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「好き」*湊

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 昨日の今日で、司に、会う。
 さっき、スマホに、司からメッセージが入ってた。

 これから部活始まるから、準備運動終わったら行くから。

 川を見つめながら、ものすごくドキドキ、してる。


 ……好きなんて言ってしまって。
 ………恋人になりたいなんて言われて。

 キスしてしまった人と。
 次に会う時って、どんな顔すればいいんだ。


 未経験すぎて、正解が分からない。


 完全に普通の顔で、今まで通りの顔でいいのか。
 ――――……昨日はどうも、みたいな顔で居たらいいのか。って、それはどんな顔なんだ……。分からない。


 どうしよう。
 ほんとに、どうしよう。


 どうしようを何回も心の中で、唱えていたら。


 階段を下りて近づいてくる足音。


「湊」

 いつもの、聞きなれた、声。

 振り返ると、司が嬉しそうに笑いながら、近づいてきて。
 隣に、腰かけた。

「司……」

 どうしようと思っていたのに。
 顔を見たら、自然と、笑みがこぼれた。

「……湊」

 不意に、司が、クシャクシャと、オレの髪に触れる。


「……可愛い、お前」
「――――……っ」

「オレに会えて、嬉しいって顔してる気がする」

 そんな台詞に赤くなってしまう。


「……ほんと、可愛い」

 ふに、と頬をつままれて、離される。
 司はそのまま、膝の上に、かく、と顔を埋めた。


「……つかさ?」
「――――……どーしよ、オレ」
「……?」

「……抱き締めたい」
「…………っ」


「……て、こんなとこで、無理なの分かってんだけど…」

 膝に埋めてた顔を少しだけ起こして、オレの方を見つめてくる。


「……オレ、やっぱ、湊が好き」
「…………つ、かさ」
「……ん?」

「…………オレ、も……好き、だけど」
「けど?」

「……っ…普通に次々言われるの、無理」
「――――……」


 司は、しばらくオレを見つめて。
 それから、クスクス笑った。

「……ごめん。 ……つか、『オレも好き』とかさ。可愛くてしょーがないんだけど、湊……」

 また、ナデナデと頭を撫でられる。

「これ位はいいよな……?」

 優しい手に、つい、ふ、と笑ってしまう。
 すると、司は、手を離して、また、膝に埋まった。

「……何、そんな風に笑うかな。 キスしたくなっちゃうじゃんか」
「っだから……そういうのほんと……オレ、ついてけないから……」

 オレも、膝に突っ伏した。
 真似した訳じゃないんだけど、そこしか隠れる所が無い。

「あ。悪い。……つか、何オレら2人で膝にうまってんだろ」

 クスクス笑いながら言って、司が背中をポンポン、と撫でてくれる。


「あ。そうだ、湊」
「……?」

「昨日さ、一番仲の良い奴には話しとくって、オレ言ったろ?」
「……うん」

「今日、話しといたから」
「――――……」

新田颯太にった そうたって名前。 颯太って覚えといて。幼稚園からの幼馴染で、一緒にずっとサッカーやってる奴だよ」
「……今日、もう……話してくれたんだ」

「オレがすっげー今日浮かれてたら、突っ込まれてさ。 そのまま話したよ」

 ふ、と笑う司に。


「……大丈夫、だった?」

 心配で、聞くと。
 司は、にっこり笑った。

「全然大丈夫。湊があの2人を信頼してるのと多分同じ位、オレも颯太、信頼してるから話したし。――――…応援してくれるってさ」
「――――…」

「……って、ちゃんと湊の返事待ちって事も言ってあるからな」

 にっこり笑ってそう言って。
 その言葉に、ものすごく何か引っかかってるオレには気づかずに、司は続ける。

「湊、今度、颯太にも会ってよ。 会わせるって言っといたから。……絶対惚れんなよっても言ったけど」

「――――…」

 ……何言ってるんだろう、この人は。
 思わず真顔で司を見つめると。

 司は、クッと笑いだした。

「なんつー顔で見んだよ」

 ぽふぽふ、と頭をまた撫でてくる。


「……とりあえず、オレらの事、お互いの幼馴染には公認な?」


 ……何の曇りもない、眩しい笑顔。
 そんな笑顔で、そんなこと、言われると。



 もう、大好きとしか――――…思えない。





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