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第二章

5.「乗せられて」*俊輔

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『今度また真奈ちゃんに会わせろよ。話、してみてえし』

 別れ際の、そんな凌馬の言葉を思い出して、ふと息をつきながら帰途についていると。

「――――……」

 ふと通りかかったアクセサリーショップ。
 目に入ったのは、ショーケースに飾られている、プラチナに、青い石が埋め込まれたバングルだった。

 何気なくて見ていたら、真奈に付けさせたくなってきた。

 凌馬の話に完全に乗せられてるのは分かってて、舌打ちしたい気分。
 ……プレゼントするとか、オレらの間でしたってな……。
 そんな風に思いながら、しばらく見つめていたら、店員に話しかけられた。

「いかがですか? お出ししましょうか?」

 断ろうかと思ったが、なぜなのか。
 
「――――……じゃあ、これを」

 なんとなく、指さして、そう言ってしまった。

「はい」
 笑顔で頷いて、彼女はオレの指さしたバングルを取り出した。
 柔らかそうな布を被せた小さな台にそれを置いて、オレに差し出す。

 ペアの商品なのか、小さめのものと大きめのものが二つ、出された。手に取ると、良い感じの質感が気に入った。

「このベニトアイトの青い石が評判で、特に人気がある商品なんです。それに……」

 延々続きそうな言葉を切って「買っていきます」と告げると、彼女は笑顔で頷いた。

「こちらのバングルはペアの商品ですが、どうされますか?」

「……とりあえず、両方で」

 言うと、にっこり笑った店員が包む準備を始めた。
 勝手に、プレゼントとして包装されていることには気づいたけれど、オレは、何も言わなかった。

 
 ……ペア、か……。

 今までは一度も。そんなもの買おうと考えた事はない。
 というか、そもそもこんなアクセサリーを誰かに付けさせたい、なんて思った事もなかった。

 凌馬に従ってるつもりはないが、結局言われたままに、こんな物を買ってる自分に少し呆れる。
 ……こんなの渡したって、何にもならないと分かっている。
 真奈が望むのは、あそこから出ることだけだろうから。

 綺麗に包装されたそれを持って、珍しく早い時間に屋敷に帰り着いた。

「若?」
 和義が驚いたように、出てきた。

「早いですね、どうかされましたか?」
「別に。凌馬と少し飲んで、あいつが用事があるっつーから、そのまま帰ってたきただけ」
「お食事は?」
「食べた。もうどこにも出ないし、用もないから、、休んでていい」

 そう言うと、和義は、はい、と微笑んだ。
 部屋に入ると、真奈がソファに座って、テレビをつけたまま、何か本を読んでいた。
 
「え。……俊輔?」
 和義だとでも思ったのか、振り返った真奈が、オレを見つけると、驚いたように立ち上がった。

 まあ確かに、真奈が来てから意識的に帰るのを遅くしているので、こんな時間に帰ることは無いから驚くのも当然。

「こんな時間に帰ってくんの、珍しい。どしたの?」
「……別に何もねえよ」

 この部屋で真奈が暮らすようになってから、ベッド以外で一緒に過ごした事は、ほとんどない。あるとして、バスルームくらい。
 大抵朝早く出て、夜遅く帰るから、真奈はいつもベッドに居る。
 夜寝てる真奈を起こして、無理矢理触れる。ただそれだけの毎日で。

 ふと気付くと、この部屋でこんな風に面と向かい合うのは初めてかもしれなかった。

「……飯は? 食ったか?」
「うん。さっき食べた」

 何だか居心地が悪い。真奈も、多分そう思ってるだろう。
 真奈の付けていたテレビが音を発しているからまだ間が保っているような気がする。

「何か、飲む?」
 
 真奈がそう言う。

「コーヒー、入れようかなと思ってたとこなんだけど……」
「……」
「俊輔も飲むなら入れるけど……」
「じゃあ頼む。シャワー浴びてくる」

「あ、うん。じゃあ、入れとくね」

 真奈はそう言うと、台所に向かって歩き出して、コーヒー淹れる準備を始めた。
 お湯を沸かす音が聞こえ始める。オレはさっき買ってきたその紙袋をテーブルの上に置いて、そのままバスルームに向かった。


 真奈と、何を、どう話せば良いのか、全然分からない。

 誕生日すら聞いていないこと、凌馬には呆れられたけれど、それも当然。
 まともに、話なんて、したことがない。




 
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