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第169話 結婚?
しおりを挟む朝から色々あったけど、開始の放送が流れると、一気にお客さんが増えて、それどころではなくなった。
焼きそばなんて出るのはお昼位からかなーとか言ってたのに、意外と早い時間からお客さんがやってきた。
フランクフルトや綿あめは、おやつみたいなものだから最初から出るかなとは予想してたけど、とにかくもう皆でフル回転。担当時間じゃない皆も入って、大忙し。綿あめとかはある程度、ビニールに詰めて取り置きしといたのに、もう無くなっちゃったし。
こんなに混むと思わなかったねーなんて、言ってたら、昴が言った。
「αとΩが多い店って、なんか口コミで広まってるらしいぞ」
「えっそうなの??」
な、なるほどー。
そうなんだよね、αもΩも希少なんだよね。なんかオレの、というか、高校の周りに多すぎて、ついでに匠のまわりにも、αが多かったから。
ていうか、αって、自然と集まるのかな。
あーだからかー。なんか、向こうにも焼きそばとかあるのに、なんでこっちばっかりとか、思ってたんだよね。なるほど。
「慧、お前、並んでる列、整列させたり、ちょっとお待ちくださいねーとか、話して来いよ。笑顔でな?」
「はーい。ん? 笑顔で?」
「そう、お前の笑った顔で、並んでる苛つきを吹き飛ばしてきて」
「ええ……そんなのできるかなあ……」
「いつも通りでいいから」
いつもどおりでー? できる?? と不思議に思って困りつつ、屋台を出て、とりあえず、それぞれ並んじゃってる列に、まっすぐ並ぶように言ったり、最後尾こちらでーす、とか、案内したり。
とりあえず昴に言われた通り、笑顔を心がけてはいる。
苛つきを吹き飛ばしてるかは、分からないけど。
「お兄ちゃん! フランクフルト、ここ?」
可愛いふたつ結びの女の子が、お母さんと手を繋ぎながら、聞いてくる。お母さんも綺麗だし、女の子、なんかめっちゃ可愛い。
オレはしゃがんで、女の子と、目を合わせた。
「うん、そうだよ、ごめんね、今一生懸命作ってるから、並んでてね?」
くりくりの瞳が可愛くて、ふふ、と笑いながらそう言ったら、じいっと見つめられて。
「おにいちゃん……」
「ん?」
「結婚してください……っ!!」
「――――……」
一瞬、ぽけー、と、女の子と見つめ合ってしまった。
「「えっ」」
オレと、その子のお母さんの、驚きが、重なった。
ぱっと、お母さんを見上げて、お母さんもオレを見て、目が合うと、ぷ、と二人同時に、吹き出してしまった。
「莉子、結婚申し込まないで」
クスクス笑うお母さんに、莉子と呼ばれた女の子は、ぷんぷんに膨らむ。
「だって、お兄ちゃん、素敵なんだもん……!!」
「ちょっとー、ハルくんはどうしたのよー」
「ハルくんはもういいのー!!」
「あんなにハルくん、カッコいいって言ってたのにー」
お母さん、可笑しくてたまらないという感じでクスクス笑ってる。
謎のハルくん。……彼氏? って、多分、六歳とかそれくらいだと思うんだけど。……可愛すぎる。
「お兄ちゃん、私、莉子って言うの。その内に、おっきくなったら、結婚して?」
えーと、六歳として、オレ二十歳だから、十四離れてるから、えーと、二十歳の時に三十四? まあそれなら無くもない?
……って、無いわ。無い無い。
本気にしてる訳じゃないけど、考えてたらおかしくなって、クスクス笑ってしまうと、「笑わないでー」と、莉子ちゃん。
周りに並んでる人達にも聞こえてて、なんだか、ほのぼのした雰囲気が流れている。
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