【ひみつの巣作り】完結

悠里

文字の大きさ
上 下
80 / 216

第80話 初デート 1

しおりを挟む

 シャワーを浴びて身支度を整えて、待っててくれた颯に近づくと、颯が笑う。

「さっきと大分違うな」
「さっき寝起き……」

 むー、と膨れると、またぶに、と頬を潰される。
 ……これがしたくて、何か言ってきてるのかな。とチラッと思いつつ、首を軽く振って手から逃れると、笑う颯に頭を撫でられる。

「行こ。駅前に美味そうなとこ見つけた」

 持ってたスマホをしまいながら、颯が言う。

「慧、甘いのと、甘くないのどっちがいい?」
「颯は?」
「どっちでもいいから聞いてる」
「んー……甘いの」
「OK」

 ふ、と笑う颯を見つめながら、マンションの廊下を歩いて、エレベーターに乗り込む。
 一階を押した後。

「慧」

 頬にそっと触れられる。

「デートは初、だよな」
「うん。用事は、色々あったけどね」

 書類出しに行ったり、挨拶に行ったり、引っ越し準備とか、なんか色々、二人でどこかには行ったのだけど。
 なんか、デートっていうような、甘い雰囲気ではなかったような。

「今日は、オレに任せて?」
「――――……」

 返事が出来ない。
 ……息、止まるから。

 なんでそんな、キラキラな感じでオレを見つめるのかな、もう。
 任せるってば。全部何もかも、颯に任せる。

 っていうか、もう、ずっと任せる。

 ってか、すごく好き。
 ヤバい。

 何なんだこれ、もう。
 ほんと、返事が出来ないどころか、息が止まる。

 こくこく、と頷くと。
 ん、と笑う颯が、なんか。めちゃくちゃ優しい顔をしてるので。

 ……もうオレ、今の時点で十分幸せなんだけど。
 ――――……今からデートか。

 死んじゃうかもしれないな。
 ……んん。何で? 呼吸困難か? キュン病で、心臓動きすぎかな?

 ……とか、あほだなオレ、と思いながらも、ちょっぴり、本気で息が止まるの困るな、とか思っていた。
 エレベーターを降りて、マンションを出たところで、「ん」と手を出される。
 キュン。
 不思議なんだけど。
 ……ほんとに胸の奥がそう鳴るんだよね。どこが鳴ってんのかな?

 なんか、鼓動が、とくん、て跳ねる時もある。
 ……乙女か。オレ。

「ん」

 手を差し出すと、クスッと笑う颯に、手を掴まれて、一緒に歩き出す。
 手。繋いでくれるんだよなぁ。颯。

 もちろん荷物持ってる時は無理には繋がないけど、手が空いてると。
 こうして、手を出してくれる。

 
 ――――……オレ。
 実は。
 人と手を繋いで歩くのって、颯が初めて。

 試しにデートしてる子たちと、手は繋がなかったし。
 付き合ったことないんだから当たり前、ではあるんだけど。

 うーん。
 ……思えば、手を繋ぐのも、キスするのも。頭を撫でられたりするのも。
 全部颯が初めて。……なんか。

 颯が初めてで。このままずっと颯と一緒で、颯が最後、がいいなぁ。
 繋いだ手に、ホクホクしながら、そんなことが頭の中を占めてる。

「慧、手、繋ぐの嫌じゃない?」
「え?」
「手、繋ぎたくない奴もいるかなと思って。一応確認」

 聞いてくれるのは、優しいとは思うんだけど。

 ――――……え。全然。嫌じゃない。ていうか、嬉しい。めちゃくちゃ。嫌な訳ないし。
 ていうか、離しちゃやだし。

 じっと見つめながら、何て言おうかなと思っていたら。


「分かった」

 クスクス笑いながら、オレの手を引いて、もっと近くに引き寄せる。


「ほんと可愛いな」

 すごい至近距離で囁かれて、見上げると。
 ……なんか颯も、嬉しそうなので。


 ――――……もうキュン病がデフォルトになりそうな気すらしてくる。
  




しおりを挟む
感想 411

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、でもなぁ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。 凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身も弱い。 なんだろこのイケメン、と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。 契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします! トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。ちょっと仲良くなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨ 表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま 素敵なイラストをありがとう…🩷✨

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...