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第二章

17.「ムカ?」*真奈

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「……真奈……?」
 キスが解かれて、名前を呼ばれて、重い瞼を開く。

「夕飯、まだだよな?」
「……え?」

 ……こんな時に、何??
 ぼやん、と、聞き返すと。
 
「まだなら、外に行くか?」
「――――……外……?」

 外って? そう思っていると。 

「何度も言わせンな。 食べに出かけるか?」
「え……あ。うん」

 こないだ外には出たけど、暴走族の集会に連れて行かれて、喧嘩に巻き込まれて帰ってきただけだし。
 外で食事なんて、ここに来てから初めてだし。普通に外に行きたいし。……というのは、もちろんあったけど。

 はっきり言って、もうダルくて出たくない、っていう方が今は、強かったのに。

 何か。
 ……笑っては、ないんだけど。

 俊輔が、珍しく優しい顔をしている気がしたから、断れなかった。
 でもそれから中に出されたものを洗い出されて、もうぐったり。
 とにかく、全部のコトが終わって着ろと言われた服を身に着けてから、髪をドライヤーで乾かす。

 良く分かんないけど、ここに来て初めて「俊輔と食事に行く」なんて理由で外に出る事になった。
 疲れ切ってはいたけれど、外で食事なんて本当に久しぶりで、ちょっとワクワク……。

「何か食べたいものはあるか?」

 服を着て少し落ち着いても、熱気ですっかりのぼせたままの頭を、窓を開けて冷ましていると、後ろから俊輔の声がかかる。

「ううん。ほんとに、何でも良い」

「――――……分かった」 

 オレに背を向けて、机の上のスマホに手を伸ばす俊輔の後ろ姿をぼんやりと、見つめる。

「和義? 夕飯、外に出る。真奈も連れていくから車まわしてくれ」

 それだけ言うとすぐに電話を置いて、オレを振り返った。
 
「行くぞ」
「……うん」

 なんかこうして、改めて普通に見ると。
 俊輔って、本当にカッコイイ人だよな……。

 黒のシャツの上からいくつかのボタンを外してて、そこから見えるシルバーのアクセサリーが嫌って位、似合う。
 自分の前に立って歩く俊輔の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、軽く息を付いた。

 そういう事を、客観的に認識してしまうと、ますます分からなくなる。
 自分がここに居る、意味が。

 女に不自由するなんてアリエナイだろうし。
 ……もともと男が好きだったとも、思えないし。

 オレを痛めつけるため、とかも、やっぱりなんか違う気がするし。
 だからといって、愛されてるとかそんな気がする訳じゃないけど。

「和義?」

 ちょうど玄関についた時、西条さんが外から玄関を開けた所だった。


「あ、若……あの――――……」

 言いかけた西条さんの脇からひょい、と、突然顔を覗かせたのは、髪の長い女の子。

 誰? と思った瞬間。
 その子は俊輔の姿を見つけると、途端にぱあっと笑顔になった。

「俊!」

 明るい声が、俊輔を呼んだ。

「……梨花りんか?」

 俊輔が梨花と呼んだ彼女は、駆け寄ってきて俊輔に抱きついた。

「またお前は、連絡もせずにいきなり……」

 俊輔は言いながらも、別にその少女を離そうともせずに、抱きつかれたままそう言った。

「だって。ここんとこずっと俊に会ってなかったから。会いたかったんだもん!」

 甘えるように言って、俊輔にすり寄る。
 
 ――――……ムカ。

「――――……」

 ん? ……ムカ?
 オレは思わず口を手で覆った。

 ……何でムカ、なんだ? 関係ないじゃないか。

 俊輔が誰にくっつかれてデレデレしてようと……。

 そこまで考えて、デレデレなんて表現が出てくること自体、自分がかなりおかしいことに気づく。




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