【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-

悠里

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「さすが」*湊

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「……司」

  司の名を呼んだオレを見て、晃とさとるが一瞬目線を交わすのが分かる。

「湊、どうしたの、こんなとこで。ここ来る事あるんだ?」
「あ。うん……今日初めて、来た」

「そうなんだ。 友達?」
「あ、うん……」

「どうも。司です。……って、高校、皆違うんだね?」

 2人に名を言ってから、オレの方を向いて、そんな風に言ってくる。

「中学の友達?」
「小学生から、だよ」

「そうなんだ。いいね、幼馴染か」

「……司、昼ごはん?」
「そう。今日テスト最終日だったからさ、昼ここで食べてから部活いこうってなって、部活の奴らと来たんだ。あ、ちょっと待ってて」

 司が後ろで待ってる10人位の所に戻っていって、何か話しながらこっちを振り返ってる。
 その隙にとばかりに、晃とさとるが、オレに視線を向ける。

「……湊、あいつがそう?」
「だよな?」

「……そう」

 頷くと、さとるが笑い出した。

「……つか、すごくない? 会いたいって言ったすぐ後にほんとに会えるとか」
「そうだね」

 本当に、びっくりした……。
 まだドキドキが、収まらない。

「まあ、ここ東校の最寄駅だしな。ありえるよな」
「ぅん……まあ…… でもオレ、司が制服着てんの、初めて見た」

「……何、ときめいちゃった?」
 さとるにそんな風に言われて、ぴた、と止まる。

「何ほんとにときめいた?」
「――――……っ……わかん、ない」

 何と言って良いか分からなくて、俯いて言うと、さとるが急にがたん、と立ち上がって、オレを覗き込もうとしてくる。

「うわー……ちょっとどーする、晃! 湊が可愛いんだけどっ」
「ちょっと落ち着けよ」

 晃が苦笑いを浮かべながら、立ち上がったさとるを座らせてる。
 そこに再び司が登場。

「ごめん、ちょっと先に上に行っといてもらった」

 そんな事を言いながら。

「湊、隣座ってもいい?」
「え。 ……うん」

「いい?かな?」
 司は、さとると晃にも、そんな風に聞いてる。

「どうぞどうぞ」と笑うさとると、頷いてる晃。
「ありがと」と言って、司がオレの隣に座った。

 ――――……こういうの、さすがすぎる。
 普通、ここ、座れるかな?? オレ絶対無理……。


「今日はこのまま塾?」
「うん。時間になったら行こうと思ってたよ」

「じゃほんとなら、会えなかったんだな。……良かった、会えて」
「――――……」

 晃とさとるが居ても、こういうの、全然平気で言うんだ。
 ――――……ますます、ほんと、不思議。


「なあ湊、今スマホ持ってるよね?」
「うん、持ってるよ?」
「連絡先交換しよ。良かったー、いつも走る時持ってないからさ。いつか交換しようと思ってたんだけど。会えてラッキー」

 言われて、数秒固まる。

「湊??」

「あの……んーと……オレ達って、連絡、とる??」
「……え、取らない?」

 オレの素朴な疑問に、今度は、司が、ぴた、と固まってる。
 
「……用事ある?」
「……つか、何なの、お前。あるある、オレ、めっちゃ連絡するから!」

 苦笑いで言う司に、横で黙って聞いていたさとるが、ぷっと吹き出した。

「何その会話……」

 クックっと笑い続けてるさとるに、司は視線を向けると。

「……湊って、昔からこんな? ひどくない?いっつもオレから話しかけてさ。最初の頃なんて、また来たのかっていう冷たい視線が痛かったしさー」

「まあ、湊はなかなか打ち解けないからね。気にしなくていいと思うよ」

 さとるの言葉に、司はぷ、と笑った。

「オレ、桜井司。 湊と仲良くしていきたいから、覚えといてくれる? また会うかもだし」

「オレ、上野うえのさとるだよ。よろしくー」
宗谷 晃そうや こう。……よろしく」

 司が、オレの幼馴染達と、なぜか自己紹介しあってる、謎な光景を、ただ黙って、眺めるしかない。


 結局、湊と連絡先を交換して、司は立ち上がった。

「飯食って、部活行かないとだから、もう行くね。湊、今日も塾20時まで?」
「うん」

「じゃあ、夜、連絡入れるから。絶対返事しろよ?」
「……うん」


「じゃあ、また」

 さとると晃にもにっこり笑ってそう言って、司は注文をしにレジにと向かった。


 その後ろ姿を3人で見送って、しばし無言。


「――――……うん……」

 さとるがクス、と笑う。

「……強烈だね」
「――――……ちょっとお前と似たタイプだけどな」

 晃がさとるを見てそう言うけど、さとるは、あははと笑った。

「確かにちょっと似てる気がするけど、オレ、あんなにド派手じゃないよね」
「――――そうだな」

「すごい目立つし、なんか……キラキラ、してる?」
「……まあ。言いたいことは分かるが」

「湊は、ああいうのが好きなんだ……と思うと、意外」

「――――……オレ、まだ好きとか、言ってないし」

「……そんな顔してて、良く言うなー 大好きでしょ?」
「――――……」

 そんな顔って、なんだろう……。
 悩むオレを置いて、さとるが首を傾げる。

「どうなんだろうね。こんな分かりやすい湊と居て、あの、感じでぐいぐいくるのって……」
「――――……まだ分からないな……湊もまだはっきりしてないし」

「……まあでも、悪い奴じゃなさそうだし。とりあえず、しばらくはこのまま仲良くしててもいいんじゃない?」

 楽しそうなさとるに、ふ、と息を吐きながら、晃を伺う。
 なんとなく、晃の意見も待つのは、いつもの癖。


「とりあえず、今は賛成も反対もしないでおく。湊が決めてからだろ――――……何か変わった事あったら言って来いよ?」

「――――……うん。ありがと」

 とりあえず、反対されなかったので、とりあえず良し……かな。
 2人が会ってくれて、何となく、安心してしまう。


 2階に行く前と、帰る時にまたちょこちょこっと寄って、さとるや晃にも、楽しそうに話しかけて、店を出ていった司。


「……コミュニケーション力がすごいのは、今日だけで分かった」
「ほんとー。 そもそもさー、よく、こんな3種類の制服の中に座れるよなー、すごすぎ」


 晃とさとるが苦笑いで言うのを聞いて、ふ、と笑ってしまった。


 やっぱり、すごいよな……。
 さとるも、そういうの割と気にしないで入っていけるタイプなのに。そのさとるにこんな風に言わせる奴って、なかなか居ない。


「まあ、いいんじゃない? 湊が楽しいなら」

 言ったさとるに、なんとなく複雑に思いながら、頷いた。



 楽しいだけでも、ないんだけど。
 心が、ざわつくから。


 今日、夜すると言った連絡が、楽しみなような、来たらどう返事したらいいのかとか、来なかったらどうしたらいいのかとか。
 色々思う事があって、本当に複雑なのだけれど。


「……あんま考えずに、な、湊?」

 ふ、と笑う晃に、うん、と頷いて返した。



 少し相談するだけのつもりが、まさか紹介する事になるとは。
 思いもしなかった出来事に、何だかどっと疲れてしまった。




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