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第100話 寂しいからの。
しおりを挟む行っちゃった。
少しの間、颯が出て行ったドアを見つめてぼー。
この部屋に来て、颯が居ないのって初めてかもなぁ。
でもまあ、ついこないだまで一人暮らししてた訳だし、別に一人がそんなに寂しいとか言う訳でもない。
二泊くらい我慢しなきゃ。
と考えたところで、我慢って言っちゃってるなあと気づき、ぽりぽりと後頭部を掻きながら、リビングへ。
颯に言われた通り、スマホをパジャマのポケットに入れてから、オレは忘れないうちにと、洗濯機の中の颯のパジャマを拾い上げた。
ぎゅ、と抱えると、ふわ、と颯の匂い。
きゅん。
……胸の中、何だかすごく嬉しい気持ちで満たされる。
「やっぱり颯のパジャマは絶対必要」
パジャマを抱き締めたまま、鼻歌まじりに寝室に向かって、ベッドの上に颯のパジャマを置いてから、超ラフな格好に着替えて、またスマホを持つ。
そのまま洗面台で顔を洗って髪も整えてからリビングに。
テーブルの上に、お皿にのったパンが置いてあった。……昨日颯と一緒に買ってきたパン。
……早く起きて、一緒に食べればよかったなあ……。
あと、ちゃんと着替えて、ちゃんと送ってあげればよかった。
颯がオレを、起こさないように寝かせてくれてたのは分かってるけど。
「――――」
うわ……すでにちょっと寂しいってどういうこと。早すぎる。まだ十分位しか経ってないぞ。なんだこれ。
やばいやばい。
気を取り直して、テレビをつけた。
天気予報がやってる。雨降ってるって言ってたな。とりあえず、これでいっか。
キッチンに入ると、コーヒーサーバーの隣にオレのマグカップが置いてある。
コーヒー淹れといてくれたんだな、と思いながら、マグカップにコーヒーを注いだ。
ミルクを入れて、カフェオレにして、こく、と一口。
テレビから聞こえてくる天気予報に、ちょっと眉が寄ってしまう。
なんか今日、雨が強そうだなあ。
颯、事故りませんように、と祈りつつ、コーヒーをテーブルに置いて、腰かけた。
ここで一人でご飯食べるの初めてだなあ。
ふ、と、部屋を見回す。いつもは、向かいに颯が座ってて。
いつもは颯しか見てない気がするから、あんまり部屋も見回さないかも……。こんな感じだっけ。
ご飯の時はテレビもつけないから、それだけでもいつもと少し違う。
一人暮らししてた時は、当たり前だけど、一人でご飯食べて、家事も一応一人でやって、それが気楽で快適って思ってたのになあ。
「……ごちそうさま」
静かに言って、立ち上がり、食器を片付けた。
颯、自分の食べた分はもうちゃんと洗ってあるし。
……ちゃんとしてるよな。颯。
…………ていうか、食器くらい、残して置いてくれたら、オレ、洗ったのに。
もー、昨日目覚ましかければよかったー。
起こしてって、頼んどけばよかったなぁ。もう。
寂しさのあまりちょっと後悔しまくっていたら。
テーブルの上のスマホが震えた。急いで画面を見ると、颯だった。
「颯?」
『慧? ごはん食べた?』
「うん。今片付けたとこ。どしたの?」
『コンビニでコーヒー買ったとこ』
テレビを消して、静かにしてから、リビングの窓から外を見上げる。
「そっか。雨、どう?」
『まだそんなに降ってないよ』
「気を付けてね」
『ん』
「颯?」
『ん?』
「……一緒に朝食べて、送りたかったなーと思ってたとこ」
『――――』
「って、オレが起きれば良かったんだけど……ごめんね」
そう言ったら、黙ってた颯が、クスッと笑いながら。
『昨日しつこくしたから、可哀想でさ。……でも起こせば良かったな。今度こういうことあったら、起こすから』
優しい声が、耳に響く。
……電話。そういえばあんまりしないから、新鮮。しかもいま、颯も多分車の中で、オレは一人で。すごく良く声が聞こえる。
『でも、可愛い寝顔してたから、オレは、癒されてたけどな』
「……寝顔あんま見ないで」
言うと、颯がククッと笑う。
『可愛かったよ』
颯の声。好きだなあ。
優しい話し方。
『もしかしてもう寂しい?』
「……んん。まだ大丈夫」
『まだ、ね』
またクスクス笑われてしまった。
でもなんか、颯と話して、かなり気分がほこほこになったので、まだ耐えられそう。
『じゃあ行ってくる。どっかパーキング止まったらまた連絡していい?』
「うん。……待ってるね」
『ん。じゃな』
優しい声がして、電話が切れた。
話した時間が表示されて、消えるのをじっと見つめて、はー、とため息。
……好きだなあ、颯。
起きれなくてごめんねって思ってたのも、なんか、少しのやりとりで、なんだか、幸せな気分にしてもらってしまった。
……大好き。颯。
…………とか言ってる場合じゃなかった。
そこで、はっと気づいて、すぐ歯磨きへ。
ささ、巣作り巣作り。
うきうきわくわくと、寝室に向かった。
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