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第二章
8.「日曜朝」*真奈
しおりを挟む日曜の朝。
「――――……」
目が覚めて、一旦起き上がった。
時間を確認して、俊輔が居ないことも確認して。
――――……そして、すぐにまたベッドに突っ伏した。
「~~~……ッ……」
昨日は突然、暴走族の集会になんて連れて行かれて、最悪だったのだけれど。
……けれど、それより何より、この何とも言えない気分に陥ってる原因は。
その後の、もう慣れてた筈の、俊輔との行為。
最初の時から今までずっと使われていた薬を、何故なのか、俊輔は使わなかった。
正気が飛ぶほどではないにしろ、ある程度の理性とか羞恥とか、そう言う感情が薄れる効果はあったその薬を、使われずに抱かれて。
おかげで、記憶があまりに鮮明で。と言っても最後の方はあんまり覚えてないんだけど、でも感覚だけははっきり残ってる。
「~~~~……ッ……」
枕に突っ伏してしまう。
「……なんか も……無理……」
……どうしよう。
自分がどうなっていたのか、まざまざと思い出せてしまう。
かあっと熱が上がったみたいに顔が熱くなる。
今までも、ああやって抱かれてきたんだということも分かってはいるし、俊輔にとってみれば、特別変わった事も無いのだろうと思おうとしても、自分の内に浮かんでくる羞恥って感情は抑えようがなかった。
自分が抱かれる事に慣れていたのは分かっていたし、慣れないとやってられなかった。けどその慣れも、かなりの部分、薬の作用によるものだと思いたかった部分もあったのに。
昨日のオレって……。
「……」
ぶるっと頭を振って、自分の姿を脳裏から消そうと試みる。
何か違うことを考えようと、努力し始めた瞬間に浮かんだのは。
『オレが死んだ方が、いいんじゃねえの』
『オレが居なくなればお前は自由だろ』
そんな、俊輔の言葉だった。
そりゃ自由になれるのは、嬉しいし。
……こんな生活から抜け出せるのも嬉しい。
正直、こんな生活が一体どれくらい続くのか、考えただけだって憂鬱。
だけど、実際そんなセリフを吐かれたら。
何故だか切なくなって……気付いたら、『死んだ方がいいなんて、思ってない』と、答えていた。
自分が、よく、分からない。
俊輔の事を、憎んでいるのかと、もしも今、聞かれたら。……いまいち、即答出来ない。殺したい位、憎んでいるかと聞かれたら、答えは「No」だと思う。
だけど、こんな生活を強いられて、抱かれる事を強要されて。
……ホントだったら、殺したって飽き足りないくらいのはずなのに。
そこまで俊輔を憎むこともなくて。
薬を使われてもないのに、俊輔の思うまま、とか。自分がまったく理解できない。
自分が俊輔に抱かれて、快感に支配されてしまうのは薬のせいだと、思おうとしてきた。
薬の効果で、だから仕方ないんだと。
なのに。
むしろ、薬を使わなかった方が、快感がはっきりしてしまうなんて、全然嬉しくない誤算だった。
「……俊輔が、悪いんだ……」
思わず声に出してしまう。
あんな風に、抱くから。
まるで女でも抱いてるみたいに。まるで……恋人でも抱くみたいに。
痛めつけるような抱き方をされていれば、こんな風な気持ちには絶対ならないと思うのに。
キスしたり、抱き締めてきたり、名前を呼んできたり…… 頬に、触れたり。
あんなに激しいくせに……たまに、優しいとも取れるようなやり方で、抱かれてしまうと、どうしたって憎みきれなくなってしまう。
ほとんど毎日、裸で抱き合う人間。……しかも、今の自分の世界には、その人間しか存在しない訳で。
……激しく憎み続けるのも、難しい。
「……オレ、女じゃないのに……」
女じゃないし。……性的に魅力があるような、オメガでもない。
俊輔は、男には興味はなかったんだから、オレを抱く理由なんか、無いはずなのに。
大きな、ため息が零れた。
普通の人が欲しがりそうな物、全部持ってるみたいに見えるし。
……オレを、閉じこめてなんかなくても、相手なんか掃いて捨てるほど居そうだし。そうだろうなと思ってたけど、とりあえず昨日の集会だけ見たって、そんな感じだった。
それに多分、こんな風に誰かと一緒に暮らすってことは、俊輔にとってこそ煩わしいものなんじゃないかと思う。そういうの、嫌いそうだもん。
何でオレ、ここに居るんだろ。
どうしてオレを、ここに置いておこうとするんだろう。いつまで?
何でオレは――――…… 普通に、薬も使われずに、素面で抱かれて。
あんな風に、なってしまうんだろう。
自分にも俊輔にも、全然納得がいかない。
ベッドに突っ伏したまま、なかなか起き上がれなかった。
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