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◇Rain本編
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しおりを挟む――――……小さい頃から、雨は嫌いだった。
傘をさすのも面倒だし、かといって濡れるのも嫌いだった。
雨が降る前のどんよりとした雲も。
雨が降った後の湿った空気も、好きじゃない。
止んだ途端、寒くなったり。
逆に、一気に暑くなったり。
――――……とにかく。
雨は ずっと 嫌いだった。
*****
降りそう。 浩人、早く帰ってくればいいのに。
類がそう思いながら、窓から空を見上げていた時。
テーブルの上に置いていたスマホが、鳴った。
「……もしもし?」
『あ、類?』
浩人の、いつも通り、優しい声が聞こえる。
「お前何してんの? 雨降りそうだぜ? 早く帰ってこいよ」
用件も聞かずにそう言った類に、浩人が電話の向こうでクスクス笑う。
『ゼミが長引いてさ。……それがなあ、類』
「ん?」
『今駅なんだけどさ。もう雨降って来てるんだよな……』
類は、次の言葉が予想できて、少し、無言。
「……お前、何が言いたい訳?」
『分かってるだろ?』
浩人がまたクスクス笑う。
「……とりあえず言ってみろよ」
類はため息をつきつつ、もう予想のついている言葉を促す。
『迎えに来て?』
思った通りの言葉に、類はため息を付いた。
「……やだ」
『なんでだよ? いいじゃん』
「ていうか、なんで今日傘持ってねえんだよ。朝からすげえ降りそうだったじゃんか」
『折りたたみがあると思ったら入ってなくてさ。迎えに来てよ、類?』
「……」
『帰ったら類の好きなもの作ってあげるから。な?』
――――……別に迎えに行かなくても、いつも浩人がご飯を作ってくれているけど。
類はため息をついた。
「……カルボナーラ作ってくれるなら」
そう言うと、浩人がふ、と笑うのが聞こえた。
『いいよ、分かった』
「10分、待ってろよな」
通話を切ろうと、スマホを耳から離した瞬間。
『あ、類!ちょっと待って!』
耳から大分離したのに聞こえてくる浩人の大きな声に、類は思わず苦笑いを浮かべる。
「んなでかい声出すなよ。外だろ? ……何?」
『傘1本でいいからな』
類はす、と無表情になる自分を感じた。
「は?」と一言、聞き返す。
『絶対2本持ってくんなよ?』
「……何で?」
『そんなの決まってるだろ。あいあいが』
最後まで聞かずに、類はスマホの通話終了を押した。
――……あいつ、ほんとにほんとに、頭おかしい。
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