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「ふわふわ」*湊
しおりを挟む青空が、キレイ。
川が、キレイ。
――――…塾に行くまでの、癒しの時間。
ぼーーーっと、何も考えず、風景を見てるのが、好きだった。
鳥が飛んだり、なにかの生き物が川の水面で跳ねたり、雨で色んなものが流れてきていたり。同じ場所から見ていても、毎日色々な変化があって、飽きない。
心穏やかな、時間だった。
なのに。
「湊っ」
振り返ると、鮮やかな、笑顔で、司が降りてくる。
どきん、と胸が揺れる。
――――…オレの、穏やかな、癒しの時間が終わった。
その代わりに。
何だか、胸がざわめく、ふわふわする、
よく分からない時間が訪れる。
「湊、元気?」
言いながら、隣に座る司。
「ん。元気」
「良かった」
笑顔。いつも通り、キラキラしてる。
キラキラなんて言葉、人の笑顔に使ったこと、ないんだけど……。
司の笑顔は、そう表現する以外に、無い気がしてしまう。
「昨日会えてほんと良かった。連絡取れるようになったし」
「……ん」
「なあ、よく会うの? 昨日の幼馴染たちって」
「ん? ああ……たまに、かな」
「そうなの?」
「学校違うし。あいつら部活あるし、オレ塾あるし。なかなか時間合わないから……」
「ふうん。そっか」
「……なんか、司、挨拶してたね」
昨日の司を思い出して、思わず、くすくすと笑ってしまった。
「……なんか司ってほんとすごいな……」
「すごいか?」
「だって司には知らない2人じゃん……」
「でも湊の友達なら、オレもまたいつか会うかもだし」
「会うかなあ?」
「会うよ、だってオレ、これからも湊と居たいし」
そんな風に言う司に、一瞬黙って。
答えに困る方は、スルーして、別の話に進む事にする。
「……あんなとこで、自己紹介……普通なかなかできないよ」
「そう?」
「そもそも、覚えた? 聞いても忘れちゃうだろ?」
「にこにこしてんのがさとるで、もう一人のクールな感じのが晃だろ?」
「覚えたんだ……」
「オレ、人の名前覚えるの、特技かも」
「……なんか、らしいね」
笑ってしまう。
司らしい。
――――……そんなに思うほど、知らない気もするのに。
でも、これに関しては、ほんとに、司らしいなって思ってしまう。
「それにまた会うと思ったから、ちゃんと聞いたし」
「――――……」
なんだかな。
「……司ってさ」
「ん」
「――――……そんなに、オレと……会いたい?」
すごく、ドキドキしながら、聞いてみた。
そしたら、一瞬、司がきょとん、として、すこし固まった。
けれどすぐ、またにっこり笑って。
「うん。オレ、毎日、湊に会いたい」
「――――……」
聞いたくせに、なんて答えていいか分からない。
「……湊は? オレに、少しは会いたい?」
逆に、聞かれてしまって、司どころじゃない、硬直。
数秒、司が返事を待ってくれてるので。
視線を、落として。 少しだけ、頷いた。
「え、ほんとに?」
頷いた瞬間、ぐい、と腕を掴まれて、顔を上げさせられた。
間近で見上げた司は、すごく嬉しそうで。
どき、と胸が弾んだ。
やっぱり、司に、触られると――――…… ドキドキしてしまう。
「……うん」
また頷くと、司は、よかった、と言って、くしゃくしゃと湊の頭を撫でてきた。
「……実は、迷惑じゃないかと、ちょっと心配してた」
はは、と少し苦笑いを浮かべる司。
「――――……オレ、迷惑だったら、そう言ってるよ。無理して付き合うとか、ほんとに無理だから」
「うん。そうかなとも思ってた。だから心配してたのは、ちょっとだよ」
司の笑顔にほっとする。
「じゃあさ、連絡とるのも、迷惑じゃない?」
「――――……うん」
「良かった。忙しい時は、無理に返さなくてもいいからな」
「……ん」
「オレは送りたい時に送るから。返せる時に返して?」
「うん」
そんな話をして、別れて、塾に行って。
塾が終わって、スマホを見たら。
司から、『今日の夕方の空』 というメッセージと共に。
夕焼け空の、写真。
『めっちゃキレイで、湊に見せたかったから写真撮った』
そんなメッセージと、写真に。
これ以上ないくらい、嬉しくなって。
「ありがとう」とだけ、送った。
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