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第一章

13.「西条さん」2/3*真奈

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「毎日、同じ部屋で過ごしていて、そんなこと、私に聞くまでもないと思うんですが」

 西条さんは、苦笑い。

「……そう、なんですけど……」
「若は何も話さないんですか?」

 何だか頷きにくいなぁと思いながら、でも仕方なく、オレはほんの少しだけ頷いた。
 少しため息をつくとともに、西条さんはオレの側まで近づくと、「そうですよ」と言う。

「今大学三年生です」
「……全然想像がつかなくて。サークルとかも入らなそうだし」
「サークルは確かに入られてないですが、若は普通の学生として過ごされてますよ」
「……やっぱり想像つかないです……」

 ちょっとオレの想像力じゃ無理……。
 友達とかと、どう過ごしてるんだろう。取り巻きが居るのかなあ……??

「……真奈さんにとったら、若は普通ではありませんか?」
「――――……」

 ……頷いていいのか悩みながらも、またオレは小さく頷いた。
 すると、ふ、と笑って、西条さんはオレから視線を外した。
 オレが食べてるテーブルの上に出ていた本を、本棚に戻すために、少し離れていく。

 ……普通な訳ないし。
 暴走族の頭で。かと思えば、半端じゃない金持ちの息子で。
 絶対相手に困ってなんかいないだろうに、男のオレをこんな風にしてさ。意味が分からないし。

 そんな風に考えて、フォークをくわえていると、戻ってきた西条さんと視線が合う。なんだか今日は、聞けそうな気がして、ずっと聞きたかった質問を言ってみることにした。

「……あの……西条さんはどうして、俊輔の秘書みたいな事してるんですか?」
「――――……今日はおかしな事を聞かれますね?」

 そう言って少し笑い、ゆっくりと話し出した。

「そうですね……私の父が若の父君の秘書なんです。その関係から、といえば納得できますか?」
「……あ、はい」
 ああ。何だかひどく納得。
 この親子二代にとって、俊輔と俊輔のお父さんは、圧倒的に「ご主人」な訳かぁ……。

「若を立派な跡継ぎにする事が、私の仕事です」
 凛としたまっすぐな視線。
 ――――……本気でそう思って居るんだろう事は、すごく よく分かる。

 だからこそなおさら。
 当初の西条さんの、オレに対する嫌悪は、理解できた。

 分からないのは、最近の、この態度。
 今まで、用事のやり取りしかしてこなかったけれど、なんだかこの雰囲気だと、もう少し聞けそう……。そう思って、オレは、フォークを置いた。

「西条さん、オレが最初ここに来た時……すごく、反対してましたよね……?」

 ずっと気になっていた事が、さらりと口から流れて、その言葉に西条さんは少し目を大きした。
 それから、少し困ったように眉を顰めながら、頷いた。

「……はい。そうですね」
「オレ……それは、凄く良く分かるんです。……邪魔ですよね、俊輔を立派な跡継ぎにするには、オレって」
「そう、ですね。 最初はそう思っていましたから」
「……最初、は?」

 聞きとがめたオレに、西条さんはますます困った顔をした。

 ……こんな顔もするんだ、この人。
 そんな風に思いながら西条さんを見つめていると、西条さんは「若には内緒ですよ」と、彼らしくないセリフを口にした。オレが頷くと、西条さんはこう言った。

「……良い形かどうかは別として。若はあなたに執着してます。それはお分かりですよね?」
「……」
 ……執着……まあ……意味は分からないけど、確かに……。
 オレが否定はしないで、でも頷きもせずに、西条さんを見つめていると、彼は言葉を続けた。

「若がこんな風に誰かに執着するなんて事は初めてなんですよ。真奈さんにとっては、迷惑かと思いますが」
「――――……」
「若が私からの忠告に、ここまで耳を貸さなかったのは、初めてで」
「――――……」

 そう言うと、西条さんはそっと瞳を伏せて、それからすぐに目を開けてオレを見つめた。

「私からもひとつ質問させていただいてよろしいですか?」
「え。あ、はい」
「真奈さんが最初にここに来た原因となった方ですが」
「はい」
「――――……どういうご関係の方ですか? ただのお友達、ですか?」
「秀人は……友達です」
「クスリが原因でしたよね? 真奈さんと彼に繋がりがあるようには思えないんですが」
「……小学生からの幼馴染で」

 そう言うと、西条さんは少し首を傾げた。

「……幼馴染が困っいてると、暴走族のトップの所に殴り込みされるんですか?」
「あの……殴り込みをしたわけじゃないんですけど……お金で解決できたらと思ってたので……」

「――――……どちらにしても、感心してしまいますね」

 しばらく無言の後、心底感心したように言われて、オレは思わず苦笑いを浮かべてしまう。


 感心されることじゃないよな……。
 ほんとに、やらなきゃよかったと、今は思ってるし。



 
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