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第3章 キャンプ

「樹不足」*蓮

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 昼食を終えた後、夜のバーベキューの買い物をしに、昨日と同じスーパーにやってきた。
 昨日と同じく適当に別れて、レジの前で合流する事になった。


「樹、野菜から選ぼ」
「うん」

 カートを引いてるオレの隣に、樹が並んでくる。

「昨日、野菜は何が美味しかった?」
「んー…… エリンギ?」

 樹が言って、オレを見上げてくる。ぷ、と笑って、樹を見下ろす。

「自分が切ったから?」
「うん」

 微笑む樹に、クスっと笑いながら、エリンギのパックを手にとる。

「また切る?」
「うん。切る」

「どーせ野菜やまもりにすると 森田とか騒ぐし…… 今日は、使いきれそうな分だけにするか……」
「そだね。明日は帰るだけだもんね。あ、でもお好み焼きに突っ込んじゃうって言ってたっけ……」

「そだな。まあでも少な目で良いかな。お好み焼きに突っ込みにくいものもあるし」
「うん、分かった」

 言いながら野菜を見てる樹に視線を向ける。

「樹……」
「ん?」

 振り返って、視線が絡む。


「――――……どしたの? 蓮?」

 近づいてきて、じっと見上げてくる。

 ……可愛い。
 ――――……だめだな、頭溶けてる……。


「樹……さっきも言ったけどさ。あとでさ」
「うん」

「……抱き締めさせて?」
「……いい、けど。急にどしたの?」

 照れたような顔の樹。


「急にっていうかさ。ずっと皆が居るし。なんかすげー、樹不足なんだよ」

 オレがそう言うと、樹は、ぷ、と笑った。


「……オレ、蓮の栄養なの?」
「そーだよ。知らなかった?」

「――――……いいけどさ」

 クスクス笑ってから、樹はオレを見上げて。

「オレは蓮のくれる栄養で生きててさ。そんでオレが蓮の栄養になるなら、オレ達、そこで完結する、んだね……?」

「――――……そだな」
「……つか、ほんと何いってんだろ」

 クスクス、笑い続けてる樹。


 ……何それ。オレからの栄養で生きてるって。

 ……なんかエロい。と思うのは、オレだけ?

 樹は多分全然そんなこと、考えて言ってないのは、分かるんだけど……。


 ――――……めちゃくちゃ、キス、したい、なあ……。


「あ。昨日キャベツって、無くなったっけ?」
「え?」

 前を見ていた樹に振り返られて、我に返る。

「? キャベツ。お好み焼きに入れるでしょ?」
「ああ、うん。……半分のを買おうかな」

「何かぼーっとしてる? 蓮?」
「――――……大丈夫」


 キスしたいなー、と。
 ――――……キスしてる時の、樹の顔、思い浮かべてた、とか。
 絶対言えない。


「あとはどーする?」
「んー…… 昨日食べてない野菜にしよっか。シイタケとか? アスパラとかは?」
「あ、いいね、じゃもうそれで終わりにする?」
「ん」

「オレ、シイタケ取ってくるー」

 キノコのコーナーを目指して歩いていく樹を見送って、アスパラを探す。


 ――――……楽しそうで、可愛いな。


 「皆で」は好きじゃないと思ってたけど、旅行に来て見てると、そんな事も無さそうだった。
 佐藤と仲いいのは何となく雰囲気的にちょっと似てるし分かるけど、森田みたいな奴にも気に入られてるし。山田もなんだかんだ、樹のこと好きそう。

 割と、女子とも喋ってるし。

 ――――……高校ん時も、初めて見た時、女子と話してるとこだったっけ。 綺麗な彼女も居た訳だし。樹は別に、人付き合いが嫌いなわけでも、苦手なわけでもないんだよな……。
 もっと大勢のただ騒ぐパーティーとかは、好きじゃないんだろうけど。 

 普通に樹が、ずっとオレと居てくれるから、2人きりでいいやと思ってたけど。もしかしたら、樹の生活、つまらなくしてたり……?

 急にネガティブになった思考に、ストップをかける。


 ――――……おいおい。
 ――――……オレらしくなさすぎ。


「蓮、あったよ、しいたけ。これでいい?」

 笑顔の樹に、自然とこっちまで笑顔になる。


「ん、いいよ。ありがと」

 受け取って、カゴに入れる。

「――――……なんかさ、今思ったんだけどね。さっきの話に、戻していい?」
「さっきの話?」

「……栄養がって話」
「うん? なに?」

 樹は周りをちらっと見て、誰も居ない事を確認してから。
 オレを見上げて、ふ、と笑った。

「……蓮も、栄養なんだと思う」
「ん??」

「……なんか、昨日から、足りないなーって、オレも思ってる、かも」
「――――……」

「いつも2人きりだからさ。なんか足りない」
「――――………」


 さっきの珍しいネガティブ思考は一気に吹き飛ばされた。


 ――――……何でそんなに可愛いかな。樹。
 改めてそんな風に言われると。もう、完全にノックアウト。


 なんかもう。
 ――――……とりあえず一瞬抱きしめてしまおうかと、思った瞬間。


「まだ野菜買ってんのかよーー!」
「早く肉んとこ行こうぜーー!」

 ――――……森田と山田コンビが現れた。


 抱き締めてからでなくて良かった、と思う反面。
 邪魔すんなと思う、自分。


「オレ、シイタケ無理なんだけどー!」

 騒いでる森田に、「森田は全部無理じゃん。そんなの無視するから」と突っ込んでる樹。


「野菜はオッケイ? 加瀬?」

 山田が聞いてくる。気を取り直して、頷いた。

「ん、もういいよ。お好み焼きの粉とかソースとか探しにいこーぜ」
「あ、お好み焼きやんの?」
「最後にな」
「おー楽しみー」


 皆で話して歩き進めながら。
 ふと気づくと 樹を目に映してる自分に苦笑。



 オレ、ほんと……樹、好き過ぎだよな――――……。





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