上 下
39 / 136
第二章

8.「日曜朝」*真奈

しおりを挟む
 
 日曜の朝。

「――――……」

 目が覚めて、一旦起き上がった。
 時間を確認して、俊輔が居ないことも確認して。

 ――――……そして、すぐにまたベッドに突っ伏した。

「~~~……ッ……」

 昨日は突然、暴走族の集会になんて連れて行かれて、最悪だったのだけれど。
 ……けれど、それより何より、この何とも言えない気分に陥ってる原因は。

 その後の、もう慣れてた筈の、俊輔との行為。
 最初の時から今までずっと使われていた薬を、何故なのか、俊輔は使わなかった。

 正気が飛ぶほどではないにしろ、ある程度の理性とか羞恥とか、そう言う感情が薄れる効果はあったその薬を、使われずに抱かれて。
 おかげで、記憶があまりに鮮明で。と言っても最後の方はあんまり覚えてないんだけど、でも感覚だけははっきり残ってる。

「~~~~……ッ……」

 枕に突っ伏してしまう。

「……なんか も……無理……」

 ……どうしよう。
 自分がどうなっていたのか、まざまざと思い出せてしまう。

 かあっと熱が上がったみたいに顔が熱くなる。
 今までも、ああやって抱かれてきたんだということも分かってはいるし、俊輔にとってみれば、特別変わった事も無いのだろうと思おうとしても、自分の内に浮かんでくる羞恥って感情は抑えようがなかった。

 自分が抱かれる事に慣れていたのは分かっていたし、慣れないとやってられなかった。けどその慣れも、かなりの部分、薬の作用によるものだと思いたかった部分もあったのに。

 昨日のオレって……。

「……」

 ぶるっと頭を振って、自分の姿を脳裏から消そうと試みる。
 何か違うことを考えようと、努力し始めた瞬間に浮かんだのは。

『オレが死んだ方が、いいんじゃねえの』
『オレが居なくなればお前は自由だろ』

 そんな、俊輔の言葉だった。

 そりゃ自由になれるのは、嬉しいし。
 ……こんな生活から抜け出せるのも嬉しい。
 正直、こんな生活が一体どれくらい続くのか、考えただけだって憂鬱。

 だけど、実際そんなセリフを吐かれたら。
 何故だか切なくなって……気付いたら、『死んだ方がいいなんて、思ってない』と、答えていた。

 自分が、よく、分からない。

 俊輔の事を、憎んでいるのかと、もしも今、聞かれたら。……いまいち、即答出来ない。殺したい位、憎んでいるかと聞かれたら、答えは「No」だと思う。

 だけど、こんな生活を強いられて、抱かれる事を強要されて。
 ……ホントだったら、殺したって飽き足りないくらいのはずなのに。

 そこまで俊輔を憎むこともなくて。
 薬を使われてもないのに、俊輔の思うまま、とか。自分がまったく理解できない。

 自分が俊輔に抱かれて、快感に支配されてしまうのは薬のせいだと、思おうとしてきた。
 薬の効果で、だから仕方ないんだと。

 なのに。
 むしろ、薬を使わなかった方が、快感がはっきりしてしまうなんて、全然嬉しくない誤算だった。

「……俊輔が、悪いんだ……」

 思わず声に出してしまう。 

 あんな風に、抱くから。
 まるで女でも抱いてるみたいに。まるで……恋人でも抱くみたいに。

 痛めつけるような抱き方をされていれば、こんな風な気持ちには絶対ならないと思うのに。
 キスしたり、抱き締めてきたり、名前を呼んできたり…… 頬に、触れたり。

 あんなに激しいくせに……たまに、優しいとも取れるようなやり方で、抱かれてしまうと、どうしたって憎みきれなくなってしまう。

 ほとんど毎日、裸で抱き合う人間。……しかも、今の自分の世界には、その人間しか存在しない訳で。
 ……激しく憎み続けるのも、難しい。
 
「……オレ、女じゃないのに……」

 女じゃないし。……性的に魅力があるような、オメガでもない。
 俊輔は、男には興味はなかったんだから、オレを抱く理由なんか、無いはずなのに。
 大きな、ため息が零れた。
 
