【キスの意味なんて、知らない】

悠里

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第3章 キャンプ

「ふわふわ」*樹

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「お前ら鍵かけて何してたんだよ」
「寝てたんだよ……お前らうるさすぎ」

 森田のツッコミに、蓮が超冷静に答えてる。
 オレは下手に喋ったらバレてしまいそうなので、黙ってた。

「もういいから、お前らはまた炭に火ぃつけてこいよ。燃えるなよ?」
「燃えるか!」

 蓮に言われて、言い返しながら、皆が外に出て行く。

 坂井と南が昨日と同じく中に残って、オレと蓮と一緒に野菜とかの下準備を始める。


「女子は寝てたのか?」
「寝てないけど、ベッドに転がって喋ってた」

 蓮の言葉に、南が答えてる。

「加瀬と横澤くんはぐっすり寝てたの?」
「うん」

 坂井の問に蓮が一言、そう言って頷いてるのを聞きながら、オレはまな板にエリンギをのせた。

 これは昨日切ったから、もう余裕だもんね。
 鼻歌気分で、ゆっくりと包丁を入れる。

「お。樹、エリンギはもう切れるようになった?」

 蓮がクスクス笑いながら隣に立つ。

「任せて」
「任せる任せる」

 くく、と笑いながら、蓮が隣で、手際よく他の野菜を切っていく。


「坂井と南、お好み焼きの用意してくれる?」

 蓮の言葉に頷いて、2人はとなりでボールに粉を入れてる。
 蓮はキャベツをざく切りにして、残りをみじん切りにし始めた。

 思わずエリンギそっちのけで、蓮の手元を見つめてしまう。


「何、樹?」

 くす、と笑われて。

「すごいなー、と思って。手が見えない」
「……見えないって事はないだろ」

「早くて見えない」
「何だそれ」

 そんなやりとりをしてクスクス笑いあって。
 オレはエリンギの続きを切り始める。

 ……なんか、蓮とは切るスピードが全然違うんだよな。
 もうちょっと家でも手伝おうかな。

 苦戦しながらも、まあ大体の感じでエリンギを切り終わった。
 蓮がキャベツを置いた上に、エリンギを並べる。

「出来たよ」
「お。上出来」

 蓮の笑顔に、嬉しくなって頷きつつ。

「あと何か切る?」

 そう言うと、蓮はちょっと待ってて、と言いながら、みじん切りにしたキャベツを、2人の所に持っていく。


「キャベツ、これ混ぜて?」
「了解。加瀬、ほんとイイ旦那になりそ」
「そう?」

 南の言葉に蓮はクスクス笑いながら、すぐオレの隣に戻ってきた。


「樹、とうもろこし切れそう?」
「昨日、蓮食べれなかったもんね。 ん、切ってみる」
「ん」

 まな板にとうもろこしを並べてくれる。


「加瀬、混ぜたよ」

 南がボールを混ぜながら近づいてくるのを振り返って、ありがと、と受け取る。

「じゃあ、これ冷蔵庫入れとくから、この野菜外に持ってってくれる? オレらも肉持ってすぐ行くからもうここ、良いよ」

 りょうかーいと、言いながら、2人は野菜を持って、先に外に出て行った。


「切れそう? 樹」
「うん。もうこれ、ざく、て切っていいの??」
「いいよ。力、入れて。転がらないように気を付けて」
「うん」

 ざく。
 包丁が中に入る。

「おお。意外と、さくっと切れるんだね」
「ん」

 クスクス笑う蓮の笑顔が、楽しそうで。
 こっちまで、嬉しくなってしまう。

「機嫌いいね、蓮」

 と笑うと。

「当たり前だろ」

 クスクス笑って、意味ありげに見つめてくる。


 ……さっきめちゃくちゃくっついてたもんね。
 オレも、なんかさっきから、気分がフワフワしてるし。


「樹」
「――――……」

 呼ばれて、蓮を見上げたら、そっと、キスされてしまって。
 じっと、蓮を見つめてしまう。


「……すげー好き」
「――――……」


 左にトウモロコシ、右に包丁持ったまま。動けず。
 緩む瞳に見つめられると、かあっと熱くなる。


「蓮って――――…… 恥ずかしいよね」

 言うと、ぷ、と蓮が笑う。


「慣れて?」
「……いつになったら慣れるかなぁ……」


 言うと、蓮は、まあ慣れなくても可愛くていいけど。とまた笑う。
 オレがまた言葉にならず黙っていると。

「慣れて、返してくれてもいいよ? どっちでも可愛い」

 なんて言われて。
 もう、全然返せず。



 とりあえず、トウモロコシを、さっくり、切っておいた。







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