【ひみつの巣作り】

悠里

文字の大きさ
上 下
145 / 209

第145話 颯の初めて

しおりを挟む

 オレの顔がちょっと落ち着いてから、颯が、そういえば、とオレを見つめた。

「美樹とどんなこと話したのか聞いてもいいか?」
「うん。あ、颯は何を聞いたの?」
「困らせたいって思ってエントリーしちゃった、ごめんなさいってそんな感じだったな」
「なるほど」

 それだけか。まあでも、それで分かるもんね。

「そっか、じゃあ……美樹ちゃんが言ったことってより、どうして話すことになったのかーとか、オレが思ったこと、でもいい?」
「いいよ」

 ふ、と颯が笑う。

「んと……なんとなく流れは聞いたって言ってたよね?」
「ああ、あいつ。匠?」

 言いながら、颯が、ふ、と可笑しそう。

「坂の下で会った時は、あー良かった会えて、って言ってたんだけどな。その後、二人で歩き出したら、なんか緊張してた」
「……昨日怖かったみたいだよ??」
「そっか」

 颯はクスクス笑って頷く。

「オレのこと、怖い奴は居るからまあ、慣れてんだけど」
「……颯、怖くなかったけど。最初から」
「――――ん。慧は、な」
 ちら、と視線を流されて、目が合うと、颯はとても綺麗に微笑する。

 ……うーん。カッコイイな。
 などと内心はドキドキ浮かれつつ。

「……あ、それで?」
「匠に、何で慧が美樹と話すことになったんだ? って聞いたんだよ。結局申し込んだのが美樹だったことが分かったから伝えて、帰ろうとしたらそこでばったりあの二人に会って……会ってすぐに慧が、何で申し込んだの?ってさらっと聞いてました、って言ってた」
「……そ、そう。まあ。その通り……」

 うん、と苦笑しながら頷いてから。

「もともと匠とその友達と、あの教室で話しててさ、もう申し込んだのが美樹ちゃんと孝紀だっていうのが、匠の話で確定したの。でもさ、颯もエントリー自体は、別に悪いことじゃないって言ってたし、オレもそう思ってたし。颯が何もしないなら、良いっていう結論になったんだよ。辞退すれば済むし」
「ん」
「帰ろうとしたら、ばったり会っちゃって……多分オレね、颯がちょっと気まずくなってるのかもって言ってたのがずっと気になってたと思うんだけど……だから、話してすっきりしちゃえばいいのにって思ってたんだと思う……顔見た瞬間にさ、ぽろっと言っちゃって……」
「ん。そっか」
「まあ……言った瞬間、あっ言っちゃったって思って……そしたら後ろから、昴が、バカ、て言ったのが聞こえて」

 そう言うと、颯が、ぷ、と笑って口元を押さえる。

「まあほんと……ほんのちょっと前にこのままにするって言ってたからね……」

 苦笑いを浮かべてると、そこにハンバーグがやってきた。
 颯はステーキ。

「わーい、めっちゃおいしそう。いただきまーす」

 話いったん置いといて、手を合わせてから、ハンバーグを口にする。
 ……おいしい。モグモグ噛みながら、ふと、颯のステーキもおいしそう……。

「颯颯、交換こ」
「いいよ」
 ふ、と笑んで、切ったステーキをオレの口の前に。カウンター、意外と誰にも見られそうにないので、ぱく、と食べる。

「おいし。……はい、颯」
 オレも颯の前にハンバーグを刺したフォークを差し出すと、颯がちょっと笑いながら食いついた。

 ……ふふ。可愛い。食べてくれる颯。
 颯に食べさせるとか、嬉しいー。

「どっちもおいしいね」

 ご機嫌になりながらそう言ったら、ん、と頷いて口元を少し拭いてから。

「……なー慧?」
「ん?」
「こんな風に食べさせてもらうの、慧が初めてなんだよな、オレ」
「えっ」
「ていうか、食べさせてやるのも、お前が初めて」
「……そ、そうなの?」

 えーっと。オレは、結構、あーんてされて、ぱくぱく食べてきちやったけど。まあでも、あれには何の意味も、ないしな。
 ……ていうか。

「颯の初めて貰うの、嬉しい」
「……」

 きょとん、とした顔でオレを見た後。
 ぷっと笑って、ぷに、と頬を摘まんでくる。

「妙な言い方」
「え?」
「ちょっとやらしく聞こえるよな」

 クスクス笑われて、かぁぁ、とまた熱くなる。

「ちがうしっ」
「知ってるけど」

 クックッ、と笑う颯。
 ――――……そういえば。

 こんな風に笑う颯も。
 ……あんまり見たことが無いかもしれない。


 颯はいつもなんかカッコよくて。もちろん友達と居て、笑ってるんだけど……たまにオレを見てて可笑しそうに楽しそうに笑う、こんな感じは、見かけてなかった、かも……?


 ……こういうのなのかなぁ。
 オレと居たあと、楽しそうに見えたって、言ってたの……。





(2024/3/13)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...