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「幸せなこと」*湊

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 塾が終わって、外に出てすぐにスマホの電源を入れた。


『部活終わって今から帰るよ。塾から出たら、電話して』

 司から入っていたメッセージ。
 ――――……ふ、と微笑んでしまう。

 司に向けて発信すると、待っていてくれたかのように、すぐに電話に出てくれた。

『おつかれ、湊』

 優しくて明るい声に、心底、ほっとする。

 
「うん。司も部活お疲れ」
『ん。湊、いまどこ?』

「今、塾出たとこだよ」

『そっか。勉強めっちゃしてきた?』
「んーまあ……」

 ……嘘。めっちゃ勉強、は、出来てない。

 ……司の事ばっかり考えてて。 引き締めて勉強に戻って。
 またぼうっとして。を繰り返してきてしまった。


『オレ、さっき湊と別れてジョギングから学校戻ってさ。すぐ颯太に、恋人になったって言ったんだよ』
「もう、言ったの?」

『だって嬉しくってさ。学校についたら、颯太のとこ走ってって、そのまますぐ話した』
「――――……そうなんだ……」

 そんなに、嬉しくて、とか、言ってくれるの。
 こっちの方が、嬉しい。

「オレも……あとで、2人に話すね」
『ん。――――……なあ、湊?』
「ん?」

『……オレらさ』
「うん?」

『これからさ、色々心配な事も、あるかもしれないけどさ』
「……うん」


『――――……何かあったら、すぐ、ちゃんと話そう?』
「――――……」

『不安な事とか、不満とかあったらさ……ちゃんとお互い言おうな?』
「……うん」

『ちゃんと、話して――――……ずっと、一緒に居よ?』
「……うん」

 ……なんかすごく、司らしい。 
 ほんと。――――……話してると、胸の中、あったかくなる。

「司、あのさ」
『ん?』

「――――……オレ、明日、授業が1時間早く終わるんだけど……」
『うん』

「そっちの学校の前にさ」
『うん?』

「本、持ってってもいい?」
『あ、本、貸してくれるの?』

「うん。渡したらすぐ帰るから。目立たなそうなとこに立ってるし」
『すぐ帰らなくていいよ。大丈夫な時間まで話そうていうか、正門の真ん前で待ってて』
「――――……うん。でもちょっと離れてるね。違う制服目立つし」
『いいよ。目立ってて』
「何、それ……」

 微笑んでしまう。


 司と話してると――――……戸惑う事が多かったけど。

 好き、と認めてから。
 戸惑ってたすべてが、「好き」って想いから来てたんだって分かって。

 戸惑いが、無くなったおかげで。
 なんかすごくまっすぐ、思う事を、受け止められる気がする。


 素直に、嬉しいとか、
 素直に、会いたいとか、

 素直に――――……好きだなぁ、とか。



 そう思っても、いいんだって思えて。
 なんかすごく、幸せな事な、気がする。




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