上 下
10 / 136
第一章

10.「キス」2/2*俊輔 ※

しおりを挟む

 真奈は、ゆっくりとひざまずいた。そして、オレのバスローブをゆっくりと開くと、特に躊躇する様子もなく、オレのそれを口に含んだ。
 愛撫は辿々しいのに、これまで感じた事が無いくらい――――…興奮する。

 初めて抱こうとした時は、真奈は絶対に、死んでも嫌だと言っていた。
 快感を煽り、最初はどう考えても、無理矢理だったことを、思い出す。まあ……今でもそれに近いのだが。

「……ん……ん……」

 最後は、真奈の口の中で出すと、その口からゆっくりと引き抜く。
 小さくむせている真奈の腕を掴み、ぐい、と引き上げた。

「――――……っ?」

 見上げてくるその仕草に何も答えずに、そのまま また壁に押し付ける。

「……痛……っ……何……」

 途端、抗議するかのように、真奈の瞳が少しきつくなる。その視線がオレを煽る。けれど多分、真奈はそれを知らない。抵抗も許さないまま、真奈の中心に触れる。

「……ぁ……や……!」

 何度も何度も抱いてきて。何度も触れてきて。もう知り尽くしているポイントを、焦らす事なく攻めていく。真奈の瞳が簡単に潤み、少し辛そうに、眉根が寄る。

「……あ……ぁあ……っ……」

 簡単に声を上げる真奈を、何だかやっぱり――――……可愛い、ような気がする。

「………やだ……ん……っ」
 
 真奈の中に指を差し入れた瞬間。閉じていた瞳を咄嗟に開いて真奈はオレを見上げた。

「あ……ッ…!」

 非難している心の声がそのまま聞こえてきそうで、オレは思わず苦笑いを浮かべる。
 愛撫を少しくわえると、真奈はぎゅ、と瞳を閉じ、仰け反った。

「……ん…………」
「最後までは――――……やんねえよ……」
「…………っふ……」

「……真奈……?」

 オレの声が届いていないらしい。
 しがみつかれて、何だかくすぐったい気持ちが、胸に起こる。
 ――――……今まで、誰に対しても持った事のない気持ち。

「……イけよ」

 顔を背けているので、オレのすぐ目の前にある耳に舌を入れる。同時に、愛撫を強めてやった。次の瞬間。
 腕の中で真奈が大きく震えて。疲れ果てたように力を失った。慌ててその身体を支える。

「真奈……?」

 ぐったりとして身動きもしない。

「――――……」

 意識のないのをいいことに。そっとその額にキスをすると。
 ……オレは、真奈を抱き上げて、バスルームに向かった。

 バスタブに真奈を降ろして、シャワーをかける。栓をしてから湯を張りバスバブルを落とした。
 

「――――……ん……」

 時折小さく呻くが、力はまったく感じられない。
 手を離したら、そのままズルズルと湯に浸かっていってしまいそうな雰囲気。
 仕方なく、着ていたバスローブを脱いで中に入り、真奈を後ろから引き寄せて抱き締める。


「――――……」

 しばらくそのまま、湯につかっていたが、ふと気づいた真奈は、ぼんやりとした仕草で手を動かした。 
 お湯をぼちゃんと波立たせてから、後ろから抱きかかえられている事に気付いたようで、ゆっくりとオレを振り返った。
 
「俊輔……?」
「……溺れそうだったんだ。仕方ないだろ」

 何とも言えない瞳で見つめてくる真奈に、オレは思わず仏頂面で答える。
 
「……ふぅん…」
 
 真奈は、何を思ったのか。振り返ってオレを見つめたまま、ふ、と瞳を緩めてクスッと笑った。

「……何笑ってる?」
「え。……別に」

 それでもまたクスクス笑う。

「真奈?」

 オレの声が少し不愉快そうな響きを含んだ事に気づいたらしく、真奈は何とか笑いを収めた。
 
「――――……俊輔ってさ……」

 興味深そうに、じっと見つめながら、真奈が切り出す。

「何だ?」
「たまになんか……優しいよね……」

 くす、と笑って。真奈はオレから瞳を逸らした。
 
「――――……」

 オレは、答えなかった。
 ――――…答えられなかった、という方が、正しい。

 こんな風に束縛されて、それでも素直なままの視線をたまに息苦しく感じる。
 黙ったままのオレに、真奈はまた視線を戻した。

「……ギャップが激しすぎてよくわかんない……」

 笑いを含んだ真奈の台詞に、オレは何も答えず、真奈を引き寄せると、ゆっくりと唇を重ねさせた。
 キスくらいではもう、抵抗もしない。
 
「――――……ん……」

 真奈とするキスはやっぱり好きみたいで。
 オレは静かに瞳を開けた。
 
 すっかり目を閉じて、大人しくそのキスを受け止めている真奈の長い睫毛に少し胸がざわめく。


 その理由をぼんやりと考えたまま、オレもまた、ゆっくりと瞳を伏せた――――…。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

三十路のΩ

BL
三十路でΩだと判明した伊織は、騎士団でも屈強な男。Ω的な要素は何一つ無かった。しかし、国の政策で直ぐにでも結婚相手を見つけなければならない。そこで名乗りを上げたのは上司の美形なα団長巴であった。しかし、伊織は断ってしまい

魔導書の守護者は悪役王子を護りたい

Shizukuru
BL
前世、面倒くさがりの姉に無理やり手伝わされて、はまってしまった……BL異世界ゲームアプリ。 召喚された神子(主人公)と協力して世界を護る。その為に必要なのは魔導書(グリモワール)。 この世界のチートアイテムだ。 魔導書との相性が魔法のレベルに影響するため、相性の良い魔導書を皆探し求める。 セラフィーレが僕の名前。メインキャラでも、モブでもない。事故に巻き込まれ、ぼろぼろの魔導書に転生した。 ストーリーで言えば、召喚された神子の秘密のアイテムになるはずだった。 ひょんな事から推しの第二王子が所有者になるとか何のご褒美!? 推しを守って、悪役になんてさせない。好きな人の役に立ちたい。ハッピーエンドにする為に絶対にあきらめない! と、思っていたら……あれ?魔導書から抜けた身体が認識され始めた? 僕……皆に狙われてない? 悪役になるはずの第二王子×魔導書の守護者 ※BLゲームの世界は、女性が少なめの世界です。

風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!

白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿) 絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ アルファ専用風俗店で働くオメガの優。 働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。 それでも、アルファは番たいらしい なぜ、ここまでアルファは番たいのか…… ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです ※長編になるか短編になるかは未定です

あなたの運命の番になれますか?

あんにん
BL
愛されずに育ったΩの男の子が溺愛されるお話

愛され奴隷の幸福論

東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。 伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──…… ◇◇◇◇◇ *本編完結済みです* 筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり) 無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。 体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

処理中です...