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第180話 リアルなオバケ…。
しおりを挟むお化け屋敷は、結構な大盛況で、颯とオレは割と長い列に並んだ。並んでる間も、教室の中から悲鳴が聞こえてきて、結構なドキドキが密かに襲ってきている。
入る前から怖がらせる効果としては、十分だと思う。
この教室、結構な大きい教室だから、中を全部使ってるとすると、大分広いお化け屋敷なのでは。ていうか、いいのに、そんなに広くしなくて、と、心の中でつぶやく。
出口から出てくる人達が、「ひゃー」「こわかったー」「最悪ー!」とか言ってるし、「さいこー!」とか言ってる奴もいて、それは、怖いのが好きだから最高なのか? だとしたら、オレにとっては、最悪なのでは、とか、色々考えたりする。
「……慧?」
「……んっ??」
呼ばれたことに時間差で気づいて、颯を見上げると、颯が苦笑する。
「怖かったら、やめてもいいけどどうする?」
「こ、怖くないし」
「――――……」
ふ、と笑った、その優しい感じが、なんだか好きすぎて、一瞬見惚れていたら、出口から、ぎゃーぎゃー言って出てきた奴らの声に、びくうっ。また颯に笑われた。
……オレって、もしかして、お化け屋敷、好きではないのでは? さっきまでわくわくしてたけど、よく考えたら、あんまり体験してきてないような。
あれ、何で入りたいなんて、言っちゃったんだっけ?? あの瞬間、入ってみたい!って思っちゃったんだよなぁ。うぅ、あの時のオレのバカ。
今更、怖いとかでリタイヤできない。だって、なんか、後ろには、小さい女の子も並んでるのに、オレが怖くて無理だからって抜けるのは嫌だー!
ま、まあ、大丈夫だろ。うん。だって、たかが、大学のお化け屋敷だし。やってる人たちも皆、おふざけの……。
そう思いながら、だんだん列が短くなって、入り口に近づいてくると。
「こんなオバケたちがお出迎えします」とか書いてあって、何だか知らないが、やたらリアルな、幽霊の顔が飾ってある。
うわ、何これ。きもちわる! こわ!! 本物みたいじゃん、なんだよー。
「なんか結構リアルだな」
颯もそれを見て、ふーん、とか言って、近くで眺めている。
よくそんな近くに行けるものだな、颯。怖くないのか??
「特殊加工とか、そういう仕事を目指してる奴らがいるらしいよ。腕試しだってさ」
「何それ、何情報?」
「あのオバケの首に、説明がかかってたよ」
「そう、なんだ……へー、すごいね」
わー、ますますドキドキしてきた。
頑張るぞー、と謎の決意を胸に、颯と入口のドアに貼られた、黒いビニールテープの間をくぐった。
「男性二人、入りまーす」
入口の人が中に向けて声をあげた。
……何それ、何の宣言ー? 男二人だから手加減しなくていいっていう意味だったりしたら困るし! むしろ手加減して……!
いつもの教室の雰囲気は全くない。窓ガラスには、黒いものが貼られていて真っ暗だし、通路は黒いカーテンみたいなので区切られている。
冷たいものが、ひゃっと触れて、びくぅ!と飛び上がったら、こんにゃくだった。古典的過ぎる……!と苦笑いしながらも、触ってくんのは無理―!と。なんだか、自然と、颯の方に近づいてしまう。
「……慧」
ちら、と見下ろされて、クスクス笑われる。
「怖くないけど……! こんにゃく、嫌いだからっっ!」
「嫌いだっけ? ……手、繋ぐ?」
クスクス笑って、颯が、手を差し出してくれるけど。
「あ、手、今は繋がなくて大丈夫」
ぶんぶん首を振って断る。
だって、手、冷たすぎるし、なんか冷や汗が……! こんなので颯の手と、繋ぐなんて無理……!
それは言わずに遠慮してると、颯はふ、と笑って。
「じゃあ捕まってな」
こんな時だけど。優しく微笑まれて、斜めに見下ろされると。
きゅん、と胸が。
瞬間、がしゃん!と何かが割れた音が流れてきた。ひえ!!と、咄嗟に颯の背中の服を握り締めた。
何で背中かって。まあそれは。
……とっさに、隠れたからだけど。そしてまた颯がクスクス笑う。
ていうか、お化け屋敷で笑われると、颯でもちょっと怖いから、笑わないでほしいかもしれない……。
つか、なんだよもう、ここ!
お墓ゾーンだしー!! わーもう最悪! 井戸も、あるし、なんか出てくる?
ていうか、墓から手が出てるーー!! マジでそれ以上来ないで。そのまま動かないで!!
声に出せない文句を、心の中で叫ぶ。
(2024/7/25)
お化け屋敷は次で終わります✨
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