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第一章

4.「無理」*真奈 ※

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「――――…」

 嫌味なほどに整ったその顔の造りと、まっすぐに見つめてくるその瞳の強さに、オレは今すぐ逃げてしまいたいような衝動に駆られる。

「――――……なに……」

 すぐ目の前に来た俊輔が、その手をオレの顎にかけ、ぐいと上向かせた。
 オレが百七十センチ弱なのに対し、俊輔は百八十センチを超えてるかな……。
 
 身長差が十センチ以上ある男に上向かされ、少しバランスを崩す。
 自然と、俊輔の胸に、手をついた。
 途端。

「――――……っ……」
 
 いきなり唇を塞がれ、オレは眉を顰めながら、目の前の俊輔を見つめる。


 ……オレ、俊輔と、するまでは。
 ――――……キスって、優しいものだと、思ってたんだけど……。

「……っん……ッ……」

 優しさとかじゃなくて。ただ激しい。
 気持ちいいとか、そういうのを、無理無理、引きずり出されるみたいな。


「……っん、ぅ……」


 零れる喘ぎは、息苦しいだけ――――……そう思いたいんだけど。
 

 俊輔とするキスが――――……。
 最近、最初の頃のように、嫌ではない。

 
 ちがう、嫌でない訳では、ない。

 嫌、なんだけど。
 ただ、最初の頃に激しく感じていた、どうしようもない嫌悪感とかがなくなってきた、と言うべきか。


「……ん……っ」


 どんどん、息と意識と、そして理性を。奪われていく。
 

 無理矢理こんな所で生活させられているのも、大学に行けないのも、全て俊輔のせいで。
 好きな事も自由も、何もかも奪ったのは、俊輔で……。
 

 オレの人生にとって。オレの、心にとって。
 ――――……俊輔は、ただ、邪魔な存在でなければ、ならないと、思うのに。


「――――……ん……っ……ぅ……ん」


 深く深く唇を合わせられ、舌を絡め取られる。

 オレは、ぎゅ、と瞳を閉じた。

 
 俊輔とするキスは。
 ――――……苦しいけれど。


 何でか……力が抜けてしまう。
 
 

「……しゅ……すけ」
 

 オレが、知らず、俊輔の名前を小さく呼んだ瞬間。
 俊輔は、オレを壁に押し付けて、深く口づけたまま、その手でオレの身体の線をなぞり上げた。


「……ん、ん……っ」

 ビクッと震えた身体に、俊輔が喉の奥で笑う。


「……や、だ……」

 大きな手が、胸に這う。ぞく、と


「――――……今日は、も、やめ……」

 制止しようと、胸に這う手に触れる。
 

「……無理……」


 さっきだって、どのくらい抱かれてたのか。
 正直立ってるのも、だるい。……限界。

 
「――――……オレは その気なんだけど?」

 低い声、少し笑いを含んだ声でそう言われる。
 

「……無理……」

 俊輔は、入れてからも長いし。
 シャワーすらだるいのに。もう一度なんて、絶対無理。
 

「――――……何をすれば、オレが許してやるか分かってるだろ?」


 オレの唇に、親指で触れてなぞりながら、俊輔がオレを見下ろす。





 初めて、俊輔に会った時。

 こんなことを、オレに要求してくるなんて。
 本当にかけらも、思わなかった。



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