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「恋人に」*湊
しおりを挟む「……司」
「ん?」
呼ぶと、にこ、と笑ってオレを見つめる。
「……オレ、司が――――……好き」
「ん?――――……湊?」
「……オレ、今まで、そういう意味で、人好きになった事、なくて」
「――――……」
「……だからなんか、よく分からない、って、思うんだけど……」
「――――……だけど?」
「……司の事、ほんとに……好きって、思うから……」
「……だから?」
「――――……恋人に……なってって言ってくれたの……すごい嬉しいから」
「――――……」
オレは、じっと司を見つめた。
「よく分からないくせに……恋人になりたいって言ったら……ダメ?」
「――――……」
「昨日からそう思ってたんだけど……ちゃんと分かってからの方が良いかな……とも思って…… でも、やっぱり、オレ……司の事、すごい好きだから……待っててって言うのも、何か、違う気がして」
司がきょとん、としてるので。
そう付け加えてたら。
急に肩を掴まれて、引き寄せられて、ぎゅ、と抱き締められてしまった。
「……っ」
「……ダメな訳ないじゃん。 だってそれってただ経験ないから分かんないって言ってるだけで……オレの事、すっごく好きって事だろ? 恋人になりたいって、湊、思うんだろ?」
「……うん」
「じゃあ――――…… オレ達、今から、恋人同士、な?」
「……うん」
最後にぎゅ、と抱き締められて。
ぱ、と離された。
「……キスは我慢する。外だから」
言われて、何も答えられない。
「――――……湊が、初めてそういう風に好きかもって、なってくれてる訳だしさ。 ……ゆっくり、付き合お?」
「……それでいいの?」
「良いに決まってるだろ」
「――――……ありがと、司」
「こっちこそだよ。ありがとな、湊」
嬉しそうに言ってくれる司。
「……司」
「ん?」
「もう、行かないといけない?」
「――――……んー。でも、もう少し、居る」
言って、ふ、と微笑んでくれる。
「――――……少しだけ、聞いてくれる?」
「うん。なに?」
じっとオレを見つめて、笑顔。
「……今日オレ、クラスの奴と、すこし話したんだ」
「ん?」
「……話しかけられる用事があって…… 普段だと、頷いて終わりなんだけど…… 司が昨日、話してみなって言ってくれたから」
「それで?」
「すこし話したら……――…… 久住、普通に話すんだなって、笑ってくれてさ」
自分の中では、結構大きな事で。司に伝えてみたのだけれど。
話しながら途中で、こんな話、あと少ししかいられない司に話すほどの事じゃなかったかな。特に司みたいに、誰とでも話せる人にとったら全然普通の事かも……。
……なんて、思ってしまった次の瞬間だった。
「湊」
くす、と嬉しそうに笑った司が、オレの頭をよしよし、と撫でた。
「えらい。頑張ったな、湊」
「――――……」
めちゃくちゃ優しい笑顔で言われてしまって。
どき、と胸が震える。
「あ。頑張ったってのもおかしい?」
言った司に、首を横に振って。
「……ありがと、司」
……大好きだなあ、司。
そんな風に思って見つめると。
「――――……みなとー……」
ぐりぐりと頭を撫でてきて。司は苦笑い。
「……可愛すぎて困るし、湊…… そんな顔で見ないで」
クスクス笑いながら、そんな事を言ってて。
「はー。仕方ない、行くか……」
ふ、と息を付いてから、司が立ちあがる。
「湊、また後で連絡する。塾頑張って」
「司も。サッカー頑張って」
「ん! じゃあな。塾帰り、気をつけろよ?」
「うん」
司が、いつものように、軽やかに走り去っていく。
それを見えなくなるまで、見送って。
ゆっくりと歩き出す。
司と、恋人か……。
……やっぱり、嬉しいな。
……あとで、さとると晃に、連絡しよ。
昨日の今日で…… 何て言われるかなぁ……。
なんて思いながら。
塾に向かう足取りも、自然と、軽くなった。
(2021/11/29)
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