【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 －ゆっくり恋する毎日－

「キス…」＊湊

「ただいま」

　玄関でそう言うと、母さんが出迎えてくれる。

「お帰り湊。楽しかった？」
　聞かれて。

「うん、楽しかったよ」

　と、頷く。

「いつも塾で遊びに行けないから。お休みで、良かったね」
「うん。……お風呂、入るね」

　言葉少なく、荷物を部屋に置いてから、バスルームに閉じこもる。


「――――……」

　シャワーを浴びながら、唇に、手の甲を押し当てる。


　……キス。
　してしまった。


　司と。

　思い出すだけで、顔に血がのぼる。


　しかもその前に、オレ。
　急に、好きだとか伝えてしまった。

　司が言ってくれた、あの言葉。

「……別に、早く話す必要なんかないだろ」
「大丈夫だよ、湊。　オレは湊と話すのが好きだし、楽しいよ。すこし黙っても、それを待ってくれない奴なんかと話さなくていいよ。　待ってくれる奴、きっといっぱい居るからさ。話してみろよ。苦手とか、思わなくなるからさ」


　今までもずっと、司の事、好きだなと思ってたけど。　

　この言葉を聞いてたら。

　――――……司がすごく優しいのとか。前向きなのとか。
　あったかい感じとか。


　なんかもう。
　我慢できなくなって、好きって言ってしまった。


　そしたら。
　キスされて。

「……っっ……」


　まさか。
　キスされるなんて思わなかったから。
　びっくり、しすぎたんだけど。

　……嫌じゃなさ過ぎて、またびっくりした。
　家の前で、司が最後に言ったのは。


「湊が、オレの事好きって言ってくれたのがすごい嬉しい。ありがとな」


　その言葉を、本当に嬉しそうに笑って言った。

　最後にオレの髪をクシャクシャ撫でて、司は帰っていった。


　もう。
　――――……嬉しいのは、こっちの方で。


　どうしてあんなに、キラキラしてて誰にでも好かれそうな司がオレを好きなんだろ、と思うんだけど。司があんな風に笑って、あんな風に言ってくれるなら、信じてみようかなと思ってしまう。

　今日、初めてあんなに長く一緒に居た。
　晴れた日に河原で話す時間なんて、1日に少し。長くても1０分前後とかそんな感じ。
　今までの時間、トータルしたって、そんなに多くない。

　なのに、こんなに司を信じてる、自分が不思議。


　どうしよう。うーーーー……。
　――――……ますます勉強できなそうな気がする。


　混乱状態でシャワーを浴び終えて部屋に戻ったら、スマホが音を立てた。

　晃とさとるとの画面に、さとるから「湊、どうだった？」と入ってきていた。

　なんて入れよう。
　……どうしよう。

　一瞬迷ったけれど、相談したんだからちゃんと話そう、と思って。

　まず「楽しかった」と、入れた。
「よかったね」と、さとるからすぐに入ってきた。

「……好きだと思って、そう言っちゃって」
『え？？』

「そしたら、キスされて……　恋人になりたい好きだって、言われた」
『ちょっと待って、湊、待って』

　その時、晃の既読もついて。
　次の瞬間、さとるから、ビデオ通話がかかってきた。

　通話に参加すると、すぐに2人の顔が映る。

『ちょっと湊、何なの、進むの速すぎ』

　さとるがわーわー騒いでる。
　その後、晃から。

『湊はどういう意味で言ったんだ？　好きって』

　そう聞かれて、また少し考える。

「……ただ、好き、て思って、そのまま言っちゃって」
『意味分からず？』

「……うん」

『まあ、ほんとに好きなんだろうね』


　さとるがクスクス笑ってる。