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第172話 仲良し
しおりを挟む屋台に戻ると、昴が「何遊んでんだよ」と言ってきた。
「遊んでないんだよ、ちゃんと列並べて、よし、て思ったらさ」
「よし、のとこで、戻れよ」
「違うんだよーなんかちっちゃい女の子に、フランクフルトはここでいいかって聞かれて、そうだよーって返事したら、プロポーズされちゃって」
昴は、ちらっとオレを振り返り、顔を見ながらため息。
「お前ほんと、ちびっこにまで振りまくな」
「笑顔でって言ったの昴じゃんかー!」
ひどいー、言われたから余計に笑顔にしてたのにー!
焼きそばをパックに詰めるのを手伝いながら、そう言うと、昴は、ああそういえば、とか頷いてる。
「だからって、プロポーズされるくらいふりまけなんて言ってないだろ」
「つか、オレだって、そんなことされるとは思ってなかったし」
「ほんとにお前は……」
はー、と何だか深いため息をついている昴。
「颯はそこに居たのか?」
昴がそう聞いてきたので、なんとなく颯を探すと、今は綿あめを手伝ってて少し離れてる。それを見つつ、「された時は居なかった」言うと。
「どこで来たの」
「えーと、プロポーズに何て答えようって思ってる時」
「で? どーした?」
「……なんか……」
さっきの出来事を、んー、と頭の中で呼び起こす。
「なんか……このお兄ちゃんはオレと結婚してるから、て断ってた」
「…………」
「このお兄ちゃんのこと、大好きだから、ごめんねって」
ぽぽぽ。なんか、顔がちょっと熱いのは、忙しかったり、焼きそばが熱いせいじゃない。颯がすっごいカッコいい顔で、皆の前で、オレを大好きだからとか言ってくれたのが、なんか今更ながらにめちゃくちゃ嬉しいから。
「女の子は諦めた?」
「うん。颯に、お兄ちゃんもカッコいいからもういい、って感じだった」
あは、とおかしくなって笑ってしまうと、昴は、またまた呆れたように。
「それ、周りの奴らも聞いてたの? それともその女の子だけ?」
「ううん、列のど真ん中だったから、周り中見てた」
「――――……」
なるほどね。と昴。
そのまま、焼きそば混ぜてる昴と、横で詰めてたのだけど、少し考えて、良く分からず。
「なるほどねって、どういう意味??」
そう聞くと、昴は、オレをまた見つめて、苦笑。
「なんかさっきから、買いに来る子たちが、お前と颯をちらちら見てるから。カッコイイって思ってんのかなーと思ったけど、なんか違う雰囲気だなと思ってて。やたらキャーキャー言ってるし」
「え。そう?」
「買い終わっても周りにいるだろ」
「…………」
言われて見てみると、確かになんか付近に女子率が高い。こっちを見てるし。
「まあもう普通にしてれば、学祭、回りに行くだろ。スルーして、とっとと焼きそば詰めて」
「あ、うん」
急ぎながら、あ、そういえば、と昴にまた話しかけると、ん? と見られる。
「その女の子さぁ、びっくりなんだけど」
「ああ」
「匠の妹ちゃんだった」
「は?」
「匠のお母さんと妹ちゃんが来てて。だからフランクフルトに並ぼうとしてたみたい。莉子ちゃんていうの。可愛かったよー。あ、ほら、あの子」
ちょうど隣のフランクフルトの会計とお渡しのところで、莉子ちゃんに、匠が渡しているところだった。
「可愛いよね、なんかちょっと似てるし」
「――――……」
なんか黙って聞いてた昴が、突然。ぷは、と笑い出した。
そのままなんだか知らないけど、ひーひー言って笑ってるし。
「えっどうしたの???」
珍しいんだけど、こんなに笑うの。
「……あーやば。悪い、ちょっとこれ混ぜてて……焦げる」
「う、うん……」
昴から受け取って、焼きそばを焼きながら、しつこく笑ってる昴に、首を傾げていると。
「……絶対さっきの話ですよね」
莉子ちゃんとのやりとりを終えたらしい匠がいつの間にかこちらに来てて。
「つか、笑いすぎですよね、先輩、ほんと無理」
「だって、お前……何、遺伝子レベルで惹かれるとか??」
「もーほんと、笑いすぎです」
なんだか背後で良く分からん会話をしている。
いつの間にこんなに、仲良くなってるんだろ。
くる、と振り返って、ひーひー笑ってる昴、その横でなんか色々言ってる匠を見つめて。
「なんか、二人って、すっごく仲良しだよね」
そう言うと、「は?」と眉を顰める匠と、また笑い出した昴。
オレは焼きそばが焼けてきたので、「昴詰めて―」と昴を呼んだ。まだ笑いながら、パック詰めを始める。
「匠、ゴムと箸つけてって」
「オレこっちの班じゃないんですけど」
「暇そうだから」
「暇じゃないです」
言いながらも、昴から焼きそばを貰って、言われた通りにしてる匠に、「ほんと仲いいね」と笑ってしまう。
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