【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-

悠里

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「心乱れる」*湊

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 晃とさとると会った後の、塾からの帰り道。
 ポケットの中で、ぽん、とメッセージが届いた。

「湊、塾終わった?」

 司だった。

「今帰り道」
 入れるとすぐに、「お疲れさま」という笑顔のスタンプ。


 なんか――――…不思議。
 あの階段で、たまたま会うだけだった司からの、メッセージ。

 たまたまの機会が無くなったら、もう、会う事もなくなるかもしれない、そんな関係だったのに。


 今は、繋がってる。


「あとどれくらいで家につく?」
「10分くらい」
「気を付けて」
「うん」

「あとでまた連絡する」

 そう入ってきたのを確認して、返事をせずに、スマホをポケットに戻す。
 すると、すぐに、ぽん、と着信。

 司かと思ったら、晃とさとるとの3人のグループからの通知だった。

 さとるから「あいつから連絡入った?」と入っていた。

 「今きたよ」と返すと、「ちゃんと塾終わる時間じゃん」という言葉と、笑顔マーク。「後でまた連絡するって」そう入れると、「めっちゃ連絡するって、あいつ言ってたもんね」と返ってきた。

 少し、間があいてから、「湊、塾お疲れ。気を付けて帰れよ」と、晃。
「もう家着くよ」と返信しておいて、またポケットに戻した。

 
「ただいま」
「おかえりー湊」

 家に着くと、母が出迎えて、すぐごはんか聞かれたので、「シャワー浴びたい」と答えた。
 スマホを部屋の机に置いて、シャワーを浴びにバスルームに向かう。


 ――――……なんかなあ……。
 今日は、驚いた。


 ――――……司の話を思い切って、さとると晃にしてたら……。
 ……本人が来るんだもんな……。


 ………ほんとに、驚いた。


 制服姿、初めて見た。
 なんか、ジョギング姿と、イメージ違くて。

 でも、笑った顔は、当たり前だけど、そのまま、で。



 シャワーを浴びながら、ぼんやり、思い浮かべる。



 心が乱れるのは――――……。
 晃が、多少乱れても、毎日ちゃんと過ごせてるなら、大丈夫って言ってくれたから、少し落ち着いた。

 でも、司が現れて、スマホで、連絡が取れるようになって。

 これじゃあ――――…家でまで、落ち着かなくなってしまう気がする。

 シャワーを浴び終えて、夕飯を食べて、部屋に戻る。
 勉強をするために、机に座った瞬間。


「湊、今何してる? 勉強中?」と司から、入ってきた。

 オレが、今何してるか。
 それって、司にとって、気になる事なのかな。なんて思ってしまう。
 こういう考え方を、晃に言うと、軽く注意されるんだけど……。


 「今、夕飯食べ終わって、自分の部屋きたところ」と返す。
 「電話、してもいい?」と来た。

 ……断る理由も思いつかなくて。うん、と入れた瞬間。
 着信音が鳴り響いたので、通話ボタンを押した。


『もしもし、湊?』
「……司」

 ――――……電話越しに初めて聞く声。
 なんか、……不思議な感覚。


『……なんか、すげー嬉しい』
「え?」

『ちゃんと、湊と繋がってることが嬉しい』
「――――……何、言ってんの……」

『だって、今まで時間とか天気が合わないと会えなかったし、話せなかったじゃん? これで、約束とかも出来るし。会えなかった日も、話せるし』
「――――…」

『今日、あそこで会えて良かった』

 嬉しそうな声に、戸惑う。

 ――――……何で司って、そんなに、オレと会いたいみたいな事、
 言うんだろう。

『今日会ってた2人って、幼馴染って言ってた?』
「……うん」


『仲良さそうだったな』
「そう?」

 まあ仲は……良い、かな。
 ……高校離れてもわりと頻繁に会ってるし、連絡も取ってる。

 2人は友達多いから、何でオレとずっと会ってくれるのかは、たまに分からないんだけど。さとるは、誰とでも仲いいし。晃は、頭良いし優しいから好かれてるし頼りにされてるし。

『湊、明日は会える?』
「明日は5時間目の後あそこに居るけど」

『そっか、じゃ明日な。天気もよさそうだし』
「……うん」

『……なあ、湊』
「うん?」


『オレさ、お前と繋がれて、ほんとに嬉しい』
「――――……」


『……お前も少しは嬉しいと――――……いいんだけどな』
「――――……」


『……えーと。……聞いてる?』

 応えられず、黙ってると、苦笑いしてる、雰囲気。

「うん。聞いてたけど……何て言っていいか分かんなかった……」

 そう言うと、司は、クスクス笑った。

『……とりあえす、迷惑では、ない?』
「……ないよ」

 なんとかそれだけ答えたオレに、よかった、と笑う司。


『じゃあ明日な』
「……うん」

『おやすみ、湊』
「……うん、おやすみ」


 通話、終了。
 ――――……スマホを置いて、机に突っ伏した。



 ………なんで司って、恥ずかしがらずにああいうの、言うんだろ。
 ……言われるこっちが恥ずかしい。

 ……司が、知り合った全員に、こんな風に連絡を取って、電話までしてるとは、さすがに思わないけど。

 なんで、オレにするんだろ。
 ――――……いつまで、こんな風に、するのかな。



 その内、連絡が来なくなって。
 あの場所でも会わなくなって。

 ……そしたら、司との縁なんて、何もない。


「――――……」




 ……なんか。
 ――――………やっぱり、心、乱れるなあ……。



 これって、日常生活ちゃんと過ごせてるって言うのかな。
 ……勉強する気、全然ないんだけど……。


 机につっぷしたまま。
 起き上がって勉強を始めるまでに、結構な時間を費やしてしまった。








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