上 下
50 / 138
第二章

19.「S傾向」*真奈

しおりを挟む

 
 何となく、手首にバングルをはめて、そのままぼんやりとテレビを眺める。
 と、不意に部屋の扉が開いて、俊輔が入ってきた。後ろに彼女の姿は無かった。

「俊輔? あれ、まだ出てなかったの?」
「あぁ、今から行くけど……真奈」
「……?」

「今度また外に連れてく。 梨花、さっさと追い返すから」
「え。……あ、うん」
 戸惑いながらもとりあえず、返事だけはした瞬間。

「しゅんーーー!どこーー!」

 屋敷に響いてるんだろうなーという位、大きな声が聞こえた。

「――――……寝てていいぞ」

 ため息を付きながら俊輔が出ていく。
 扉が閉まってすぐ、ぽーーーとしていたオレは首を傾げた。
 
「……今のって」

 今度また外に連れてく。 
 俊輔……それだけ言いに、来たのかな。
 ――――ほんと、意味わかんない。

 コンコン。 今度はノックの音。返事をすると、西条さんが入ってきた。

「もうすこしで食事ができますから」
「あ、はい」
「たった今、若が外出されました。 遅くなりそうだとおっしゃってました」
「はい」

 ……さっきも、寝てていいぞとか、言ってたけど……。
 ていうか。部屋に戻ってくんのかな?

 ……夜は一緒にって、あの子、言ってたし。
 今日は、俊輔と寝なくてすむのかも、な。今日ていうか、しばらく。彼女が居る間は。

 ……らっきー、だよな……。うん。
 そんな風に心の中で呟きながら。 何となくぼんやりとしながら。テレビの画面を目に写す。
 その後運ばれた夕飯を少しだけ食べて。

 ――――いつの間にか、ソファでウトウトと眠り始めていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇



「――――……な」

 呼ばれた気がして、眉を寄せる。

「真奈」
「ン……?」

 今度ははっきりと、呼ばれた。
 照明の眩しさに耐えつつ目を開けると、俊輔が上から見下ろしていた。

「何でこんなとこで寝てる?」
「――――しゅん す け……? あれ……?」

 起き上がってソファに座り、寝る前の事を思い出して、思わずそう声が出てしまった。

「あれって、何だ?」
「……戻って、きたんだ?」

 その言葉に、一瞬怪訝そうな顔をする俊輔。

「当たり前だろ」
「うん…… だけど」

 何と言えば良いんだか分からず、そこで言葉に詰まっていると、俊輔はふ、とオレをまっすぐ見つめた。

「梨花と過ごすとでも思ってたのか?」
「――――……」

 肯定も否定もせずに、俊輔を見上げると。
 俊輔はふ、と少しだけ笑った。

「まあ……確かに昔は、んな事もしてたけどな」

 あ、やっぱり。
 まあ、やってないと言われても、全然信じられないから、いっそすっきりするけど。……って、だから、何からすっきりしたいんだ、オレは。

 心の中で、自分の思考に突っ込みを入れていると、俊輔がオレを見つめた。

「真奈、さっきのままか」
「……?」

 着ていた上着を脱ぎながら、俊輔が「風呂行くか?」と言う。

 また、一緒に入るって事? そう思うと、ちょっと抵抗は感じるのだけれど。
 ……むやみに逆らうこともないか……。 どーせ、ムダだし。

「うん……」
 そう返して、ソファから立ち上がる。時計に目をやると、二十四時前。

 バスルームに向かおうと歩き出した瞬間。
 「真奈」と名を呼ばれ振り返る。

「ん?」
「――――脱げよ」
「……え?」

「そこで。脱げ」

 なんか嫌な感じでニヤニヤしてる俊輔。
 はあ、と心の中だけで深くため息を付いて。バングルをテーブルの上に置いた。

「……全部?」
「ああ。 脱ぎな」

 言いながら俊輔はソファに腰掛け、まっすぐにこっちを見つめた。

 何か。
 こういうとこは、ほんと全然分からない。

 俊輔って、もしかして、彼女とかにもこういうことさせる人なのかな。
 嫌がらせなのかと思ってたけど。

 ……いやどうだろ。やっぱり嫌がらせなんだろうか。
 いやでも、もともと、そういう趣味が………うん。
 S傾向は顕著だもんな……。 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

愛しいアルファが擬態をやめたら。

フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」 「その言い方ヤメロ」  黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。 ◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。 ◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!

白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿) 絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ アルファ専用風俗店で働くオメガの優。 働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。 それでも、アルファは番たいらしい なぜ、ここまでアルファは番たいのか…… ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです ※長編になるか短編になるかは未定です

溺愛オメガバース

暁 紅蓮
BL
Ωである呉羽皐月(クレハサツキ)と‪α‬である新垣翔(アラガキショウ)の運命の番の出会い物語。 高校1年入学式の時に運命の番である翔と目が合い、発情してしまう。それから番となり、‪α‬である翔はΩの皐月を溺愛していく。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...