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第3章 キャンプ
「大好き」*樹
しおりを挟む「スカイスポーツとかもあってさー、パラグライダーとか楽しそうなんだけど、一日体験って感じで六時間とかかかるみたいでさ。今回はやめとこうかなーと思って」
「空飛ぶやつ? そんなの近くにあるの?」
「あるよ。好き?」
「好きっていうか、やった事ないけど、やってみたい」
「へえ。 じゃまた来ようぜ」
「また?って、また今度?」
「うん。な、加瀬?」
森田が、蓮に言うと、蓮が、タオルで顔を拭きながら振り返った。
濡れた雫を拭き取る蓮が。なんだかそれだけで絵になって、歯を磨く手が止まる。
――――……なんでこんなに、カッコイイかな。
「樹がやりたいならいいよ」
ふ、と笑う。
「そういう事言うから、お前は 樹最優先とか、山田に言われんだぞ」
クスクス笑う森田に、蓮は、別にほんとの事だからいい、と笑ってる。
――――……蓮。なんか、あんまり気にしない事にしたのかな。ついこないだ山田に言われた時は、最優先なんかしてないみたいな感じで反論してたのに。
からかうみたいな森田と、飄々と笑いながら受け止めてる蓮との会話を、何だか不思議に聞きながら、歯を磨いていたら。
「あ。おはよー」
女子達の声がして、振り返ると、3人が来ていた。
「はよ。 あ、ちょい待ち」
森田が言って、手早く歯磨きを終えた。続いてオレと蓮もそうして。
「準備できたら飯くいにいこ。声かけて」
森田の声に女子が頷いてる。
坂井とすれ違いざま。
――――……何だかものすごい罪悪感。
坂井に直接頼まれた訳ではないけれど、蓮を好きだから協力してと山田にも頼まれてたから。
なんかごめんね、協力、できなくて……。かなり胸が痛い。
しかもオレ男だし。……いいのかな、とも、まだ思うし。
だけど――――…… オレも、蓮が大好きで。
何より蓮が言ってくれる、好きを、大事に、したいし。
でも、なんかもう……申し訳ないな、なんて思ってしまう。
うー。まっすぐ顔が見れないな……。
「樹、部屋片づけてこよ?」
「……ん」
一緒に部屋に戻ると、蓮が窓際でオレを呼んだ。
「樹、タオル貸して。ここ、かけとこ」
窓際の隅に置いてあるタオルハンガーに、蓮がタオルを並べて干してくれる。
「ありがと、蓮」
「ん。 見てみろよ、緑がキレイ」
窓際に立つと、外の緑が、朝の光で透けてて、めちゃくちゃキレイ。
「ほんとだー。 いいなー、ずっとここで暮らしたい。星もキレイだし。いいとこだね」
「そだな――――…… あーでも……」
「ん? でも?」
「……オレ、樹と2人のマンションに帰りたいな」
「――――……」
「邪魔されないとこ行きたいかな。……まあ樹が居ればどこでもいいんだけどさ。でも今は2人になりたいなー……」
なんて答えていいのか、分からない。
振り返って、蓮は答えられないオレを見て、クスっと笑うと。
「とりあえず、今日明日は、旅行楽しも」
「うん」
「な、樹」
「ん?」
「――――…… 大好きだよ、樹」
まっすぐな、視線で。蓮が、言う。
凛とした、瞳。 少しも逸らされる事がなくて、恥ずかしくなる位。
「……うん。オレも――――…… 蓮の事、大好き」
「……はは。 樹、可愛い」
くしゃ、と髪を撫でられる。
「――――……すっごい、キスしたいけど……」
その言葉の途中から。ドドドドという音が近づいてきて。
ガチャ!とドアが開いて、山田が駆け込んできた。
「女子の準備まだみてーだから、ちょっと外であそぼーぜー!」
オレの頭を撫でていた手は、足音の段階で離れていたので、特に慌てることもなく。 蓮が苦笑い。
「無理だな、これ……」
くす、と笑って、オレも頷いた。
「何して遊ぶんだ?」
蓮が山田に聞いてる。
その後ろで、ベッドのシーツを綺麗に整えた。蓮のベッドはもう綺麗で。
なんかほんと、ちゃんとしてるよなー、と感心。
ショルダーバッグに貴重品だけ入れて引っかけると、蓮と森田について、廊下に出る。
そういえば佐藤に会ってないなーなんて思って、ひょい、と隣のへ部屋をのぞき込んで。
「……きたなすぎ……」
物が散乱してるという言葉がぴったりすぎるこの空間に、思わず一言漏らすと。
「あー? 樹、何て?」
中に居た森田に、じろ、と見られるけど。
「……なんでこんな汚いの? 数時間しかこの部屋に居ないのに……」
「おはよー、樹―。なー、汚いよなー」
佐藤が面白そうに笑ってる。
「つかお前のものも、いろんなとこに散らばってるけど」
森田が佐藤に突っ込んでる。
「樹どした?――――……って、きたねーな」
後ろから現れた蓮が、オレとおんなじことをぼそ、と呟く。
「あーやだ、お前ら。 おんなじこと、呟くな」
森田が嫌そうな顔で、オレと蓮を若干睨んでくるけれど。
「この短時間でここまで乱せるのが、逆にすげえよな」
蓮は面白そうに笑ってる。
「まあいいや。ほっとこ、樹。外いこうぜ」
「……そ、そう、だね」
「山田とオレら、外にいるから、準備できたら来いよー」
蓮が声をかけて、部屋を出てく。
……とりあえず明日出る前に、念のため、この部屋、片付けに来よ。
そんな決意とともに、蓮の後について、外に出た。
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