上 下
2 / 136
第一章

2.過去*真奈

しおりを挟む
「――――……ん……」

 失っていた意識を取り戻して、瞳を開ける。
 オレ、倉田 真奈くらた まなは、すぐに自分の状況を認識。  

 ゆっくりと、体を起こした。

 またオレ、落ちたのか……。
 最後のほう、記憶がはっきりしない。

 大きなダブルベッドに、一人、裸のままのオレは、息をついて、もう一度仰向けに寝転がった。

 さっきまでオレを抱いてた――――……俊輔の気配はない。


 ここは、神尾家の、ものすごくでかい屋敷。その中のほんの一室である俊輔の部屋はものすごく広い。
 一般人が通常一軒としてもつような、全ての用途を備えていた。

 ドアから入ってまずリビングの用途の部屋。ここにソファやテレビ、大きなテーブル等が有る。

 ドアから右に進むと本棚がある書斎。少し奥まってベッドルーム。 
 ドアから左の奥にキッチンや、バスルームとトイレへと繋がるドアがあり、それら全てが俊輔専用の物として、置かれている。

 大きな屋敷の外見にも驚いたけれど、モデルルームみたいなこの部屋に初めて入って、ここが俊輔の部屋だと言われた時は、すごく驚いた。

 ここで暮らし始めて二ヶ月も経った今となっては、もう完全に慣れたけど。

 ほんと無駄に金持ちって。
 意味が、分からない……。

 使ってないもんな、この部屋。
 俊輔は料理なんかしないし。朝から夜まで出かけてるから、書斎なんか要らない。
 トイレとシャワーとベッドがあればいいんじゃないの、と、最近は思ってる。


「――――……」
 
 ……俊輔は……シャワーかな……。

 そう思った時、バスルームが開く音が聞こえた。
 その所在を確認、オレは、息をついた。


「――――……だるい…」 

 漏れる声は、掠れている。


 視線を上向けて、枕元にあるライトの淡いオレンジ色を、ただぼうっと見つめて。
 しばらくしてから、その横の時計を確認した。

 午前三時を回っていた。


「――――……」

 自分が意識を失っていた時間がどれくらいなのか何となく考える。
 外出から帰ってきた俊輔がいつも通りオレに触れたのが、二十三時頃だったような気がする。

 
 今夜は、どれくらい、抱かれてたんだろ……。
 ……二時間、くらいかな。


 ほんと、あの絶倫男……。

 使いすぎで、使えなくなっちまえば良いのにな……。


 乱れている前髪を掻き上げながら、心の中で悪態をついて。
 オレはそっと瞳を閉じた。



 オレは今、大学二年生。ごく一般的な性の、ベータだ。
 ほんの二か月前までは、普通に大学に通う、ごくごく普通の学生だった。


 今から二年前、オレが高校二年生の時。オメガの母が、病気で亡くなった。

 亡くなる少し前に、衝撃の告白。
 死んだと聞かされていた父親が、生きてると、母に打ち明けられた。

 アルファの父は、奥さんが居る人だから、戸籍上は父親じゃない。
 でも、母さんはずっと会っていたらしくて。援助も受けていたらしい。

 それを聞いて、色々、納得した。

 父さんの保険金があるからといっていたけれど、病弱であまり働けない母との生活で、全くお金に困ることがなかった理由がそういうことだと知って、むしろそうだったんだ、と納得した。

 母さんが生きてる間に、アルファの父に引き合わされて。
 今後も引き続き支援すると約束してくれた。

 その後しばらくして、母さんが亡くなったことを連絡したら、父は約束通り、オレのところに現れて。

 住むマンションと、かなりの額のお金を、用立ててくれて、足りなければ連絡してと言っていた。

 どれだけ金持ちなんだろう、と思ったら。
 ネットで検索すれば、即、名前が出るような、有名な企業の、やり手の社長だった。
 祖父の代からある会社を、自分の代で、トップ企業に押し上げた人。

