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第3章 キャンプ

「迷路」*樹

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 巨大迷路を前にして、皆それぞれ、うわー、と声を上げている。


「うわー……これかー?」
「思ってたより、すごいなー……」


 木で作られた、巨大迷路。
 ど真ん中に、やぐらのようなものが建ってるの見える。

「もっとちゃちいもの、想像してた」

 佐藤が苦笑いしてる。

「下から覗きながら進めちゃうようなやつ」

 森田が、金取るのにそんな訳あるか、と笑う。
 

 下からも覗けないし、ジャンプしてもとても届かない高さの木の壁がある。


「ゴールできるまで、平均1時間で、遅いと2時間以上だって。 飲み物持って入れってさ」

 蓮が説明を読んで、そんな風に言ってる。
 皆で入り口の自販機で飲み物を買って、集まった。


「これってやっぱり、1人ずつ入る?」
「当たり前だろ」
「あの真ん中のやぐらに立てば、上から皆の事は見れるのかな」
「だろうな」

「……まあ無理だったら脱出用の出口もあるしな。無理しないようにだな」

 山田と森田の会話を聞いて、蓮が言うと、皆頷いた。

「だな」
「じゃーしゅっぱーつ」

 入口もいくつもあって、皆、それぞれ散らばっていった。


「じゃね、蓮」
「ん。出口でな、樹」
「うん」

 一瞬視線を合わせて、蓮と別れた。


 意外と広い。……というか、広すぎ。
 これ、めっちゃ敷地広いんだろうなー……。


 入って20分位。1回、佐藤には会ったけど、すぐ別れて後は、誰にも会わない。ゴールしたら、メッセージを送る事になってるから、まだ今のとこ、誰もゴールできてないみたいだけど。


 だんだん、焦ってきた。


 上下見れず、同じ茶色の板ばかり。

 行き止まりで戻っても、左右どっちか分からなくて、同じ所を回ってる気もしてしまう。


 ――――……ほんとに2時間出られなかったりして。
 やだなー、遅い記録を更新したりしたら……。

 急ぐのも疲れてきたので、普通に歩き進む。


 また目の前に、「×」の書かれた壁。


「――――……またいきどまりかー……」


 思わず、ぼそ、と呟いた。瞬間。


「樹、そこに居る?」
「あ。蓮?」

 板の向こう側に、蓮の声。
 安心して、嬉しくなってしまう。


「誰かに会ったか?」
「佐藤に会ったけどすぐ別れて、それから誰にも会ってない」

「オレも。 意外とこれ、広すぎるな……」
「うん」


「……くそ。板、邪魔。そっち行きたい」


 蓮の一言に、ぷ、と笑ってしまう。


 でも、オレも、そうだけど。
 ――――……蓮のとこに行きたい。


「樹、やぐら目指せる?」
「一応さっきから1回のぼろうと思って目指してるんだけど、行き止まりばっかりで、たどり着けないんだよね」

「そっか…… じゃあ、ダメもとでさ、樹」
「ん?」
「こっち歩いてみて。こっち」
「うん」

 蓮の声がするほうに、一緒に進む。
 道の分かれ目に立って、立ち止まる。

「蓮、まっすぐと右に別れるよ」
「そこで道、別れるか……」
「うん」

「……オレもここで道別れるっつーか……反対側しか行けないな……じゃあさ、樹、そこで1分待ってて。オレがそこに辿りけなかったら、動いて良いよ」
「わかった」

 スマホの時計を眺めて。そろそろ1分かな、という時。

「あ、樹。居た」

 後ろから声がして。
 振り返るより早く、一瞬、ふわ、と抱き締められてしまった。

「見つけた」
「え。蓮、後ろから来たの? どーやって?」

 振り返って蓮を見上げる。
 
「さあ、よくわかんね。 樹と反対にしか行けなかったから、そっちからまわって、なるべく、こっち方面に進んだら、ここに出た」

「すごいなー、蓮。さすが」
「まあ、たまたまだけど」

 クスクス笑った蓮に、よしよし、と撫でられてしまう。

 ……ほんと、さすが。


 こういうとこ。
 なんか、ほんとにカッコいい。


 普通だったら、やっぱり会えなかった……で終わって、
 結局出口で会う事になると思うのに。


 なんで見つけてくれちゃったりするかな……。
 しかも、抱き締めてくれちゃうとか、さ。

 
 なんだろうな。この何でも、何気なく出来ちゃう感じ。
 ほんと、カッコいい、な、蓮。


「樹、どした?」
「ううん、なんでもな……」

 あんまりぼんやりとしてたのに気づいて、慌てて振り仰いだ瞬間。
 ちゅ、とキスされて。びっくりして口を押える。


「……見えないよ。大丈夫」


 クスクス笑って、蓮が言う。


「いこ、樹」

 くい、と手を引かれる。


「誰かと会ったらすぐ離すから。それまで」


 手を繋がれて。
 一緒に歩く。
 


「――……」



 繋がれた手をきゅ、と握ると。
 振り返って、蓮が、ふ、と笑った。



 大好きだなー……蓮。



 前を歩く、少し上にある、蓮を見上げる。
 ふんわり、あったかい気分になりながら。





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