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第二章

11.「お揃い?」*真奈

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 その時、ふと、俊輔の手の中のモノに目が留まった。

「……ふたつ、あるの?」

 そう聞くと。

「セットで売ってた」

 短くそう答えて、俊輔はオレから視線を外した。

「ふうん。じゃあ、お揃いなんだ?」

 何にも考えずに言った途端。
 顔を上げた俊輔にマジマジと見つめられた。

「え。……何……?」

 オレ今、何か変な事、言った?
 あ。――――……言ったかも……。お揃いなんて、俊輔の柄じゃない気がする……。
 思わず漏れた失言に、内心うろたえていると。

「ペアで何かを持った事、あるか?」
「え? あ。…… 無い、かな」
 
「――――……オレも、ねえな」

 ……ああ。うん。やっぱりそうなんだ、と思う。
 明らかにそういうの、面倒臭いって言いそう……。
 俊輔が誰かとペアルックとか着てたら…… この世の終わりが来そうな気すら、してしまう。

 自分でも妙な事を考えながら、何だかしみじみ納得していると。
 俊輔は黙ったまま、そのバングルに視線を落とした。
 何となく、聞きたくなって。

「――――……それ、どうするの?」

 聞くと、俊輔が、ふと顔をあげてオレを見つめた。

「……あ? なんだ?」
「俊輔は、しないの?」

「―――――……お前、オレとペアにしたいのか?」
「……」

 その物言い。
 ……目をパチパチさせてしまいながら。オレは眉を顰めた。

 何だろう、その言い方。
 ……オレが嫌がるから、しない、みたいな。

「……別に……一個くらい、同じ物持ってても良いような気も……」
「―――――……」

「……デザインが気に入ったから買ったんじゃないの?」

 黙った俊輔に戸惑いつつも、そう言うと。
 俊輔は、片手で前髪を掻き上げて。 そして、ふ、と唇を歪めた。

 ――――……何だろう、その笑い方。
 ますますオレが眉を顰めてしまった瞬間。

 首の下あたりに、ぐい、と手が掛かって、ぽふ、と、背中をベッドに沈められた。

「な――――……」
「……寝ろよ」

 座ったままの俊輔に見下ろされて、唖然としつつも。
 この体勢は、しばし忘れていた、葛藤を思い出させるに十分。

 そうだ、もう、今日は寝た方がいいや。
 無言で頷いたオレが、布団をたぐり寄せて、肩まで持ち上げると。
 俊輔は、オレに背を向けて、立ち上がった。

 俊輔の姿が見えなくなってから。もう一度布団に入り直して。
 ……そっと、目を閉じた。
 
 憎めたら、楽だって、思ってきた。

 意味の分からない、変態だって、ただそう思って、嫌えたら。
 すごく、楽だと、思ってるのに。

 俊輔の不可解な言動が、たまに、何でだか、胸が締め付けられそうに苦しかったりして。
 意味が全然分からない。

 薬を使われずに抱かれて、感覚と記憶が正常に戻って。
 強くなったのが、嫌悪じゃなくて、羞恥心と快感だなんて。

 絶対、おかしい。

 ――――……まるで初めて抱かれるみたいな感覚が、怖かった。
 ただでさえ、全てを浚われそうだったのに。

 気持ちまで、自分の予想できない所へ持って行かれてしまいそうで。
 なんだか、本当に、どう考えたらいいのか分からなくて。
 

 本当に困る。
 

 
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