177 / 216
第177話 笑顔
しおりを挟む「なあ、かき氷の味は? 何がいい?」
そう聞かれて、あ、そうだった、ともう一度看板を見上げる。
「オレ、いちご練乳がいいです」
「抹茶でお願いします」
「了解。あ、お金いいよ。コンテスト頑張ってくれれば」
「あ、はい」
笑う先輩達と、苦笑の颯。
「颯、抹茶、美味しいの? 食べたことない」
「あげるよ」
ふ、と、颯が微笑んでくれる。
待ってる間、周りを見ると、色んなお店があって、なんかほんと、ワクワクする。
「楽しいねー」
「慧、去年はどうしてた?」
「お客さんだった。皆でぐるぐる回って、楽しんでたよ。颯は?」
「かき氷売って、コンテストに出たって感じかな」
「かき氷屋さん、してたの、知らなかった」
「ここに来て、買いにこなきゃ分かんないよな」
確かにそだね、と頷く。
……まあここに買いに来てても、きっと去年のオレは、颯とは話せてなかったと思うけど。張り合うのやめてから、どう距離とっていいか、話していいか、分かんなくなってたし。
……やっぱりそう思うと、今のこの状況が不思議。
昔を思う度、ギャップがおかしいけど。
「はーいお待たせ、どーぞ」
「わー、ありがとうございます」
やまもりのかき氷を受け取って、一口。
ふわふわの氷に、イチゴと、甘い練乳。
「おいしー」
幸せ、と颯を見上げると、颯は目を細めて、なんだかとっても優しくオレを見つめる。どき、と心臓。
「幸せそう」
笑いながら言って、抹茶をすくうと、「ほら」とオレに向ける。
幸せなのは……かき氷がおいしいのもあるけど。
……颯が居てくれるからっていうのも、いっぱいあるんだけど。と思いながら。
「ん」
ぱくっとくいつくと、颯、微笑んで、「どう?」と聞いてくる。
「もう一口ちょうだい? なんかイチゴで、よく分かんなかった」
「ん」
さっきよりも大きくよそって、食べさせてくれる。
「ん、美味しい」
抹茶もイケるね、と颯を見上げる。
オレにイチゴを渡してくれた先輩が隣に居たのだけれど、オレ達を見ながらクスクス笑いだした。
「なあ、それ、ナチュラル?」
「え?」
「いつもそういうこと、してんの? 宣伝のつもり?」
「……?? どういう意味ですか?」
不思議に思いながら聞くと、「急に混みだしたから」と先輩が笑う。
「客寄せでやってくれてんのかと思った」
そんなセリフを聞きながら、確かに来た時には無かった列が出来てるなあ、と気づいた。
「慧が幸せそうに食べてるから」
そんな風に言って、颯が楽しそうに笑う。「オレ??」と首を傾げていると、先輩が颯の肩をポンポンしながら。
「なんか、颯さ。番になってから、楽しそうに笑うようになったよな」
「「え」」
颯もオレも同じ声を出して、ぱっと見つめ合う。そうなの?? とオレが見つめると、颯は、少し口元を隠してオレから目を逸らした。「なんか、良かったな~」と言った先輩を見て、苦笑してる。
……なんかすごい嬉しい。かも。なんか照れてるっぽい颯が、好きすぎる。
「あ、ちょっと店行ってくる。颯、またな? 慧くんも。また明日も寄ってよ」
「はーい」
少し列ができると、皆も並びたくなる心理になるのか、あっという間に行列になってしまったそこから離れて歩きながら、かき氷を食べる。
「客寄せ、とか言ってたけど……ただ、味見してただけだよね」
颯を見ながら言うと、クスクス笑って頷いた後。
「でも、慧が店の前で幸せそうに食べてたら、皆食べたくなるかなーとは思ってたよ」
「えっそうなの?」
「だって幸せそうだから。……まあ、あんなに並ぶとは思わなかったけど」
はは、とおかしそうに笑う颯に、オレも、すごい列だったねーと笑ってしまった。
「ていうか、全然違った、颯の先輩たちのイメージ。真面目で勉強できそうなイメージで……」
「だろ。真面目って感じじゃないな。成績良い人達ではあったけど」
「はっ。やっぱりチェスできる人って頭いいのかな?」
「そうとは限らないけど。チェスにどんなイメージある?」
可笑しそうに笑う颯に、んー、と考えて。
「……なんか、頭良くて、貴族とか、そういう人達の遊び??」
「貴族って……」
はは、と笑ってる颯は。
楽しそうで。
……颯、こうして一緒になってから、楽しそうに笑うのは分かってた。
それは、オレが、昔は見たことないような笑い方で。
でも、そういう風に笑うような関わりをしてなかったから、見たこと無かっただけだと思っていたのだけど。
さっきの先輩の言い方だと。
オレと居るようになってから、楽しそうに笑うようになったのかぁ。
と。思うと。
そういえば孝紀も、「あんな顔して笑う颯、やっぱ、初めて見た」とか言ってたし。
……オレと居て、颯の笑顔がふえたなら。
…………すっごく、嬉しいよな。
(2024/7/7)
七夕🎋ですねぇ✨
🌟願いごと 叶いますように✨
1,723
お気に入りに追加
4,072
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」
悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、でもなぁ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。
凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身も弱い。
なんだろこのイケメン、と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。
契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします!
トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。ちょっと仲良くなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨
表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま
素敵なイラストをありがとう…🩷✨
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる