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第115話 颯のファンみたいな?
しおりを挟む颯と一緒にカレーを作るのは、すごく楽しかった。
颯は料理をする時いつもだけど、ほんとに優しくて、オレが野菜を切るのが下手でも、すごく丁寧に教えてくれる。
ちゃんと切れると、上手、と笑ってくれて、もうなんか本当に好きって思いながら、頑張って切った。
カレールーじゃない、スパイスを使ったカレーなんて、初めて作った。
「めちゃくちゃ美味しいーなにこれ、いい匂いー」
ごはんもなんか良く分かんないけど、黄色くておしゃれだし。
「この黄色いのなんだっけ?」
「黄色……ターメリック、な」
クスクス笑う颯の言葉に、そうだった、と笑い返す。
「颯、お店出せると思うー」
美味しいー、とめちゃくちゃご機嫌になってるオレを見て、颯はまた笑う。
「慧が客で毎日来てくれるなら、出してもいいよ」
「えー、ほんと? 行く行く」
颯はきっと会社を継ぐとかして、とにかくスーツを着て、カッコよく仕事しちゃうんだろうけどと思いながらも、話にのってくれる颯が嬉しくて、オレもそう言って笑う。
ふと、さっきのことを思いだしたけど、颯は全然普通に楽しそうにしてくれているし、優しいし。いいかな、あえて言わなくて。昴も、颯が何も言わないならって言ってたし。
カレーを食べて、少し休んでから、いつも通り颯とお風呂に入ることになった。
いつもだけど、どう入るかは別に決まってない。髪を洗ってもらったり、たまにはオレが洗ってあげたり。背中を流し合うこともある。けど、颯は基本、あんまり体に触らないようにしてると思う。それはお風呂ですると、オレがのぼせるから? みたいだけど。
まあ確かに、熱いし、明るくて丸見え過ぎて、声も響くし恥ずかしい。颯が、のぼせる心配からそう言ってくれて、あまり触らないようにしてくれてるのはありがたいなと思ってたりする。
洗い終えてお湯につかって、颯と向かい合うのはいつもと同じ。
……濡れてる颯、マジで超カッコいい。皆に見てほしいような、誰にも見せたくないような、不思議な気分。なんかもはやオレってば、颯のファンみたいな感じになってきたような……?
濡れ姿コンテストとかあればいいのにー。絶対優勝! なんて、楽しくそんなことを考えていたら、ふっと昼のことが浮かんだ。
「あ、そうだ、颯」
「ん?」
「今日ね、オレ……颯の元カノに会ったんだ」
「……美樹?」
「そう。美樹ちゃんて子だったと思う。あんなに近くでちゃんと顔見るの初めてだったけど。あと、一緒に居たαっぽい奴も、見たことあると思う」
「孝紀のことかな。わりと美樹とよく一緒に居る」
「あー……言われてみたら、そんな名前だったような気するかも……」
うんうん頷いていると、颯はオレをまっすぐ見つめた。
「どこで会ったんだ?」
「昼休みにコンテストの応募してこようと思って、階段上ってたら上から降りてきてさ。ぶつかってオレ、美樹ちゃんを支えようと思ったら、自分が落ちそうになっちゃって」
「階段から?」
びっくりした顔の颯に、「ごめん、でも大丈夫だったよ」と焦る。
「そこに居た奴に、助けてもらったんだ」
「ふうん……知ってる奴?」
「ううん。初めて会った。匠って名前なんだけど、多分あいつ一年のすごい美形って言われてた奴だと思うんだけどね。コンテストも出るんだって」
「ああ、あいつか……助けてもらったってどんな感じで?」
「落ちそうになって、抱きとめてもらったというか……」
ちょっと言いにくいなと思いながらそう言うと、腕を取られて、颯に引き寄せられてしまった。そのまま、むぎゅ、と抱き締められてしまう。
「――――……」
裸の颯の胸に、すっぽり。
わわわ。お風呂で十分あったまってるんだけど、さらに体温が上がる。
「気をつけろよな。頭でも打ってたらと思うと、ぞっとする」
優しい声でそんな風に言う颯に、ちゅ、と額にキスされる。
「……ん、ごめん。オレもちょっと焦った」
そう言うと、苦笑いの颯が頬に触れてくる。
あ、そうだ、その助けてもらった時に、匂いついたとか……颯は気づいてないのかな。聞いてみようかな、と思った時。
「美樹とは何か話した?」
匂いとかより、そっちが気になるのかな、と思って、颯の顔を見つめる。
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