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「司との関係」*湊
しおりを挟む「……ふー……」
平日はほぼ毎日、学校帰りにそのまま塾に向かう。時間割によっては、そのまま行くと大分早くついてしまうので、向かう途中、川沿いの土手の斜面に座ってしばらく空を見上げる。雨が降ってなければ、必ず、そうしている。
ここ数日雨だったから、直接行って自習室で時間をつぶした。
今日はすごくキレイな青い空。
斜面は濡れてそうだったから、今日は階段に腰かけた。
吸い込まれそうな空を見上げて、息をついた瞬間。
「湊」
聞き心地の良い声で名前が呼ばれて、振り返ると、見慣れた顔。
「司……」
「元気か? ずっと雨だったから、ちょっと久しぶりだよな」
言いながら、司はオレの隣に腰かける。
司とこうして話すようになったのは、今年の3月頃。
いつものように座って空を見上げていたら、オレのすぐ側を、ペットボトルがざざーっと滑り落ちてきた。 咄嗟にペットボトルをキャッチすると。
「ごめん、ぶつからなかった?」
焦った顔をして滑るように駆け降りてきたのが、司だった。
なぜかその後、しばらく隣に座って話をした。
電車で1駅。この河原を歩けば、20分弱の所にある、隣の高校の、同じ2年生。
オレは、塾までの時間つぶし。
司は、サッカー部の個人練習の途中……らしい。
一度話すきっかけがあっただけの、関係のない他人。
なのにそのきっかけ以来、 放課後の短い時間、会えば、ここで話す。
「そういえば湊の塾って いつも何時まで?」
「20時過ぎ」
「そっか。……ちゃんと気を付けて帰れよ、もう真っ暗だろ」
「……子供か、オレ」
「子供じゃねーから危ないんじゃん。世の中変な奴もいっぱいいるからな」
何言ってるんだろ、司……。
「……ずっとこの土手沿いだから、車は走ってるし、ジョギングの人も結構いるし、人目あるから大丈夫だよ?」
「それでも背後に気をつけろよ」
うーん。ほんとに何言ってんだろうと、首をかしげると。
「今朝この辺で変質者が出たって、学校で言ってたから」
「変質者?」
「露出する方みたいだから……まあ普通は男は狙わないと思うんだけど」
「……」
「なんか、湊、狙われそうだから」
「……失礼。 オレ、男だし」
「まあそうなんだけど、気を付けろって、今日お前に会えたら絶対言っとこうと思ってたんだよ」
「……ん、分かった」
とりあえず頷く。
なんだか納得はいかないけれど。心配してくれてるような気もするので、とりあえず。
「あ、そうだ。こないださ。オレと湊が話してる時、クラスの奴が後ろを自転車で通り過ぎたんだって。お前の事も知ってて、どういう関係?って聞かれたんだけど」
「……オレと同じ中学の奴ってこと?」
「ん。吉原さとして奴。知ってる?」
司の高校にいった吉原……さとし。記憶をたどって、なんとなく、思い出す。
うん、知ってるような気がする。 ぼんやりだけど。
「知ってるような気もする」
「そいつがさ。 湊のこと…… 頭と顔は良いけど……」
「けど?」
「……愛想悪すぎるって言っててさ」
答えながら、ぷ、と笑う司。
「なにそれ。ほっとけ……」
言うと、ますますおかしそうに司は笑う。
「全然話した事ないの?」
「うん。無いんじゃないかな……名前もうろ覚え」
「はは、そっか。まあいいけどさ」
クスクス司が笑ってる。
笑うなって言っても笑うだろうから、もう放置する事にして、また空をぼんやりと見ていると、ふと思い出した。
「……そーいえば、オレも、聞いたよ。司のこと」
「へえ? オレのこと誰かに聞いたりしたの?」
「してないけど。クラスのサッカー部たちが大きな声で話してて聞こえてきた」
「ふうん? あ、先週末試合したからかも」
「司、サッカー、すごいんだって?」
「おう。サッカー推薦で入ったしな。 特別メニューで外ランニングすることになってさ。だから1人でここに来てる訳」
あ、なるほど……道理で。
なんで司っていつも学校の部活抜け出して1人で走って、ここに遊びに来てるんだろうとは、思ってた。
「……お前さ、もしかして今まで、オレが部活抜け出して遊びにきてるとか思ってたんじゃないだろうな」
「――――……」
怪訝な表情でそう言われて、数秒止まる。
なんでかいつも、考えてることがバレてしまう。
オレいつも、分かりにくいって言われるんだけどな。
分かりにくいと言われてきたから、司のように言い当てられると、すごく困る。
司に限らず、誰と話していても、言葉に詰まる事がよくある。
自分でも適当に何か答えればいいと思うのに、返答パターンがいくつも頭に浮かんで、どれで答えるべきか悩んでしまう。そのわずかな沈黙を、相手は退屈だと思うんじゃないだろうかと気になって、もっと話せなくなる。
話が弾まなくて、会話に疲れる位なら、1人でいた方が楽だと、ずっとそう思っていたので、仲の良い友達は極端に少ない。
小学生からの幼馴染の2人が、ずっと仲が良い位。
その2人と話せるのは、昔からずっと知ってるという安心感があるから。答えが遅くても、多少なにか言い間違えても、許してくれる。そう思えてるから。
司は初めて会った時から、オレが固まって沈黙するのを気にせずに、会話を続けた。
初めて会うのに。
オレの考えている事なんかお見通しといった風で、どんどん話を進めてくれたので、そんな司と話しているのは不思議なほどに楽で。全然疲れなかった。
司が、楽しそうに笑ってくれるのを見ると、
それだけでなんだか、ほっとして嬉しくなる。
こんな相手って。
オレにとっては、相当、珍しい。
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