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第一章
29.「誰かと居る俊輔」*真奈
しおりを挟む……あんな連中に占拠されてたらファミレスも災難。可哀想……。
警察呼ばれないのかな……。いまんとこ、バイクとめてるだけの、ただのお客だから?
そんなことを考えていたら。
「――――……?」
自分を見ている事に気づき、オレはふと俊輔を振り仰いだ。
「……なに?」
「別に。あと少し待ってろ、もうすぐ出るから」
そう言って、歩いていってしまいそうな素振りをされた瞬間。
……またこんな所に置いていくのかよー……。
そう思ってオレが眉を顰めたその表情に気づいたらしい俊輔が、足を止めた。
「……ここにいて欲しいか?」
皮肉気に言って、俊輔がオレを見やる。
ものすごく不本意ながらも、否定しまくって怒らせた上に、こんな所に本気で置き去りにされたら、マジでどうしていいか分からない。
小さく頷くと、俊輔はニヤリと笑った。ゆっくりと歩いて、オレが立っている自分のバイクの脇に並ぶ。
「……族、怖いか?」
「……なんか皆こっち見てるし……」
「ああ……オレのバイクにお前が乗っかってきたから余計かも」
「?……何でそれで見るの?」
俊輔は煙草を口にくわえ、火をつける。一息吐いてから、オレを見やる。
「オレがこのバイクに人乗せてんの初めてだから」
「……」
「女乗せて走る時とかは違うバイク乗ってたからな。男なんか乗せねぇし」
「――――……」
このバイクに誰かを乗せるのが、初めて?
……んー……。
……別に、嬉しくないけど。だけど。……でもなんか。
特別だと、言われているみたいで、何だか悪い気は、しないような。
……だけど、そんなのおかしい、よね。
いっその事 特別じゃなくなれば、オレは元の生活に戻れるかも、しれないんだし。いまいち理解できない自分の、一瞬の感情に、オレはため息を必死に我慢しながら、側に立っている俊輔を見つめた。
煙草を口にくわえたまま、ゆっくりと前髪を掻き上げる姿。
……なんか。絵みたいというか。……こういう写真、雑誌に載ってそう、と思うというか。
周囲の女の子らの視線が俊輔に集まっているのを、何だか不思議な気分で見つめる。
そういえば、屋敷以外で、『誰かと居る俊輔』を、こんな風に見るのは初めてだ。
他の誰かの、俊輔への視線を、こんなに感じたのも、初めて。
オレにとったら、無理矢理オレを閉じこめている 訳の分からない男でしかない筈なのに。
ここの連中にとったら、俊輔は絶対的な、憧れの存在、らしい。
……客観的に見れば、分からなくは、ないけど……。
「――――……んだよ?」
じっと見つめていると、俊輔がふと気づいた。
その言葉に、オレは首を振った。
「別に……」
「あ? 何だ?」
濁そうかと思ったけど、言わないと許されないらしい。
オレは言葉を選びながら、ゆっくりと口を開いた。
「……俊輔の事 外で見たの初めてだから……何か、不思議だっただけ、なんだけど……」
「不思議?」
「……だって、何か…… オレと二人で居る俊輔しか、オレ知らないし」
「――――……」
俊輔は何か答えようとはして。けれどその後何も答えずに、また煙草をくわえた。その時。
「そろそろ出るぞー」
凌馬さんやその仲間がファミレスから出て来て、そう声を掛けた。
一斉に返事をして、三十人近い連中はまた盛り上がる。
……うひゃー……。
超、巻き込まれたくない。……ていうか、何でオレ、ここの中心に居るんだ……。
目眩を起こしそうになっていると。
「……族見んの、初めてか」
口に煙草をくわえたまま、俊輔がオレをチラリと見て、そう聞いてきた。
「うん」
「――――……あそこ、見てみな」
「?」
俊輔に指さされた方向を見やると、どう見ても一般人に見える連中が、少し遠くからこちらを見て、騒いでいた。
「ああやって見学に来る奴ってけっこー居るけど――――…… お前は、ねぇか、そんなの」
――――……見学……物好き……怖くないのかな。
男も女も居るけど、多くの視線が、どうにも異様に存在感のある俊輔と凌馬さんに集中しているような気がする。オレは俊輔を見上げて、首を振った。
「無いよ……」
「……だよな」
一言言って、何が可笑しいのか、俊輔が少しだけ笑った。オレが何か聞く前に、俊輔はバイクを跨った。
「乗れよ」
言われて仕方なく、後ろに乗り込む。
周りは皆ほとんどがノーヘルで。当然のごとく、俊輔も今はつけていない。
……オレは、つけて良いんだよな。つけたらやられるとか、ないよね?
妙な事を、でも少し本気で思いながら、ヘルメットを抱えていると。
「お前はしとけ。……振り落とされたくなかったら、しっかり捕まってろよ」
「――――……」
反射的に、こくこくと頷くと、俊輔はまたニヤリと笑う。
「俊輔、出ようぜ。真奈ちゃんは後ろに乗せてくんだよな?」
「当たり前だろ。このまま乗せていく。つか、それ以外に何があんだよ」
「危ねえから置いてくのかと」
「な訳ねえだろ」
苦笑いの俊輔。
「俊輔はどこら辺に居る? 前来るか?」
笑った凌馬さんに、俊輔は首を軽く振った。
「お遊びの参加だし。オレはてきとーに走ってっから」
「んじゃそのまま海に出るけどいーか?」
「任せる」
「OK。じゃ真奈ちゃん、また目的地でな」
ぽんぽん、とオレの肩を叩いて、凌馬さんが去っていく。
「――――……なんであいつ、真奈ちゃんなんて、呼んでんだ?」
怪訝そうな顔で振り向かれたけれど、オレはただ首を傾げて見せた。
知らない、そんなの……。
勝手に呼ばれてて、オレも不思議なんだから……。
そう思いながら黙っていると、俊輔が前を向きながら。
「走り出すからつかまっとけ」
そう言われて……しがみつくみたいなのは、すごく不本意なんだけど。
さっきの凌馬さんの「危ないから置いてく」とかを聞くと、やっぱり危ないのかと思い。
仕方なく、言われた通り、俊輔にしがみつくことにした。
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