 オレが会いたくなると可哀想だからと、いっそ死んだことにさせてと頼んだのは、母さんらしいし。
 あの父と母さんの間に、どんないきさつがあって、そういう関係になったのかは聞かなかったけど。

 父が母さんをそれなりに愛していたのは。葬式の時の姿を見ていたら、本当かなと思えた。だからこそ、ずっと、援助も続けてくれていたのだと思えたから、特別な反発は感じなかった。

 父親として愛せるかと言ったら、それはなんだか全然別の話だったけど、とりあえず、学生の内だけはお世話になることに決めた。
 意地を張っても仕方ないし。


 でも、割り切って考えてはいたと言っても。
 二人きりで生きてきた母が、亡くなって、一人になってしまって。

 父という存在がいることは分かって、援助もしてくれたけれど、一緒に生きていくわけではない。

 そういう点では、一人になったということに、変わりはなかった。

 住むところも変わり、一人暮らしを始めて。
 オレ的には、激動の一年だった。

 高三になって、大分落ち着いて、受験勉強に没頭して、無事合格。
 一年を無事に過ごして、大学二年生。生活のリズムもできてきた。


 そんな時、だった。
 ――――……俊輔に、会ったのは。



「――――……」



 目を閉じて、浮かぶのは、初めて会った時の、俊輔の言葉。


『お前がオレのものになるなら、その願い、聞いてやる』


 突然、俊輔にそう言われた時は。
 まさか、こんな事になるとは、思ってなかったっけ……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

三十路のΩ

BL
三十路でΩだと判明した伊織は、騎士団でも屈強な男。Ω的な要素は何一つ無かった。しかし、国の政策で直ぐにでも結婚相手を見つけなければならない。そこで名乗りを上げたのは上司の美形なα団長巴であった。しかし、伊織は断ってしまい

風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!

白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿) 絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ アルファ専用風俗店で働くオメガの優。 働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。 それでも、アルファは番たいらしい なぜ、ここまでアルファは番たいのか…… ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです ※長編になるか短編になるかは未定です

あなたの運命の番になれますか?

あんにん
BL
愛されずに育ったΩの男の子が溺愛されるお話

魔導書の守護者は悪役王子を護りたい

Shizukuru
BL
前世、面倒くさがりの姉に無理やり手伝わされて、はまってしまった……BL異世界ゲームアプリ。 召喚された神子(主人公)と協力して世界を護る。その為に必要なのは魔導書(グリモワール)。 この世界のチートアイテムだ。 魔導書との相性が魔法のレベルに影響するため、相性の良い魔導書を皆探し求める。 セラフィーレが僕の名前。メインキャラでも、モブでもない。事故に巻き込まれ、ぼろぼろの魔導書に転生した。 ストーリーで言えば、召喚された神子の秘密のアイテムになるはずだった。 ひょんな事から推しの第二王子が所有者になるとか何のご褒美!? 推しを守って、悪役になんてさせない。好きな人の役に立ちたい。ハッピーエンドにする為に絶対にあきらめない! と、思っていたら……あれ?魔導書から抜けた身体が認識され始めた? 僕……皆に狙われてない? 悪役になるはずの第二王子×魔導書の守護者 ※BLゲームの世界は、女性が少なめの世界です。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店もありだろうか。父の金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。 凛太は自らを欠陥と呼ぶレベルで、Ωの要素がない。ヒートたまにあるけど、不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じない。 なんだろこの人と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。 契約結婚? 期間三年。その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも。お願いします! トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言ってくる。良いです、勉強したいんで! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない。はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに居るんですか?」「さあ……居心地よくない?」「まあいいですけど」そんな日々が続く。ある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、瑛士さんのツテで、参加した講義の先生と話す機会があり、薬を作る話で盛り上がる。先生のところで、Ωの対応や被験をするようになる。夢に少しずつ近づくような。けれどそんな中、今まである抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。とオレ、勉強しなきゃいけないんだけど! という、オレがαに翻弄されまくる話です。ぜひ読んでねー✨ 第12回BL大賞にエントリーしています。 応援頂けたら嬉しいです…✨

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

処理中です...