 普通の人が欲しがりそうな物、全部持ってるみたいに見えるし。
 ……オレを、閉じこめてなんかなくても、相手なんか掃いて捨てるほど居そうだし。そうだろうなと思ってたけど、とりあえず昨日の集会だけ見たって、そんな感じだった。
 それに多分、こんな風に誰かと一緒に暮らすってことは、俊輔にとってこそ煩わしいものなんじゃないかと思う。そういうの、嫌いそうだもん。

 何でオレ、ここに居るんだろ。
 どうしてオレを、ここに置いておこうとするんだろう。いつまで?

 何でオレは――――…… 普通に、薬も使われずに、素面で抱かれて。
 あんな風に、なってしまうんだろう。

 自分にも俊輔にも、全然納得がいかない。

 ベッドに突っ伏したまま、なかなか起き上がれなかった。

 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

三十路のΩ

BL
三十路でΩだと判明した伊織は、騎士団でも屈強な男。Ω的な要素は何一つ無かった。しかし、国の政策で直ぐにでも結婚相手を見つけなければならない。そこで名乗りを上げたのは上司の美形なα団長巴であった。しかし、伊織は断ってしまい

魔導書の守護者は悪役王子を護りたい

Shizukuru
BL
前世、面倒くさがりの姉に無理やり手伝わされて、はまってしまった……BL異世界ゲームアプリ。 召喚された神子(主人公)と協力して世界を護る。その為に必要なのは魔導書(グリモワール)。 この世界のチートアイテムだ。 魔導書との相性が魔法のレベルに影響するため、相性の良い魔導書を皆探し求める。 セラフィーレが僕の名前。メインキャラでも、モブでもない。事故に巻き込まれ、ぼろぼろの魔導書に転生した。 ストーリーで言えば、召喚された神子の秘密のアイテムになるはずだった。 ひょんな事から推しの第二王子が所有者になるとか何のご褒美!? 推しを守って、悪役になんてさせない。好きな人の役に立ちたい。ハッピーエンドにする為に絶対にあきらめない! と、思っていたら……あれ?魔導書から抜けた身体が認識され始めた? 僕……皆に狙われてない? 悪役になるはずの第二王子×魔導書の守護者 ※BLゲームの世界は、女性が少なめの世界です。

風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!

白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿) 絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ アルファ専用風俗店で働くオメガの優。 働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。 それでも、アルファは番たいらしい なぜ、ここまでアルファは番たいのか…… ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです ※長編になるか短編になるかは未定です

あなたの運命の番になれますか?

あんにん
BL
愛されずに育ったΩの男の子が溺愛されるお話

愛され奴隷の幸福論

東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。 伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──…… ◇◇◇◇◇ *本編完結済みです* 筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり) 無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。 体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!

「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店もありだろうか。父の金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。 凛太は自らを欠陥と呼ぶレベルで、Ωの要素がない。ヒートたまにあるけど、不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じない。 なんだろこの人と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。 契約結婚? 期間三年。その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも。お願いします! トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言ってくる。良いです、勉強したいんで! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない。はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに居るんですか?」「さあ……居心地よくない?」「まあいいですけど」そんな日々が続く。ある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、瑛士さんのツテで、参加した講義の先生と話す機会があり、薬を作る話で盛り上がる。先生のところで、Ωの対応や被験をするようになる。夢に少しずつ近づくような。けれどそんな中、今まである抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。とオレ、勉強しなきゃいけないんだけど! という、オレがαに翻弄されまくる話です。ぜひ読んでねー✨ 第12回BL大賞にエントリーしています。 応援頂けたら嬉しいです…✨

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

処理中です...