
「……あんまり構ってやれねえぞ?」
「言ったでしょ、俊輔が忙しいのは知ってるてば。夜、一緒に過ごしてくれればいいから」
する、と首に掛かる腕。
そういう行為に興味があり、女なら誰でも良いと思っていた時期に初めて関係を持って。
その後何回か、梨花とそういう関係を持った。
梨花は多少ワガママではあるけれど、幼い頃から何度も顔を合わせていた身としては可愛いもので、明らかに美人の部類に入るそのルックス。オレの事を好きだという梨花に、今までは別に断る理由もなかった。
けれど。正直今、全くその気にならない。
「――――……今回はそれは無しだ」
「え?」
きょとんとしている梨花の腕をそっと離させる。
「どうして?」
「どうしても、だ」
「……彼女、できたの?」
「出来てねえけど、無し。……ちょっとここで待ってろよ」
固まってる梨花から離れて屋敷に戻り、とりあえず部屋に戻った。
「……俊輔? あれ、出てなかったの?」
驚いたような顔で振り返る真奈。
「あぁ、今から行くけど……真奈」
「……?」
「今度また外に連れてく。 梨花、さっさと追い返すから」
少し首を傾げた状態で、真奈が頷いた瞬間。
「しゅんーーー!どこーー!」
梨花の大きな声が聞こえた。
「――――……」
ため息を付きながら、オレは真奈を残し、部屋を出た。
すぐに梨花が絡んでくる。
梨花が行きたいというレストランで食事を取ってから、そのまま行きつけの店の個室に入った。
何だかんだと楽しそうに話し続ける梨花の相手をしながら。
……思うのは、真奈の事だった。
手首にはめたバングルに、何となく視線を落とす。
「……素敵、これ」
「ん?」
「これ。 すごく、素敵」
オレの視線の先を追ったのか、梨花がバングルを見て、そう言った。
「そうか……?」
「うん。 俊が選んだの?」
「……ああ」
「俊に似合う」
「――――……」
……真奈に似合うと思って買った事を思い出して、何となく笑みが零れた。
そんなオレに、梨花はふと、首を傾げた。
「……何か、俊、変わったみたい」
「何がだよ?」
「……よく分かんないけど…… 何となく」
「別に……変わってねえよ」
そうかなあ、と首を傾げてる梨花には特に何も言わず、バングルに触れる。
……もう寝たか?
時計を見ながら、ふと、真奈を思う。
「あ、そうだ、ねえ、俊」
梨花に目を向けると、梨花は身を乗り出してきた。
「あの子、誰? さっき俊輔と一緒に居た男の子」
「……和義が紹介しただろ」
そう返すと、梨花は少し眉を顰めた。
「何であそこで暮らしてるの?」
「――――……」
「友達とかじゃないでしょ? あの子って年下よね?高校生くらい?」
そこまで聞いた所で、オレは立ち上がった。
「……帰るぞ」
「え、ちょっと待ってよ、俊……!」
「明日も早い。――――……まだどこかで遊んで行きたいなら置いてくぞ」
「一緒に帰るわよ! ……俊ってば!」
腕を掴まれて、引き留められる。
「答えてくれてないじゃない」
「……あいつの事はお前には関係ないだろ」
「――――……」
オレの言葉に、梨花はむっとして口を噤んだ。
「家に居るのは良いけど、真奈には構うなよ」
「……何なのよ、ほんとにあの子」
「良いから、ちょっかいだすな。いいな」
「……」
ひたすら納得できないと言った顔をして、むっとしてる梨花と共に、屋敷に帰り着いたら、もう二十四時前で。
真奈は、なぜかソファで寝ていた。
133
★読んでくださってありがとうございます(^^)
★楽しんで頂けてましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
★楽しんで頂けてましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる