【ひみつの巣作り】

悠里

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第186話 星空

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 あの後、先にシャワーを浴びるように言われた。……まあ……オレの方が大体いつもぐちゃぐちゃになるというか……だからだと思うのだけど。うぅ。


 その間に颯がご飯を作ってくれていて、一緒に食べた。
 片付けまで一緒にしてくれてから、今度は颯がシャワーに行ったので、コーヒーメーカをセットして、ふと、手持ち無沙汰な時間。
 
 天気どうかなあと窓を開けて、ベランダに出た。高層階なのと、ベランダ側には高い建物が無いので、空がものすごく、広い。

 雲一つない、空。星も見える。
 よかった。明日も天気良さそう。後夜祭のイケメンコンテスト。晴れてて欲しいもんな。

 手すりに手をついて、すう、と息を吸って、空を見上げる。
 ……広いなあ。

 空とか海って広くて、自分がちっぽけに思えてくる。

 星の光がこっちに届くには、何千年、何万年もかかってるって聞いたことがあって。光が届いた時点ではもう、光を放ったその星は爆発して消えてる可能性もあるって。子供の頃に聞いたその話。なんかすごいなあって思って。

 わーわー言いながら、毎日バタバタ過ごしてるけど。
 歴史の中のたった、ものすごく小さい、一人でしかないんだよなあ。

 一体何人の人が生きて死んで、命を繋いできたのかなあとか。
 ちょっと壮大なことを考えたりしてしまう。

 オレも。颯との間に、命を……繋げたりするのかなあ。
 …………正直、まだ実感、無いけど。
 自分が妊娠するかもなんて、考えたことなかったし。パパになるかもっていうのくらいは、考えたことあったけどさ。ママになるなんて。

 ていうか。さっき、颯。オレの中いっぱいにしたい、とか。超すごいこと言ってたし!! めちゃくちゃドキドキしちゃったなぁ……。
 もちろん、赤ちゃんとか全部、卒業してからって言ってるし。颯が感情に負けて、言ってたのを覆すなんて無いんだろうと思うけど。
 それでも、なんか――――めちゃくちゃ熱い感じで言ってたのは。

 ……カッコよかったなあ。
 焦れた感じの熱っぽさも。たまにすごく独占欲っぽいの出してくれるのも嬉しいし。
 なんて考えていたら。

 ぽ、と頬が熱くなる。

 わー。なんかもう。
 ……好きだなあ。颯。


 あれれ、壮大な気持ちはどこへ? もはや颯が好きってことしかなくなって、あれ? と空をもう一度見上げた時。

「慧?」
 後ろから、颯の声がした。振り返ると、お風呂あがりの颯。少し濡れた髪が風に揺れる。サンダルを履いて、オレの隣に来て、手すりに手をかけ、オレを見つめる。

「空見てた?」
「あ、うん」

 何のセットもしてない髪と、リラックスした雰囲気。
 お風呂あがりの颯は、ちょっと可愛くも見える。いい匂いがするし。

「――――……ここからだと空がきれいだよな」
「うん。星も結構見えるね」
「そうだな」

 二人並んで空を見上げる。ちら、と視線を流された気がして、颯の方を見ると、そっと抱き寄せられて、その腕の中に収まった。
 あったかくて。颯の鼓動の音が聞こえる。

「――――……」

 自分が微笑むのが、分かる。腕を回して、すり、と抱き付くと、颯がクスクス笑うのが伝わってくる。

「……そうだ。言ってなかった。聞いたかな?」
「ん?」

「明日のコンテストさ。ステージにあがる時、何着るか知ってる?」
「……知らない。何着るの?」
「スーツだって」
「えええー!」

 静かな、良い雰囲気、ぶち壊しで声をあげてしまった。自分で気づいたけど、それより、颯がスーツって情報が、なんか嬉しすぎる。

「スーツ、着るの??」
「そぅ。全員スーツだってさ」
「わー、すっごい楽しみー! どんなの着るの?」
「明日のお楽しみな?」
「うん! 楽しみ!!」

 さっきまでちょっと珍しく、宇宙とか命とか考えてたけど。
 もう心の中は、明日のコンテストの、スーツ姿の颯のことしかない。


「すっごい楽しみにしてるから!」 

 抱き付いたまま見上げると、颯がまっすぐにオレを見つめてくる。
 優しくて、見つめられてるだけで、気持ちがほっこりする視線。

 颯の瞳はすごく綺麗で、それがまっすぐ、オレだけを見てくれてるのが、ほんとに嬉しい。柔らかく微笑んだ颯の手が、ゆっくりとオレの頬に触れて、すり、となぞると、どき、と胸が弾む。

 ……大好き、颯。
 ゆっくり近づいてきた颯の唇が、オレの唇に触れる。

 静か。世界に、二人きりみたいな気分。
 大好き。颯。


 颯のことが、愛おしいなあって。
 ……心底、思う。





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