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◇出逢い編

◇勝負

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 着替え終えて、校庭に出ると、オレ達が最後だったらしく、すぐに練習が始まった。準備運動の後。

「タイムとるぞー、1本、思い切り真剣に走れよー!」

 教師の声。
 隣の類が、ふー、と息を付いたのが聞こえた。

「類、ちゃんと真剣に走って。 マジでタイム、勝負しよ」
「――――……オレ、補欠がいい」


 一言で返事をして、類がふい、と顔を背けた。


「オレが勝ったら、デートしようよ」
「……勝負しない」

「……じゃあ、オレが負けたら――――…… もう話しかけないからさ」
「――――……」

 類が、ふと、オレを見た。

「オレ、人生で負けた事ないんだよね。陸上部の奴にも」
「――――……」

 わざと、挑発してみると。
 類が、ムッとしたまま、オレを見た。

 乗るかな。あ、なんか、乗りそうな顔、してきてるような。

 ……つか、ちょっと待て。
 ……って、これで負けたら、シャレになんないけど。


「あー…… 類、ごめん――――……やっぱり今の無し」
「え?」

「……話しかけないっていうのは無しで良い? それは嫌だった」
「――――……」

「オレが勝ったらデートで……類が勝ったら――――……んー……」
「……もう、話しかけないんだろ? オレ、それでいいけど」

「無理。それは、絶対嫌だ」

 言い切ると。
 類は――――……マジマジとオレを見て。


「……何だよそれ」

 ぷっと笑った。
 ほんの、少し、だったけれど。
 手の甲で口元隠してはいたけれど。


 確かに、笑った。

 何だか嬉しくなりつつ。
 あ、と思いついた事を言ってみる。
 
「――――……3日間、話しかけないっていうのは?」
「……短いんだけど」

「つか、オレにとっては、すげー長いから。 それで勘弁して」
「――――……お前って、ほんと言ってること分かんないって、言われない?」

「言われないよ。――――……類以外にこんなにしつこくした事ないし」
「……しつこい認識あるんだ……」

「そりゃあるよ。無かったらおかしいでしょ」
「――――……ほんと、変なの……」


 はー、と類にため息をつかれる。
 オレってほんと、類に何十回ため息つかれるんだろうと思うけれど。


「でもあれかー。類、ちょっとブランクあるしなあ? 負けそうで嫌なら勝負はやめとく?」

 む、とする類。
 ――――……可愛い。乗ってきそう。


「……負けたら、1週間、話しかけんな」
「――――……1週間?」
 
 3日間よりはのびたけど。
 ――――……もう二度と、じゃなくて、1週間で良いんだ、という、そっちの気持ちが浮かぶ。



「……嫌だけど――――…… 勝ったらデート、目指して頑張る」
「――――……」


 で。結局、どうなったかというと。
 

 0.3秒という、誤差みたいな超僅差ではあったけど。
 オレが勝った。



 執念? とにかく、気持ちでの勝利、だな、うん。








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