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「急な初デート」*司
しおりを挟むさっき届いたラインに、一気に気分が落ちた。
「塾が休みだから、今日は川行かない」
湊から。
マジかーー。
今日は部活が休みだから、湊とゆっくり話せると思ったのに。
湊が良いって言うなら、塾まで送ってあげようと思ってたのに。
そうやって入れようと思ってスマホを開いたら、さっきのラインが一足先に入っていた。
……会えないのか。
「どした、司? すげー沈んでんな」
机に伏せながらスマホを見てるオレに、クラスメート達が笑う。
「――――……ん、まあ……」
ぼんやりとそれだけ、答えながら。
……あ。 それなら、ダメもとで。
誘ってみればいいのか……。
『オレも部活が休み。湊、どこかで会えない?』
そう、入れてみた。
しばらくして、既読になった。
――――……返ってこない。
……今、何、考えてるのかなあ。
どう断ろうか、考えてたりして。
それだとへこむけど。
もうすぐ休み時間がおわってしまう。
――――……スマホ、気になって、授業聞くの、絶対無理。
湊、早く返して。
思った瞬間。手の中のスマホが震えた。
『どこで会うの? 何かしたい?』
え。
……これって、okってことだよな。
やった……!
「オレは湊と会えればいいから。湊、近場だとどこがいい?」
速攻で返事すると、今度はすぐに返ってきた。
『……司がいきたいとこあるなら、行く』
「じゃあいつものとこで、15時半前後、待ち合せよ」
『分かった』
「終わったら急いで行く」
『うん』
ちょうどやりとりが終わったところで、チャイムの音。
湊とデート。デートって言ったら拒否られるかな。ま、いいや。
……嬉しすぎる。
早く終われ早く終われ。
そう思ってる授業は、長すぎて。
いつもの何倍も時間が経つのが遅い。
授業とホームルームが終わると同時に、立ち上がった。
「じゃあな!」
言うだけ言って、誰の返事も聞かず、走り出した。
「桜井、走んな!」
「はーい!」
担任に止められ、それでも小走りで進み、階段を飛び降りる。
靴を履き替えて、走り出す。
いつもはルートが決まっていて、回り道をしながら河原に出るけれど、今日はまっすぐ河原に向かう。
レースでもしてるみたいな、気分で、猛ダッシュ。
いつもの場所、座ってる湊が見えた。
「……湊!」
「あ。司――――……」
気付いて立ち上がった湊に、ぎゅー、と抱き付いてしまった。
「ちょ――――……と……」
心なしか赤くなった湊に、すこし、離される。
「はー。めっちゃ走った」
上がってた息を、はー、と吐いて、乱れてた前髪を掻き上げて直す。
「すごい走ってきた?」
「ん。早く、会いたかったから」
「――――……」
照れてるのか、言葉を返せずに黙ってしまう湊。
構わず、続けた。
「湊、早すぎない? オレ、最速だったのにな」
「オレ今日5時間だったから」
「え。……じゃ何時からいたの?」
「ゆっくり来たから……15時前くらいかな」
「ごめん、待たせた」
「――――……いつも、好きでいる場所だし」
「そんな待たせるって、分かってたら――――……」
「……中止にした?」
「え。 あー……してないかな。待ってもらったかも」
そう言ったら、湊がクスっと笑った。
「嫌じゃなかったから、うんって入れたし」
「ありがと、湊」
「…ん」
「じゃあ、そんな時間ないし、早くいこうぜ」
「どこに?」
「急行でいっこ乗って、桜が丘の商店街。いい?」
「ん」
飲食、洋服、雑貨や本屋、ゲーセン、とにかく色んな小さい店がいっぱい並んでる商店街。近場でぶらぶら遊びたい時、よく行く場所。
湊が何が好きか分からないから、とりあえず何でもある場所に決めた。
「湊、何時まで、居られる?」
「司に合わせるよ」
「夕飯は?」
「合わせるよ」
「…じゃ食べよ、一緒に」
「うん、いいよ。母さんに連絡しとく」
にこ、と笑う。
――――…可愛いな、湊。
南校寄り駅の方が近いので、2人で並んで歩き始める。
「湊、なんで今日、塾休みなの?」
「塾が入ってるビルが、何かの点検で停電するからって」
「そうなんだ」
「司、部活は?」
「今日は全部の部活が休みの日。教職員の会議だかなんだか…良く分かんないけど」
「良く分かんないんだ」
ぷ、と湊が笑う。
普段と違う場所で湊と話せることに、相当浮かれて話しながら、電車に乗って、急行で一駅。
「来たことある? ここ」
「うん。 さとるや晃と一緒に何回か…」
「そっか。好きな店とかある?」
「――――…本屋いきたい。端の方に、大きい本屋があるから」
「はは。湊らしい。いーよ、いこ」
湊の腕をつかんで、くい、と引く。
隣に並んで歩くっていうのが、新鮮で。
少し下にある湊を見て、色々話しながら、ゆっくり、歩き出した、
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