3 / 136
第一章
3.「分からない」*真奈
しおりを挟む「――――……」
バスルームから出てきた俊輔が、しばらくして、冷蔵庫を閉めた音が微かに聞こえた。
……水、飲みたいな。
喘ぎすぎて、声、枯れてるし。
そんな風に思いながら、でもだるくて起きる気にならなくて目を閉じていると。
少しして俊輔が部屋に入ってきて、ベッドに近づいてくる気配。
なんとなく、そのまま寝たふりを決め込んでいると、ぎし、とベッドが軋んだ。
「――――……」
不意に、唇が塞がれる。
何かと思ったら。合わさった間から、水が流れ込んできた。
ごく、と喉が引くついて。その水を、飲みこむ。
唇が、離れていく中、ゆっくりと瞳を開けたら、俊輔と、目があった。
「……起きてたのか?」
「……今、起きた」
辛うじて、そう答えたら、俊輔は持っていた水のペットボトルの蓋を閉めて、それをオレのすぐ横に放った。
「……ありがと」
水、持ってきてくれたのか………たまに、こういう、なんとなく優しいのかなということをしてくるけど。
――――……ほんと謎で、気まぐれな感じで、正直、よく分からない。
礼を言っても何も答えずに、俊輔はベッドの端に腰かけると、タオルで自分の髪を少し乱暴に拭いた。
綺麗についた筋肉が、バスローブから見える。
顔だけ見てると、全然そんな筋肉質な感じ、しないんだけど……。
……オレ、俊輔に力で敵う気、全然しないもんな。
ただ何となく、ぼうっと見ていると、視線に気付いたらしい俊輔がふとオレに視線を向けた。
「――――……起きたなら、シャワー浴びてこいよ」
命令口調に少しムッとしながらも、逆らう気力もなく小さく頷いた。
……今、だるいけど。
正直、このままもう一度眠りたい、けど。
確かに、相当ぐちゃぐちゃだったし、シャワー、浴びた方が良い。
「……うん」
……行ってこよ……。
そう思って、ペットボトルの蓋を閉める。
俊輔が帰ってくるまではちゃんと着ていたバスローブが、ベッドの下の方に見えたので、それを手に取った。
腕を通そうとしたその時、俊輔の腕がそれを阻止した。
「……何?」
「裸で歩いて行けよ」
「――――……」
訳の分からない、こんな要求を、俊輔はたまにする。
「……何でそんな事……」
言いかけたけど、口を閉ざした。意味なんか、きっとない。
「早くしろよ」
低いけれど、良く通る声。
それが少し強い口調で言葉を吐き出す。
「――――……今更だろ。お前の裸なんか毎晩見てるんだし」
「――――……」
シーツに押しつけていた手を、そこでぎゅっと握り締める。
――――……そういうの、何が楽しいのかな……。
ていうか……なんか楽しい訳でもなさそうだけど。ほんとに良く分からない。
男のオレに、まさかこんなようなことを望んでるとは、夢にも思わなかった。
しかも、オメガならまだ、性的な意味で少しは分かる気もするけれど。
オレはベータだし。
何がしたいんだか、俊輔の行動の意味は全然分からない。
「お前よりオレのが、お前の体、知ってるだろ?」
薄く笑いながら言った俊輔から目を逸らし、唇を噛んだままゆっくりと身体を動かした。
……これ以上は、聞いてる程に、反応する程に、ただこんな時が長く延びるだけ。
逆らっても無駄な事はもうこれまでで十分、思い知らされていた。
バスローブを離し、裸のまま、ベッドから降りる。
「……これで、いいの?」
「――――……あぁ」
ほんと。意味わかんない。
まあ、言われる通り、確かに裸は今更な気がする。
――――……でも、それよりも、こんな必要の無いことを、オレが嫌がると分かっていながら要求する俊輔と、その要求を聞かざるを得ない自分に対して、ため息が漏れそう。
「――――……」
あとほんの数歩でこの部屋を抜けて隣の部屋に行ける。
「真奈」
ギリギリのところで、後ろから俊輔に呼び止められた。
案の定、というか、今度は何を言われるのかという憂鬱さに、うんざりしながら立ち止まった。
「……こっち、向けよ」
「――――……」
ぐ、と息を止めて、そのまま振り返る。
ベッドの端に腰掛けたまま、俊輔がまっすぐに見つめてくる。
身体を見るというよりは、まっすぐに瞳を見つめてくる俊輔に、眉を潜めてしまう。
「――――……何……?」
オレのその声に、はっと我に返ったような顔をした俊輔は、一瞬オレから目を逸らして、なんだか少しだけ、ふと笑った。そしてすぐさまベッドから立ち上がり、オレに向かって歩き出した。
164
お気に入りに追加
1,287
あなたにおすすめの小説
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
三十路のΩ
鱒
BL
三十路でΩだと判明した伊織は、騎士団でも屈強な男。Ω的な要素は何一つ無かった。しかし、国の政策で直ぐにでも結婚相手を見つけなければならない。そこで名乗りを上げたのは上司の美形なα団長巴であった。しかし、伊織は断ってしまい
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
魔導書の守護者は悪役王子を護りたい
Shizukuru
BL
前世、面倒くさがりの姉に無理やり手伝わされて、はまってしまった……BL異世界ゲームアプリ。
召喚された神子(主人公)と協力して世界を護る。その為に必要なのは魔導書(グリモワール)。
この世界のチートアイテムだ。
魔導書との相性が魔法のレベルに影響するため、相性の良い魔導書を皆探し求める。
セラフィーレが僕の名前。メインキャラでも、モブでもない。事故に巻き込まれ、ぼろぼろの魔導書に転生した。
ストーリーで言えば、召喚された神子の秘密のアイテムになるはずだった。
ひょんな事から推しの第二王子が所有者になるとか何のご褒美!?
推しを守って、悪役になんてさせない。好きな人の役に立ちたい。ハッピーエンドにする為に絶対にあきらめない!
と、思っていたら……あれ?魔導書から抜けた身体が認識され始めた?
僕……皆に狙われてない?
悪役になるはずの第二王子×魔導書の守護者
※BLゲームの世界は、女性が少なめの世界です。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」
悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店もありだろうか。父の金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。
凛太は自らを欠陥と呼ぶレベルで、Ωの要素がない。ヒートたまにあるけど、不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じない。
なんだろこの人と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。
契約結婚? 期間三年。その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも。お願いします!
トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言ってくる。良いです、勉強したいんで! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない。はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに居るんですか?」「さあ……居心地よくない?」「まあいいですけど」そんな日々が続く。ある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、瑛士さんのツテで、参加した講義の先生と話す機会があり、薬を作る話で盛り上がる。先生のところで、Ωの対応や被験をするようになる。夢に少しずつ近づくような。けれどそんな中、今まである抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。とオレ、勉強しなきゃいけないんだけど! という、オレがαに翻弄されまくる話です。ぜひ読んでねー✨
第12回BL大賞にエントリーしています。
応援頂けたら嬉しいです…✨
事故つがいの夫は僕を愛さない ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】
カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました!
美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活
(登場人物)
高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。
高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。
(あらすじ)*自己設定ありオメガバース
「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」
ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。
天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。
理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。
天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。
しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。
ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。
表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる