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◇出逢い編
◇偽善?*浩人
しおりを挟むオレは誰とでも仲良くなれる。
昔からそうだった。
女の子にもモテるし、男にも人気があって。
先輩とか先生とか。下からも好かれる。
なんか、とにかく人に好かれる星回り?
何もしなくても、周りに人が集まる。
母さんがやたら友達の多い、明るい人で。
そんな人に育てられたせいなのか。
特に、自分が仲良くなりたいと思って、そうなれなかった事は、今までは無かった。
予鈴が鳴って、朝のホームルーム前の僅かな時間。
「な、桜木」
背中をつつく。
「……何?」
嫌そうな声。
お、今日は声が返ってきただけマシかも。
「昨日の本。読んだよ」
「――――……読んだの?」
ますます眉が寄る。
あーあ。綺麗な顔が台無し……。
でも、少し、驚いたみたいな顔してくれたのが。
反応が返されたのが、嬉しい。
「面白かった」
「――――……」
本気で言ってんのかな、とでも、思ってそうな顔で、オレを見て。
類は、ぷい、と前を向いた。
「――――……今日も図書室行くの?」
「……」
「別の本、選んでくれない?」
「……」
返事はない。
担任が入ってきた。
そのまま、授業が始まった。
類は休み時間は、本を読んでるか、寝てるか、居ないか。
全然誰とも絡まない。
つまんなくねえのかな。
――――……ずっと1人で、何を考えてるんだろう。
教室の窓際で、何人かで何となく集まってた時。
オレは、ぽそ、と周りの奴に聞いた。
「桜木と同じ中学の奴って知ってる?」
「知ってるけど……何でお前そんなに桜木の事気にすんの?」
「何でって……?」
「だって、あいつって、全然仲良くしたそうじゃないじゃん。クラスに溶け込めない奴を助けてやろうっていう感じ?」
「……は?」
――――……助けてやろう?
そんな上から目線の感じではない。
――――……むしろ、仲良くしてもらいたい、のに。
あまりに不快で、眉を顰めたオレに、そいつは少し引きながら。
「だってあいつと話してもメリット無いじゃん」
「――――……」
「お前良い奴だからああいうの、ほっとけないって感じ?」
――――……こいつと話してもメリットねえな。
「――――……オレ、トイレ」
不快なその場から離れて、深呼吸。
トイレから、類が出てきた。
ふ、と、類がオレを見て、すぐに視線を逸らした。
そのまま、何も言わず、歩いていってしまう。
――――……もしかして、類もそう思ってんのかな。
オレが、良い人きどって、類みたいなのほっとけなくて、
義務感?で話しかけてくる、とか。
偽善っぽいと、思ってんのかな。
…………そんなじゃ、ないんだけど。
その日、ずっと考えた。
何でオレが類と話したいか。
分かりにくくて。
話しかけてもまともな返事も無くて。
むしろ嫌がられてる気がするのに。
何で話したいか。
放課後。図書室で、昨日の本を返した。
昨日と同じ席に、類が居た。
「……桜木」
「…………」
ちら、とオレを見て、類が、ふ、と息をついた。
また来たのか、と、思ってるのかな。
「……オレね、桜木」
「――――……」
「お前が笑う顔が見たい」
「――――……は?」
「……構うのは、それが理由だから」
「――――……」
「……それだけだから。他になんの意図もない」
「――――……何それ?」
「――――……」
類が、きょとん、としてる。
何の脈絡もなく言った、こんな意味の分からない言葉を告げたオレに、警戒してるいつもの感じじゃなくて。
眉を寄せる事も無く、ただ素直に、きょとん、としてて。
初めて、素の対応、な気がして。
「良い人ぶって構ってやってるとか、そんな偽善ぽいのじゃないよ。オレが、お前の笑った顔が見たいだけだから」
「――――…………」
「ごめん、何言ってるか、わかんねえよな……」
「――――……」
何かそれ以上何も言えなくて、どうしようかなと思っていたら。
何も言わず、類が立ち上がった。
また置いてかれた。
仕方なく、類の隣の席に、座った。
今まで、仲良くなろうと思って、
仲良くなれなかった奴は、居なかった。
コミュニケーションスキルは、色んな所で褒められてきた。
なのに。
――――……今までの中で、一番。誰よりも。
類と仲良く、なりたいのに。
なんでそのスキル、類には、効かねえのかな。
俯いたまま、はー、と息を付いたとき。
ことん、と何かの音が、すぐ近くでした。
顔を上げると、目の前に1冊の本。
「――――……」
また昨日みたいな種類の本かな……。
そう思って、諦めながら本を手に取ると。
何だか違う、普通の小説のようだった。
「――――……桜木?」
「…………オレが、好きな本の内の、1冊」
「……一番好きな本、じゃないの?」
「――――……一番好きな本、人に言うのって……恥ずかしいから嫌だ」
……何それ。どーいうこと。
「……自分の内面……見せるみたいで、やだっつってんの」
「……ますます、なにそれ……」
く、と笑ってしまうと。類は、ふい、と顔を逸らした。
――――……ていうか、類、今、過去一番長い言葉で、オレに喋った。
「……偽善でやる奴は……わざわざそんな事、オレに言わないだろ」
「――――……」
「オレ別に――――……そんなことは、思ってなかった」
そんな風に言って、類は、また席にちゃんと座って、自分の本を開いた。
――――……なんか、すげえ嬉しい。
オレは、そのまま、類の隣で、今渡してくれた本を開く。
そのまま、何も話さず。
結構長いこと、本を読んでた。
18時になって、図書委員に、閉室すると、声をかけられるまで。
一緒に。
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