【ひみつの巣作り】

悠里

文字の大きさ
上 下
120 / 209

第120話 突然言えた。

しおりを挟む



 教授が来たので話すのは終わり、授業開始。
 授業を聞きながらだけど、今の会話を思い起こす。

 ……昨日の颯、嫉妬とかしてるっぽくはなかった。
 優しかったし。笑顔だったし。
 でも皆が言う感じだと、きっと、知らないαの匂いに、嫌だなって思ったってこと、だよね。

 オレだって、颯が、他のΩの匂いなんかつけてきたら、絶対やだし。
 ……颯がそれに気づいてなかったとしても、そんなの絶対やだと思うし。
 逆の立場だったら、聞かずに、やりすごすことなんて、出来ない気がする。

 颯は、オレが颯の匂いしか分かんないのが可愛いって言ってくれてた。
 オレが、αの匂いに気づいてもなくて、颯のだけが分かるって、言ったから、きっとオレのこと。……多分許してくれて、何も言わないでくれて。でも、相手のαにだけ牽制するために、そうしたんだ。
 ……でもって、そのことで、心配までして、一人になるなら呼んで、とか。
 そんな心配してたってことは、オレに匂いつけたこと、ちょっと後悔してたりとか、したりするのかな……。

 オレが今、颯の匂いをめちゃくちゃさせて歩いてるのは……。マーキングされてるΩってことになるのかなって、結構ハズイ気もするけど。でも、なんか、それだけ、オレのこと……好き、なのかなって、都合のいいことも思っちゃったりすると。やっぱり嬉しいというか。

 ……でもな。
 なんかちょっと――――……。

「――――……」

 そっとスマホを出して、前にいる健人の背中に隠して颯へのメッセージ。
「一限から二限行く時、どこ通る?」そう聞いた。
 授業中だから見ないかなあと思ったら、すぐ既読がついて「三号館から四号館。何で?」とすぐ返ってきた。
「オレも四号館だから入り口で会える? 一限終わったらすぐ行くから」と続けて聞くと「いいよ」と即、返信がくる。
 約束が終わるとスマホをしまって、授業に集中。
 一限が終わると同時に、立ち上がった。

「慧?」
「ちょっと先に四号館行ってる!」
「お前ひとりになるなって言われたんだろ?」

 昴の言葉に、「四号館まで人居るし、颯と会うから平気。教室でまたね!」と返して、教室を急ぎ足で出て、階段を駆け降りた。

 ダッシュで四号館まで走っていくと、入り口に颯の姿。

「颯っ」
 駆け寄ったら不思議そうな表情。

「慧? どうし――――」
「こっち、来て?」

 颯を引いて、四号館に入り、小さめのゼミ室が並んでる教室を抜けて、少し奥の、電気のついてない部屋のドアを開けた。
 中に入ってドアを閉めると、颯にドアの前に立ってもらって向こうからすぐあかないように、寄りかかってもらった。

「颯、オレね」
 そう言った時、颯の手が、オレの頬に触れた。

「慧、もしかして、怒ってる?」
「え?」
「周りにバレたよな?」
「あ。颯の匂い?」
「そう。お前は気づいてないっぽかったけど、周りは気づくだろ。勝手にそんなことして、悪かったと思って――――」

 オレは、颯の頬に触れて、引き寄せて、唇を重ねた。

「……慧?」

 颯がちょっとびっくりした顔でオレを見てる。
 ……まあそうだよね。急に呼び出して、急にこんなとこ連れ込んで、急にキス、なんかしたら。驚くよね。

「……あの、オレっ……」
「ん……?」

「颯のこと、好き、だから……!」
「――――……」

 もっとびっくりされた。
 こんなに唐突に自分から出た、ずっと言えなかった言葉に、かあっと、顔に血が上るけど。

「ごめん、昨日颯に、やな思い、させて。気付かなかったとは言っても……ごめん。オレが、怒るとこじゃないよ、ほんとは、颯が怒ってもいいとこ、だよ」
 颯は何も言わず、オレをじっと見つめている。

「でも、オレ、颯のことが……好き、だから。これから先、何かの事故とかで、オレから、誰の匂いがしても、関係ないから」
「――――……」

「昨日、怒んないで、優しくしてくれて、ありがと。オレ、全然怒ってないし、勝手なこととかじゃないから」

 なんだかとっても真剣な顔で、まっすぐ見つめてくる瞳が。
 なんか好きすぎて。

「颯の匂い、つけてくれていいから。ていうか……颯の匂い振りまいて歩いてるの、ちょっとハズいけど……でも、なんか、嬉しい気もする、し」

 良かった、会いに来て。
 怒ってる? なんて、颯から出るってことは、絶対颯も、気にしてたんだ。

 言いに来て、良かった。
 ……なんか勢いで、好きって、言えたし。いっせきにちょ……。

 不意に颯に抱き寄せられて、え、と思った瞬間、キスされた。

「ん……っ」

 瞬き、繰り返してたけど、キスが強くて、すぐにぎゅっと目を閉じる。
 完全に抱き込まれてしまって、動けない。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...