【ひみつの巣作り】完結

悠里

文字の大きさ
上 下
100 / 216

第100話 寂しいからの。

しおりを挟む


 行っちゃった。
 少しの間、颯が出て行ったドアを見つめてぼー。

 この部屋に来て、颯が居ないのって初めてかもなぁ。
 でもまあ、ついこないだまで一人暮らししてた訳だし、別に一人がそんなに寂しいとか言う訳でもない。
 二泊くらい我慢しなきゃ。

 と考えたところで、我慢って言っちゃってるなあと気づき、ぽりぽりと後頭部を掻きながら、リビングへ。
 颯に言われた通り、スマホをパジャマのポケットに入れてから、オレは忘れないうちにと、洗濯機の中の颯のパジャマを拾い上げた。
 ぎゅ、と抱えると、ふわ、と颯の匂い。

 きゅん。
 ……胸の中、何だかすごく嬉しい気持ちで満たされる。

「やっぱり颯のパジャマは絶対必要」

 パジャマを抱き締めたまま、鼻歌まじりに寝室に向かって、ベッドの上に颯のパジャマを置いてから、超ラフな格好に着替えて、またスマホを持つ。
 そのまま洗面台で顔を洗って髪も整えてからリビングに。
 テーブルの上に、お皿にのったパンが置いてあった。……昨日颯と一緒に買ってきたパン。
 
 ……早く起きて、一緒に食べればよかったなあ……。
 あと、ちゃんと着替えて、ちゃんと送ってあげればよかった。

 颯がオレを、起こさないように寝かせてくれてたのは分かってるけど。

「――――」

 うわ……すでにちょっと寂しいってどういうこと。早すぎる。まだ十分位しか経ってないぞ。なんだこれ。
 やばいやばい。
 気を取り直して、テレビをつけた。
 天気予報がやってる。雨降ってるって言ってたな。とりあえず、これでいっか。

 キッチンに入ると、コーヒーサーバーの隣にオレのマグカップが置いてある。
 コーヒー淹れといてくれたんだな、と思いながら、マグカップにコーヒーを注いだ。

 ミルクを入れて、カフェオレにして、こく、と一口。
 テレビから聞こえてくる天気予報に、ちょっと眉が寄ってしまう。
 なんか今日、雨が強そうだなあ。
 颯、事故りませんように、と祈りつつ、コーヒーをテーブルに置いて、腰かけた。

 ここで一人でご飯食べるの初めてだなあ。
 ふ、と、部屋を見回す。いつもは、向かいに颯が座ってて。
 いつもは颯しか見てない気がするから、あんまり部屋も見回さないかも……。こんな感じだっけ。
 ご飯の時はテレビもつけないから、それだけでもいつもと少し違う。

 一人暮らししてた時は、当たり前だけど、一人でご飯食べて、家事も一応一人でやって、それが気楽で快適って思ってたのになあ。

「……ごちそうさま」

 静かに言って、立ち上がり、食器を片付けた。
 颯、自分の食べた分はもうちゃんと洗ってあるし。

 ……ちゃんとしてるよな。颯。
 …………ていうか、食器くらい、残して置いてくれたら、オレ、洗ったのに。

 もー、昨日目覚ましかければよかったー。
 起こしてって、頼んどけばよかったなぁ。もう。

 寂しさのあまりちょっと後悔しまくっていたら。
 テーブルの上のスマホが震えた。急いで画面を見ると、颯だった。

「颯?」
『慧? ごはん食べた?』
「うん。今片付けたとこ。どしたの?」
『コンビニでコーヒー買ったとこ』

 テレビを消して、静かにしてから、リビングの窓から外を見上げる。

「そっか。雨、どう?」
『まだそんなに降ってないよ』
「気を付けてね」
『ん』

「颯?」
『ん?』

「……一緒に朝食べて、送りたかったなーと思ってたとこ」
『――――』

「って、オレが起きれば良かったんだけど……ごめんね」

 そう言ったら、黙ってた颯が、クスッと笑いながら。

『昨日しつこくしたから、可哀想でさ。……でも起こせば良かったな。今度こういうことあったら、起こすから』

 優しい声が、耳に響く。
 ……電話。そういえばあんまりしないから、新鮮。しかもいま、颯も多分車の中で、オレは一人で。すごく良く声が聞こえる。

『でも、可愛い寝顔してたから、オレは、癒されてたけどな』
「……寝顔あんま見ないで」

 言うと、颯がククッと笑う。

『可愛かったよ』

 颯の声。好きだなあ。
 優しい話し方。

『もしかしてもう寂しい?』
「……んん。まだ大丈夫」
『まだ、ね』

 またクスクス笑われてしまった。

 でもなんか、颯と話して、かなり気分がほこほこになったので、まだ耐えられそう。

『じゃあ行ってくる。どっかパーキング止まったらまた連絡していい?』
「うん。……待ってるね」
『ん。じゃな』

 優しい声がして、電話が切れた。
 話した時間が表示されて、消えるのをじっと見つめて、はー、とため息。

 ……好きだなあ、颯。

 起きれなくてごめんねって思ってたのも、なんか、少しのやりとりで、なんだか、幸せな気分にしてもらってしまった。

 ……大好き。颯。
 …………とか言ってる場合じゃなかった。


 そこで、はっと気づいて、すぐ歯磨きへ。
 

 ささ、巣作り巣作り。

 うきうきわくわくと、寝室に向かった。

 



しおりを挟む
感想 411

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、でもなぁ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。 凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身も弱い。 なんだろこのイケメン、と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。 契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします! トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。ちょっと仲良くなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨ 表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま 素敵なイラストをありがとう…🩷✨

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

処理中です...