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「世界が」*湊
しおりを挟むやっとやっと、今日1日の授業が終わった。
いつもより1時間早く終わっているというのに、「やっとやっと」と思ってしまうのは。 今から、司の高校に行くから。
司がいつも通ってる高校を見れるのが、楽しみ。
……司に会えるのが、楽しみ。
ホームルームが終わって、鞄を持って歩き始めようとした時。
「久住ー」
名を呼ばれて、振り返ると。
6人位の男女が固まってて。湊を見ていた。
……少し、苦手な光景。囲まれるの、苦手。
その中で湊を呼んだのは、昨日少し話をした、大川 行成。
「……?」
「あのさ、今日早く終わったからさ、何か食べに行こうかっていってるんだけど……お前も行く?」
「え?」
食べに行く? オレも?
「あ、嫌?」
大川がそう言うので、咄嗟に、首を振った。
「ううん。嫌じゃないんだけど……今日、用事があって」
「あ、嫌じゃないんだ?」
大川は、クスっと笑った。
「え。 うん……」
どんな質問……?
首を傾げてしまうと。
「ほら。久住、嫌じゃないって」
大川が言うと、少し離れてこっちを見ていたクラスメート達が近くに寄ってきた。なんか、囲まれてしまって、ドキドキしてしまう。
「ほんとに? 久住くん、全然普段喋ってくんないじゃん」
「オレらに興味無さそうだし?」
「嫌なら嫌って言った方が、いいと思うけど」
次から次に言われて、一瞬黙る。
でも。
――――……何だか、司の、笑顔が、頭にぱ、と浮かんで。
そしたら――――…… いつもは、息が吸えなくなるのに。
今日は、すう、と息を吸えて。 声が、出せた。
「オレ、喋るの、あんまり得意じゃなくて――――……」
そう言ったら、皆、急に黙った。
「……でも、興味ないとかじゃなくて…… 人は、好き、だし……」
あ。好きとか言っちゃった。
失言……? 全然しゃべった事もないのに、おかしな事言った?
思わず口元を手で隠した。恥ずかしくなって俯くと。
大川が、あは、と笑った。
「ほら、興味ないとかじゃないって。 昨日喋って、そう思ったんだよなー」
大川の言葉に、周りは、うーん?と考えてるみたいな雰囲気。
そりゃそうだよね、オレ、この人達と、ほぼ初めて向かい合うし。
「――――……お前、オレらに興味、あんの?」
大川の言葉に、隣の黒木志門が、首を傾げながら、まっすぐ聞いてくる。
「う、ん」
頷くと。更にまっすぐ、黒木に聞かれる。
「何? しゃべるの苦手なの? 何で?」
「……早く、しゃべれない、から」
言うと、隣に居た臼井 雛子が、うわー、と声を上げた。
「久住君、めっちゃ……可愛い。なんか、萌える~」
「っ???」
「もともとめっちゃお顔、綺麗なんだよねー。冷めてるのかと思ってたら、喋るの苦手とか。 …………可愛いんだけどー!」
するりと腕に触れられて、オレが引いてると、大川が、その手を払ってくれた。
「急に触るなっての。そんなタイプじゃねーの分かるだろ、雛子」
「あ、ごめんーだって、突然めっちゃ可愛いんだもーん」
「???」
もう対処不能。
思わず、後ずさると、黒木が、「久住が怯えてるからやめろ」と臼井に言って。ぷ、と笑った。
すると、周りの皆も、面白そうに笑い出した。
「――――……今日は、用事があんの?」
黒木が、まっすぐ聞いてくる。
「うん」
「何の用事?」
「人に、本を貸しに行く」
「本?」
「うん。好きな本、貸してって、言われて――――……」
司に貸さないと。
ふ、と司が浮かんで。思わず笑顔になった瞬間。
「なんかお前が笑うの初めて見た」
黒木の言葉に、大川が、「オレは昨日見たもんねー」と、良く分からない自慢をしている。「は?うざ」と、黒木。
「あ、約束してるならいいよ、行って。悪い、呼び止めて」
大川が言ってくれたので、うん、と頷いて、鞄を持つ。
「明日、またな」
黒木に言われて。うん、と頷くと。
「久住君、明日めっちゃしゃべろうねー」
臼井が言う。
明日、めっちゃ……?
思わずちょっと首を傾げてしまいながら、かろうじて頷くと。
臼井の周りが、「めっちゃ怯えてる……」と言って、おかしそうに笑ってる。
「じゃな、久住、バイバイ」
大川の声に、頷いて、教室を出た。
なんか。
オレ、今、少し――――……普通に、話せた、かも。
言葉に詰まらないで。息も、吸えて。
……なんか。すごく。ドキドキ、する。
なんか――――……司を好きって。
オレ、すごい、幸せで。
……なんか――――……
司が好きだって言ってくれると。
司の笑った顔、思い出すと。
なんか、勇気、というか。
――――……励まされる、というか。
嬉しくなると、いうか。
急いで、昇降口で靴を履き替え、少し走り出す。
なんか――――……。
司を好きって気持ちがあること。
司が好きって、言ってくれること。
――――……ただそれだけで。こんなに、
世界が、明るく綺麗に見える、気がして。
早く司に会いたくて。
走り出した。
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