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「どきどきデート」*湊
しおりを挟む塾が休みだから、川に行けないと伝えたら、会おうと誘われた。
でも、どうしていいか分からなくて。 さとると晃にラインした。
そしたら、2人共から、「嫌じゃないなら、いっておいで」と言われて。
迷った末、どこで会うのか聞いたら、
「オレは湊と会えればいいから……湊、近場だとどこがいい?」
なんて返事が即返ってきた。
湊と、会えればいいって。
なんで司って、そういう事、言うのかな。
会ってからずっと、そういう事、言われ続けてる気がするけど。
何が楽しいんだろうか。オレと会って。
それでもやっぱり、不思議な位に 嬉しくて。そわそわしながら時を過ごした。司は6時間目まであるだろうから、すごくのんびり学校を出て、ゆっくり歩いて、いつもの場所に腰かけた。
ここで、ペットボトルが落ちてきて、拾って。
それから、司と話すようになって――――……それだけでも不思議なのに。
――――……なんで、一緒に出掛けるんだろ。
いつも通りの、キレイな空と川を眺めながら。
司をただ待ってるこの時間が、不思議。
「……湊!」
「あ。司――――……」
めちゃくちゃ速く走ってきた司に気付いて立ち上がったと同時に、抱き締められてしまった。
「……ちょ――――……と……」
びっくりして、顔が熱くなって。
ちょっと、距離を離した。
めちゃくちゃ速く走ってきた理由を、「早く、会いたかったから」という。
ほんとに。
――――……キラキラして見える。
会った時から。そう思ってたけど。最近はますます、そう思う。
一緒に歩いて電車に乗った。
上のつり革に手を伸ばして、つかまったまま、オレを見下ろしてくるその感じ。なんかほんと――――……良い男だなと思う。
いつもはトレーニングウエアだけど、今日は、おしゃれで有名な、制服。
こないだ偶然店であった時も見たけど――――…… ちゃんと立って全身見えると、ほんと、スタイル良いのがよく分かる。
足、長いな。ウエストの位置が高い。
上から2つ外してるボタンも。ちょっと着崩してる感じが良い感じ。
でも別にだらしない訳じゃない。
……カッコイイよな。司って。
「――――……湊?」
「ん?」
「……オレの制服姿、見慣れない?」
クスっと笑って、見下ろされる。
見慣れない。
見慣れてないっていうか――――…… カッコよくて、見てただけ。
なんてまさか言えないので、その質問に、うん、とだけ答えた。
◇ ◇ ◇ ◇
さとるや晃とよく来た街。
この辺であの時間からってなったら、この街が一番近い。
少し久しぶりだから。
それとも、司と来たからなのか。
何だか、すこし、ドキドキする。
司が買ってきてくれたクレープを食べてると。
女の子に話しかけられて。
司は、笑顔で、女の子たちが気を悪くしないような、優しい感じで。
でも、はっきり断ってくれてた。
残念そうな女子達の気持ち、分かる。なんて思っていたら。
その後も色んな店を覗きながら、商店街を進んでいくのだけれど、ことあるごとに、何回か声かけられてて。
「……司」
「ん?」
「……いつもこんなに声かけられる?」
「湊と2人だから余計じゃないかなと思ってるけど……制服違う2人組って目立つだろうし。 湊も目立つし」
「……制服はそうかもだけど……」
「まあ今日はほんとによく声かけられるね」
苦笑いしながら、肩を竦めてる。
「司、断るの慣れてる?」
「え。オレ、慣れてないよ、めっちゃ労力使ってる」
「疲れた?」
「うん」
「……そうなんだ」
「……しかも、せっかく湊といるのに、話す時間減るし」
「――――……」
普通の男子高校生は、女の子と話すの好きなんだろうけど。
「なあ……手、つなごっか、湊」
「――――……ん??」
「手、繋ごうか?」
「――――……手、つなぐ?」
何を突然?
「さすがに、男同士で手つないで歩いてたら、声かけてこないかなと思って」
「――――……」
それはただ、引かれてって事なんじゃ……。
それでいいのか??
「やってみよ」
「え」
司が、オレの手を掴んで、歩き出した。
顔、少し熱くなる。
振りほどきはしないけど、なんか、皆がこっちを見てるような気がしてしまって、ただ焦る。
「とかいって、オレ、手つないで歩きたかっただけなんだけどさ」
司が、悪戯っぽく笑って、オレを振り返ってくる。
「大丈夫だよ、ふざけてつないでるんだって、思う位だって」
「……司……見られて嫌じゃないの?」
「湊が嫌なら離すよ?」
「――――……」
オレは、嫌じゃない。けど。
言えず、黙ってると。
「嫌じゃないなら、このまま本屋までいこ」
「――――……」
「そんな、皆がこっち見てる訳じゃないよ。人多いし」
言われてみると、確かに、すれ違いざまに気づかれる位かも。
そして、功を奏したのか、たまたまなのか、女子に話しかけられず、本屋の看板が見えてきた。
「あそこでしょ?」
「うん」
「ここまで声かけられなかったけど――――…… 効果あったのかな」
クスクス笑われて、さあ……と答えると。
「オレは湊と手つないで歩けたから、どっちにしても良かった」
そんな言葉に、またちょっと引っかかって、司を見上げる。
「――――……司ってさ……」
「ん?」
「……オレ以外にもそういう事言う?」
「え? 言わないよ」
「――――……何でオレに言うの?」
「……何でって…… そう思うから??」
逆に聞き返されて、返す言葉も失う。
「湊、何階行きたい?」
「……小説のとこ」
「じゃ3階だね。行こ」
「ん」
エスカレーターに乗ったところで、繋いでいた手が離された。
「手、つなぐって、ドキドキするよな」
「――――……」
……ていうか、それは、オレのセリフで。
「つか、湊だからかな…… ――――……湊はドキドキする?」
「――――……うん」
何を思って、いつも言うのかなーと、思うのだけれど。
視線がひたすらまっすぐで優しくて、あったかいので。
なんとなく、素直に聞いてしまう。
頷いたら、司はふ、と嬉しそうに笑って。
「よかった」と言った。
小説のコーナーに進んでいき、何となく眺めてると。
司もキョロキョロしながら歩み寄ってきた。
「……なあ、湊、おすすめの本、いっこ選んで。買ってって読むから」
「んーと……――――……オレが持ってるの、何か貸す?」
「え、いいの?」
「うん」
「じゃあ湊が一番好きなの、最初に貸して」
「ん」
「やった。あ。最初は短めのね? あんま長いと最初は寝ちゃうかも」
そんな風に冗談ぽく言いながらも、嬉しそうに笑ってくれるのが嬉しくて、頷いて見せる。
何貸そうかなーと、早くもあれやこれやと思い浮かべ始めていた。
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