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「司という人」*湊
しおりを挟む「なあ、オレの事、サッカーの事以外で何か聞いた?」
「……え?」
ぼーとしてて、一瞬何のことか分からなくて、司を見ると。
司は、聞いてなかった?と笑った。
「だからさ。オレのこと。他に何か聞いた? お前の高校にはオレの中学の奴居ないのかな?」
「……んーどうだろ。分かんない」
直接話してる訳じゃないし。
「あ、他のことも、ちょっと聞いた、かな」
「どんな?」
「……すごいモテる、の?」
司は一瞬、ん?と固まって、その後、ちょっと困ったように笑った。
「あ、そんな噂?」
「噂っていうか……女の子達が試合で、カッコよかったって騒いでるのも、一緒に聞いたんだけど」
「……まあ。確かにモテるけど」
「……そんな簡単に頷く?」
苦笑いで司を見ると、司は面白そうに目を細めた。
……まあ。
顔いいし。
短いけどサラサラしたこげ茶の髪。
サッカーのせいなんだろうけど、日に焼けてて、良い色してて、スポーツマン、て感じ。背も高くてスタイルも良いし、足長いし。
目は綺麗な二重で、なんか人懐こい笑顔で。
可愛いような、カッコいいいような。
何回見ても、イイ男だなーと思うような、ルックスで。
しかも。
ペットボトルを拾っただけの相手。
しかも、それがオレな訳だし。
……オレなんかと、こんなに長いこと話せるようになる、このコミュニケーションスキルが、すごすぎる。
オレとこんなに話して、何が楽しいのか、ほんとに謎だけど。
名字で「桜井」と呼ぼうとしたのに、司って呼べって聞かなかった。正直、オレが出会ってすぐの奴を、呼び捨てできるなんて、不思議な位。
強引だけど、全然嫌な感じがしなくて。
なかなか人と仲良くなれない、オレですらそうなんだから。
まあ全部込みで、そりゃモテるだろうなと、思う。
「そーいえば、湊、部活は入って……なさそうだよな?」
多分、部活入ってる?と聞こうとしたんだろうけど、入ってなさそうだなと判断したみたいで、途中で質問が変った。
「うん。うち別に部活絶対じゃないから。塾あるし」
「ふーん。 ……なあ、少し運動したら? なんかお前、なよっちい」
そんな言葉とともに、いきなりぐい、と手首を掴まれた。
「細いし白いし。 体力なさそう……」
「……っ……」
ほっといてよ。
と、叫びたいのに、声が出ない。
――――……心臓が、痛い。
「……湊?」
「……っ」
「……顔、赤い」
さらに覗き込んでくる。
ていうか、司、いつもだけど、距離感おかしい。近すぎ。
「司……だから――――……」
「……触るな、だよな」
ふ、と苦笑いを浮かべて。
ぱ、と手を離す司。
「そんなに意識されると、こっちが、照れるんだってば」
まっすぐに、オレの目を見つめたまま。
司は、ふ、と目を細めた。
「そんなに、人に触られるの苦手だとさ」
そっと、司の手がオレの頬をつまんだ。
「――――……キスする時とか、お前、どーすんの」
とんでもない一言が飛んできて、もうフリーズするしかない。
その反応に、司はぷ、と笑い出した。
そっと手を離して、オレの髪をぐしゃ、と撫でた。
「――――……そんなに固まんないで」
「……っ……つか……こーいうのでからかうなってば……!」
「だって反応、可愛いし」
クスクス笑って、司はまたそんなことを言ってくる。
まったく、意味が分からない。
オレは、立ち上がった。
「……もう塾行く」
「え、もう?」
言いながら、司は腕時計に目をやる。
「うそ、もうこんな時間か…… お前といると、なんか時間が早すぎ」
そんなことを言いながら、司も立ち上がった。
「しょーがねえ。オレもそろそろ戻らねえと」
「……ん。がんばって」
「おう。 じゃ、またな、湊」
「ん」
手を振って、走り去っていく後ろ姿。
あっという間に、小さくなっていく。
またな、か。
司はジョギング中はスマホを持ってない。
一回、連絡先聞かれたけど、スマホ持ってる時にてことになって、それきり。
連絡先知らないから、ここに来なくなれば、会わなくなる。
またな――――……て言っても。
それは別に、約束では、ない。
なんとも言えない気分に、ため息を、ついた。
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