【キスの意味なんて、知らない】

悠里

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第3章 キャンプ

「ほんわか」*樹

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「なあ、樹」
「ん?」

「――――……旅行、楽しい?」
「うん。楽しい」

「そっか」

 蓮がクスッと笑って、そのまま黙る。

 言おうかなと少し迷いながら、オレは、蓮を見つめた。
 ……蓮は頑なにこっち見ないみたいで、目は合わないけど。

「……オレ、ほんとはさ。ちょっと、憂鬱だった。来る前」
「――――……」

 蓮がぴく、と動いて、やっと、オレに顔を向けた。
 オレは、ふ、と笑ってしまいながら視線を逸らして、そのまま空を見上げる。

「一人ずつと話したりするのはいいけど、何人も集まって皆でワイワイするのとか……そんなに得意じゃないと思ってるし……」

 ……あと。坂井が蓮を好きで協力、 頼まれちゃったし……。
 そっちの方は、言えずに黙っていると、蓮はふ、と息をついた。

「――――……ん。まあ。……樹がそう思ってるのは、何となく分かる」

 蓮はゆっくりそう言ってから、「じゃあ何で来るって決めたんだ?」と微笑んだ。

「――――……んー……それは……」
「……もしかして、オレの為だったりする?」

「……為っていう訳じゃ……」

 ちょっと困って、言葉を濁しながら、縁から降りて、肩までお湯につかる。すると、蓮も一緒に隣につかって、クスッと笑った。

「この方が話しやすい。体、見えなくて」

 …………そんな台詞には、何と言っていいのか、よく分からない。

「ごめん、いいよ、続けて」

 蓮が苦笑いでそう言うので、ん、と頷いてから、少し言葉を選びながら話し始める。

「……ん、なんか……オレと暮らしてから、蓮、ずっとオレと居る、でしょ」
「まあ。そうだな。居たいから」

「――――……ん。ありがと……って、そうじゃなくて」
「ん」

 蓮がクスクス笑って、頷く。

「前も話したけどさ――――……蓮って、皆と騒ぐの好きだったでしょ。多分、そっちの蓮も、絶対居ると思うんだよね」
「……ん」

「……それに、そういう蓮もいいなあってオレ、思うし。だから、来たいって思ったんだよね」
「――――……んー……」

 しばらく蓮は、何か考えてて。
 それから、ふ、と笑んだ。

「高校生ん時は、確かに皆で騒いでたし、そういう風にするもんだって思ってたかも。まあもともと嫌いではないのかもしんないけど。でも、樹と居るようになってからは、騒がなくても楽しいし、樹と居れればいいとか、思ってたんだけど……別に、最近騒いでないから、騒ぎたいなとかも、思わないし。……んー……あのさ」
「うん」

「樹自身は、来て、どうだった?」
「――――……オレは、思ってたよりずっと、楽しかった」

 そう答えると、蓮はにっこり笑って、頷いた。


「そう見える。――――……色んな奴と絡むのも、大勢で騒ぐのも、楽しそう」
「ん。メンバーが良かったのかも、しれないけど」
「んなことないよ、きっと、他の奴とでも、楽しめると思う」
「……うん。蓮も居たからね」
「――――……オレが居なくても、樹は、誰とでも仲良くなれるとは思うんだけど」
「……けど??」

「あんまり仲良くなりすぎると、オレが妬くけど」
「――――……」

 ついつい、じー、と蓮を見つめてしまう。

 こんなかっこよくて、人気者で、皆が蓮を好きなのに。
 ……何、言ってるのかなあ、なんて、不思議に思って見ていると。

「そんな見ンな」

 言って、クスクス笑いながら、蓮がオレの視線を手で遮りながら、頭を撫でてから離される。前髪を直しながら……その少し触れられたのが嬉しいなと、すごく思ってしまう。


「……オレ、誰かを、蓮よりも好きになるとか、無い気がする……」
「――――……うわ、なにそれ、樹」

 何だかすごく嫌そうな顔をされて、えっと思って、蓮を見つめていると。


「……場所忘れて、キスしそうになるから、やめろよ」

 はー、とため息をつきつつ、頭を掻きながら、蓮が反対方向を見ている。
 そのセリフにまたちょっと驚いて、それから、ぷっと笑ってしまう。


「蓮こそ。……何、それ」
「……はー。なんかあっつくなってきた。 あいつら来る前に出ようぜ?」
「うん」

 二人でお湯から上がって、露天の扉を開いた所で、皆がやってきた。

「あれ、もう出んの?」

 森田の声に、蓮が「のぼせそーだから先出てる」と答える。
 皆と別れて、シャワーに向かって歩きながら、蓮が笑った。

「なあ、出たらコーヒー牛乳飲も?」
「いーよ。じゃあ、オレ、イチゴがいいー」

「……甘そー……」

 苦笑いの蓮に、ふ、と笑ってしまう。


 少し温めのシャワーを浴び終えて、並んで出口に向かって歩き始めた時。


「大勢で騒ぐのもさ」

 蓮がそう言って、オレを見るので、うん、と頷いて、続く言葉を待っていると。


「……これからは、そっちも、一緒にすればいいよな」
「……ん。そだね」

「まあそれは、たまにでいーけど。オレもう、年取ったから、騒ぐよりゆっくりしてたい」
「また。何それ、年取ったって」


 クスクス笑ってしまう。


 蓮と話すのは、楽しくて。
 ――――……心が、ほんわかするというか。


 一緒に居れるような関係になれて、ほんと、良かったと、心から思う。

 



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