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第30話 引っ越し当日
しおりを挟む颯のマンションに引っ越してきた土曜の夕方。
オレと颯は、颯がケータリングで頼んでくれた、とってもおしゃれでおいしそうな食べ物を前に向かい合って座っていた。軽く飲もうって言って、お酒も用意。
「じゃあとりあえず……」
グラスを持って、そこで颯が止まる。
「何だろうな。……ようこそ、かな?」
「うん」
なんか改まった感じで、ふ、と笑ってしまう。
「これからよろしく、慧」
「うん。よろしく」
かち、とグラスを合わせて、一口飲んだ。オレは、ちょっと甘いカクテル。
……オレは、少し緊張しながら、グラスを置いた。
――――先々週の金曜、颯と番になって、翌日病院で家族に話して、それから話し合って色々決めた。翌週には籍を入れたり、色々手続きとともに、学校で皆に話した。
で、今週は、もちろん学校に通いながら、颯は、オレが入る部屋を一部屋空けることと、迎え入れる準備。オレの方は、引っ越しに向けて荷物を整理すること。それをひたすら頑張ってた。
二週間、もうなんかすごく忙しくて慌ただしくて。それぞれ色んな人達に説明したりなんだりで、颯とは会っても決めごとだけを話すような感じ。
役所に一緒に婚姻届けを出しに行ったけど、その時は、両親たちもついてきて、一緒にご飯を食べて帰った。二人きりで甘い雰囲気とか、そんなんは全くないまま、とにかくあれこれこなしている内に、今日の引っ越しの日を迎えた。
朝十時頃からオレのマンションに業者が来て、オレの荷物を運ぶとともに、要らないものは処分。父母兄、皆来てくれた。この人達、普段めちゃくちゃ忙しいと言ってる人達なのだけど……と思いながら、感謝しつつ。
トラックのあとをついて、父さんの車で、颯のマンションに到着。
颯のマンションにも、父母姉勢ぞろい。荷物を運び入れてもらったら、母たちがせっせと片付け。普段はお手伝いさんたちが居るし、あんまり家事自体しない人達なのだけど、ここはやるべき時、らしい。良く分かんないけど、超張り切って、オレの荷物もだけど、颯のマンションも、あれこれ色々整理してくれた。
父も兄姉たちも、なんだかんだと話しながら、掃除に奮闘してくれた。
颯は、実はあんまり触られたくなかったらしいけど、もう諦めたみたいで、あとで、また好きにする、と苦笑いを浮かべていた。
おかげで、昼過ぎには引っ越し完了。もう、普通に颯の家で住める感じになったところで、引っ越しそばを頼んで、皆で食べた。
食べ終わってお茶を飲んで一息ついたところで、皆が帰っていった。
それから、自分たちの好きな感じで色々整理しなおしたりしてたら結構いい時間で、今日の食事は頼んじゃうことにしたのだった。それでやっと、座ったところ。
リビングから見える外はもう、暗い。
「なんだか、あれからずっと忙しかったよな」
「うん。そだね」
ほんと、バタバタだった。
「なんか忙しすぎて……まだ実感、無い。結婚、したとか」
オレがそう言うと、颯は「そうか?」と言って、オレを見つめた。
「うん。なんか手続きとかも、言われるまま、わーって片付けてきた感じがするし」
「まあ確かに……事務的なこと、多かったもんな。二人で会えなかったし」
「うん。だね」
そうなんだよね。颯に二人きりで会うの、番になった日以来。
だから、オレはちょっと……ていうか、かなり、緊張しているのだ。
さっきまでみたいに、片付けとかでバタバタしてる時に二人なのは、何とかなったんだけど……静かなところでテーブルで、二人きりで向かい合うとか、ほんと、初めてだし。
もう、ドキドキするんだよ。
今はヒートぽいとか、そういうのはないと思う。落ち着いてる。
なのに、なんか。ドキドキしてる。
(2023/9/23)
◇ ◇ ◇ ◇
あとがき。
前ページで巣作りに直行しようか、新婚生活書こうかと考えていたのですが…
新婚生活でというメッセージを、各サイトで色々頂いて…🥰ありがとうございます💖
新婚のいちゃ甘……というよりは、ですね。
αどうしで張り合ってた時の名残で素直になれない慧が、めちゃ甘くなってる颯に死にそうになってるところから書きたいので、もしかしたら皆さまが思ってるのとは違うかもしれませんが…笑
楽しんで頂けるように頑張ります~(´∀`*)ウフ。
それから。前ページの後書き。消すって言ってたんですが、せっかく下さったコメントが何に対してか分からなくなってしまうので、残しちゃいます(*'ω'*)
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