【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-

悠里

文字の大きさ
上 下
12 / 36

「ふわふわ」*湊

しおりを挟む


 青空が、キレイ。
 川が、キレイ。

 ――――…塾に行くまでの、癒しの時間。
 ぼーーーっと、何も考えず、風景を見てるのが、好きだった。


 鳥が飛んだり、なにかの生き物が川の水面で跳ねたり、雨で色んなものが流れてきていたり。同じ場所から見ていても、毎日色々な変化があって、飽きない。

 心穏やかな、時間だった。



 なのに。



「湊っ」

 振り返ると、鮮やかな、笑顔で、司が降りてくる。
 どきん、と胸が揺れる。

 ――――…オレの、穏やかな、癒しの時間が終わった。



 その代わりに。
 何だか、胸がざわめく、ふわふわする、
 よく分からない時間が訪れる。


「湊、元気?」

 言いながら、隣に座る司。


「ん。元気」
「良かった」

 笑顔。いつも通り、キラキラしてる。
  キラキラなんて言葉、人の笑顔に使ったこと、ないんだけど……。

 司の笑顔は、そう表現する以外に、無い気がしてしまう。


「昨日会えてほんと良かった。連絡取れるようになったし」
「……ん」
「なあ、よく会うの? 昨日の幼馴染たちって」

「ん? ああ……たまに、かな」
「そうなの?」

「学校違うし。あいつら部活あるし、オレ塾あるし。なかなか時間合わないから……」
「ふうん。そっか」

「……なんか、司、挨拶してたね」

 昨日の司を思い出して、思わず、くすくすと笑ってしまった。

「……なんか司ってほんとすごいな……」
「すごいか?」

「だって司には知らない2人じゃん……」
「でも湊の友達なら、オレもまたいつか会うかもだし」

「会うかなあ?」
「会うよ、だってオレ、これからも湊と居たいし」

 そんな風に言う司に、一瞬黙って。
 答えに困る方は、スルーして、別の話に進む事にする。

「……あんなとこで、自己紹介……普通なかなかできないよ」
「そう?」
「そもそも、覚えた? 聞いても忘れちゃうだろ?」

「にこにこしてんのがさとるで、もう一人のクールな感じのが晃だろ?」

「覚えたんだ……」
「オレ、人の名前覚えるの、特技かも」

「……なんか、らしいね」

 笑ってしまう。
 司らしい。


 ――――……そんなに思うほど、知らない気もするのに。
 でも、これに関しては、ほんとに、司らしいなって思ってしまう。


「それにまた会うと思ったから、ちゃんと聞いたし」
「――――……」


 なんだかな。


「……司ってさ」
「ん」

「――――……そんなに、オレと……会いたい?」


 すごく、ドキドキしながら、聞いてみた。
 そしたら、一瞬、司がきょとん、として、すこし固まった。
 けれどすぐ、またにっこり笑って。

「うん。オレ、毎日、湊に会いたい」
「――――……」

 聞いたくせに、なんて答えていいか分からない。


「……湊は? オレに、少しは会いたい?」


 逆に、聞かれてしまって、司どころじゃない、硬直。
 

 数秒、司が返事を待ってくれてるので。
 視線を、落として。 少しだけ、頷いた。


「え、ほんとに?」

 頷いた瞬間、ぐい、と腕を掴まれて、顔を上げさせられた。

 間近で見上げた司は、すごく嬉しそうで。
 どき、と胸が弾んだ。


 やっぱり、司に、触られると――――…… ドキドキしてしまう。




「……うん」

 また頷くと、司は、よかった、と言って、くしゃくしゃと湊の頭を撫でてきた。


「……実は、迷惑じゃないかと、ちょっと心配してた」

 はは、と少し苦笑いを浮かべる司。


「――――……オレ、迷惑だったら、そう言ってるよ。無理して付き合うとか、ほんとに無理だから」
「うん。そうかなとも思ってた。だから心配してたのは、ちょっとだよ」

 司の笑顔にほっとする。


「じゃあさ、連絡とるのも、迷惑じゃない?」
「――――……うん」

「良かった。忙しい時は、無理に返さなくてもいいからな」
「……ん」

「オレは送りたい時に送るから。返せる時に返して?」
「うん」
 

 そんな話をして、別れて、塾に行って。
 塾が終わって、スマホを見たら。



 司から、『今日の夕方の空』 というメッセージと共に。
 夕焼け空の、写真。






『めっちゃキレイで、湊に見せたかったから写真撮った』


 そんなメッセージと、写真に。
 これ以上ないくらい、嬉しくなって。



「ありがとう」とだけ、送った。







しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

処理中です...