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第一章

24.「もしも」*俊輔

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 しつこい凌馬とその他大勢をやっとの事で振り切ってタクシーを拾い、屋敷に帰った時にはもう一時半を回っていた。

「――――……」
 ベットを覗くと、真奈がぐっすり眠っている。

 明日集会に連れていくのかと思うと……カードなんてやらなければ良かったと後悔するが 後の祭り。
 どうせ族の集会なんて、見たこともないだろうし、嫌がるのは目に見えている。

 シャワーを浴びてバスローブを着ると、冷蔵庫から水を取り出した。
 今日かなり飲んだな……。ひどく酔ったという程ではないが、少しぼーっとする。

 何となく、深く息をついた。

 凌馬に話して、オレは、何がしたかったんだか……。
 何のために、あいつに話したんだ。

 カードなんて、やる前ならいくらでも断れた。本当に話したくないなら。

 ……誰かに話したかったのかもしれない。
 そのくせ、話したのは、真奈と会った時のこととか、今ここに居るとか、ほんの少し。詳しい事は何も話していない。一体何がしたかったんだか。

「――――……」

 歯を磨いて、髪を適当に乾かしてから、ベッドに入った。
 しばらく片肘をついて、一向に起きる気配の無い真奈の寝顔を、ぼんやりと見つめていた。
 すると、不意に寝返りを打って転がって、オレとは反対側を向いた。
 手を伸ばして肩に触れて、自分の方を向かせる。

 今日はこのまま眠ろうかとも思っていたのに、触れたら不意に我慢できなくなってキスを仕掛けた。
 覚醒していない真奈は、小さく呻いて、顔を逸らそうとする。
 それを逃さずにキスをして、その舌を絡め取る。

「ん……?」
 もごもご動いた真奈に、一回唇を解かれる。

「……しゅん、すけ……? 帰った……?……」

 多分まだ寝惚けている。
 眠そうに目を擦っているその手を掴み、押さえつけた。

「……しゅ…… ん、ぅ……」

 名を呼んで開かれた口を塞ぎ、その口内を舌で愛撫する。
 
「ん、んん……」

 刺激すると簡単に漏れる声。
 真奈の着ていたバスローブをはだかせて、その肌に手を這わす。

「……や……ちょ…… 」

 真奈を押さえつけて深く口づける。
 くぐもった喘ぎが続いて、その内もがいていた手が、オレのバスローブを握りしめる。

「――――……ッ……ふ…… っは……」

 こうなったらもう、ほとんど暴れない。

 ベッドの上の媚薬を、少しだけ、口に含むと、そのまま唇を塞いだ。
 媚薬の甘い香りが、鼻を抜けていく。
 
「……ふ……っ……」

 最初の頃は、媚薬を飲みたがらなくて抗っていたけれど、最近では諦めたのか、まったく抵抗しなくなった。
 むしろ、その方が自分が楽だとでも思っているような節もある。

 初めて真奈を抱いた夜。
 オレに対して、無理とか変態とか、散々叫んで暴れてた。
 オレのモノになるって言っただろ、というと、一瞬止まるのだけれど。やっぱり無理、と暴れ出す。
 抵抗を押さえつける為、暴れさせない為に、薬を使った。

 真奈のまっすぐなその瞳が、潤んで力をなくす。 
 そこまで薬が強くはなくても、抱かれるのに慣れてない真奈の体を、強張らせない効能は十分にある気がする。
 より快感を煽るものでもある。

 けれど、それに対して思うことも、いつからか変わってきていて。
 その変化が、まるで意味が分からない。

 薬を使わずに抱いたら、どうなるのか。多分、またひどく抵抗するのかもしれないが。
 そのままで抱きたいと、そう思う自分が、居て。

「――――……しゅん、すけ……」

 自分の体をまさぐる手に、真奈はくぐもった声で、オレの名を呼ぶ。


 最近、よく思う。


 もしも。
 薬を使わなかったら。オレの名を、呼ぶ事はないんだろうか。


 試したくもあるけれど、試したくない気持ちもあって。


 ほんと――――……謎。





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