【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-

悠里

文字の大きさ
上 下
7 / 36

「ドキドキ?」*湊

しおりを挟む
「ごめん」

 晃に小突かれてさとるが肩を竦めて言う。それに苦笑いしながら頷いてから、晃がオレに視線を向けた。 

「もしかして、うまれて初めてドキドキする、とか?」
「――――……うーん……」

「……好きだとか、思う訳?」

「――――……最初はさ、あいつがペットボトル落として、オレの近くにそれが滑ってきたんだ」
「ん」

「それ拾った時から…… 話し始めて、さ」
「……それからずっと話すようになったの? すごいね、そいつ」
「うん、多分、誰とでも話せるんだと思う。 明るくて、ポンポン話して……」

 やっぱり、すごいんだよな……。
 あんなの、普通は、拾ってそれで終わりなはずなのに……。


「で? そいつの事、好きだって思うの?」

 もう一度、晃から、同じ質問。

「――――……嫌いじゃないんだけど……」
「けど?」

「好きかは……よく分かんない…… ただ、触られると……」
「触られると?」

「……動けなくなる……というか……」

「えーーー、なにそれー? 湊、なにそれ、どこに触られるの?」
「いや、腕とか……手?……とか?」

 乗り出してきたさとるは、がっくりと力を抜いた。

「何それ。 どこ触られるのかとドキドキしたら」
「――――……」

「腕ってなに? こんなかんじ?」

 さとるが、オレの腕をぎゅ、と握る。

「――――……動けない??」

 そんな風に言われても、さとるに触られても、別になんでもないし。


「さとるが触っても動けるだろ」

 クスクス笑って、晃がさとるの手を離させる。


「そいつが触ると動けなくなるんだろ?」

 晃がそう言うと、さとるはふ、と笑った。

「そいつも、湊の事好きなの?」
「……ううん、別に。 ただ、ジョギングの折り返し地点で、寄るだけみたい」
「そうなんだ」

「……ていうか、オレも、好きだなんてまだ言ってないし」
「あ、そっか」

 さとるはふーん、と笑う。
 晃は、考え深げにオレを見ていたけれど。


「……嫌いじゃない、程度ならオレらに話すか?」

 そんな言葉に、うーん……と、口を噤む。


「すごく……気持ちが乱れるから、どうしたらいいんだろうと思って」

「――――……湊……ほんとお前、可愛いなあー……」

 よしよし、とさとるに撫でられる。


「まあ……気持ちが乱れても……行動が乱れなきゃ良いんじゃないか?」
「……行動?」

「いつもどおり、暮らしてるんだろ?」
「うん」

「多少気持ちが揺れても、それは良いんじゃないのか?」
「――――……あ、そっか」

 そっか。
 ……良いのか、ちょっと、ドキドキしてても。

「なんか……すごく落ち着かなくて。どうしようかと思ってたんだけど……」
 

 そか。
 ――――……とりあえず、心の中、落ち着かなくても、
 日々の生活ちゃんと過ごしてればいいのか。

 今迄こんなに乱れる事がなくて、どうしようかと思ってしまったのだけれど。



「そうだよ、少し位ドキドキする事なんか、めっちゃあるよー」
「おまえはありすぎ。もうちょっと落ち着け」
「何だよ、晃、その言い方」

 むー、とさとるがむくれてる。

「でも珍しくて、新鮮。 湊が誰かに心乱されるなんて。 見てみたい、そいつ。ね、晃、見たいよね」
「……興味はあるな」

「東校だから、近くにはいると思うけど……」
「あ、じゃああそこに座ってる制服?」

 店内に何人かいる制服を見ながらさとるが言う。

「うん、そう」
「へえ。カッコいい制服」

 そういえば。いつもジョギング中だから、制服姿、見た事ないなあ。

 そんな風に、思っていた時、だった。



「湊?」

 ……え。
 この声。


 くる、と振り返る。と




「やっぱり湊だ」

 鮮やかに笑う、司が立っていた。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

処理中です...