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第一章
10.「キス」2/2*俊輔 ※
しおりを挟む真奈は、ゆっくりとひざまずいた。そして、オレのバスローブをゆっくりと開くと、特に躊躇する様子もなく、オレのそれを口に含んだ。
愛撫は辿々しいのに、これまで感じた事が無いくらい――――…興奮する。
初めて抱こうとした時は、真奈は絶対に、死んでも嫌だと言っていた。
快感を煽り、最初はどう考えても、無理矢理だったことを、思い出す。まあ……今でもそれに近いのだが。
「……ん……ん……」
最後は、真奈の口の中で出すと、その口からゆっくりと引き抜く。
小さくむせている真奈の腕を掴み、ぐい、と引き上げた。
「――――……っ?」
見上げてくるその仕草に何も答えずに、そのまま また壁に押し付ける。
「……痛……っ……何……」
途端、抗議するかのように、真奈の瞳が少しきつくなる。その視線がオレを煽る。けれど多分、真奈はそれを知らない。抵抗も許さないまま、真奈の中心に触れる。
「……ぁ……や……!」
何度も何度も抱いてきて。何度も触れてきて。もう知り尽くしているポイントを、焦らす事なく攻めていく。真奈の瞳が簡単に潤み、少し辛そうに、眉根が寄る。
「……あ……ぁあ……っ……」
簡単に声を上げる真奈を、何だかやっぱり――――……可愛い、ような気がする。
「………やだ……ん……っ」
真奈の中に指を差し入れた瞬間。閉じていた瞳を咄嗟に開いて真奈はオレを見上げた。
「あ……ッ…!」
非難している心の声がそのまま聞こえてきそうで、オレは思わず苦笑いを浮かべる。
愛撫を少しくわえると、真奈はぎゅ、と瞳を閉じ、仰け反った。
「……ん…………」
「最後までは――――……やんねえよ……」
「…………っふ……」
「……真奈……?」
オレの声が届いていないらしい。
しがみつかれて、何だかくすぐったい気持ちが、胸に起こる。
――――……今まで、誰に対しても持った事のない気持ち。
「……イけよ」
顔を背けているので、オレのすぐ目の前にある耳に舌を入れる。同時に、愛撫を強めてやった。次の瞬間。
腕の中で真奈が大きく震えて。疲れ果てたように力を失った。慌ててその身体を支える。
「真奈……?」
ぐったりとして身動きもしない。
「――――……」
意識のないのをいいことに。そっとその額にキスをすると。
……オレは、真奈を抱き上げて、バスルームに向かった。
バスタブに真奈を降ろして、シャワーをかける。栓をしてから湯を張りバスバブルを落とした。
「――――……ん……」
時折小さく呻くが、力はまったく感じられない。
手を離したら、そのままズルズルと湯に浸かっていってしまいそうな雰囲気。
仕方なく、着ていたバスローブを脱いで中に入り、真奈を後ろから引き寄せて抱き締める。
「――――……」
しばらくそのまま、湯につかっていたが、ふと気づいた真奈は、ぼんやりとした仕草で手を動かした。
お湯をぼちゃんと波立たせてから、後ろから抱きかかえられている事に気付いたようで、ゆっくりとオレを振り返った。
「俊輔……?」
「……溺れそうだったんだ。仕方ないだろ」
何とも言えない瞳で見つめてくる真奈に、オレは思わず仏頂面で答える。
「……ふぅん…」
真奈は、何を思ったのか。振り返ってオレを見つめたまま、ふ、と瞳を緩めてクスッと笑った。
「……何笑ってる?」
「え。……別に」
それでもまたクスクス笑う。
「真奈?」
オレの声が少し不愉快そうな響きを含んだ事に気づいたらしく、真奈は何とか笑いを収めた。
「――――……俊輔ってさ……」
興味深そうに、じっと見つめながら、真奈が切り出す。
「何だ?」
「たまになんか……優しいよね……」
くす、と笑って。真奈はオレから瞳を逸らした。
「――――……」
オレは、答えなかった。
――――…答えられなかった、という方が、正しい。
こんな風に束縛されて、それでも素直なままの視線をたまに息苦しく感じる。
黙ったままのオレに、真奈はまた視線を戻した。
「……ギャップが激しすぎてよくわかんない……」
笑いを含んだ真奈の台詞に、オレは何も答えず、真奈を引き寄せると、ゆっくりと唇を重ねさせた。
キスくらいではもう、抵抗もしない。
「――――……ん……」
真奈とするキスはやっぱり好きみたいで。
オレは静かに瞳を開けた。
すっかり目を閉じて、大人しくそのキスを受け止めている真奈の長い睫毛に少し胸がざわめく。
その理由をぼんやりと考えたまま、オレもまた、ゆっくりと瞳を伏せた――――…。
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