【キスの意味なんて、知らない】

悠里

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第3章 キャンプ

「ずっと」*蓮

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 樹の口に氷を入れたら、真っ赤になられて。
 抱き締めてしまいそうになったけれど、そこで森田が現れたから、何とか踏みとどまった。

  はー。オレ、ほんと、こんなとこで、何考えてるんだろう。


 ここに来て、樹と離れて、いつもみたいに話せなくて。
 それだけで、こんなに、焦れるなんて。

 ――――……余裕がなくて、驚く。


 こんなに好きになったの、初めて、だな……。
 ずっと自分の隣に居てほしいとか。

 ――――……そろそろ嫌がられるかな、樹に……。



 樹に氷を渡して、席にもどった。
 樹は、森田の隣。ちょうど、真正面に座ってるので、目に映る。

 ……近い。
 森田が、くすぐったがってる樹をからかってて、樹も赤くなったりしてる。

 おちつけ。 イライラするけど。
 すっげー、むかつくけど。
 樹に触るな、と、思ってしまうけれど。

 友達だと、それを言う権利もないのは分かってる。

 そもそも森田が触ってるのに、そんな意味がないのも、分かってる。
 それでもモヤモヤするって、オレ、どんだけだ。


 ――――……初めて、樹を見た日。
 ……キレイだと、思った。何かが心をよぎった。けれど、3年間全く関わりもなかったし、オレとは、仲良くはならないタイプかなとも思った。オレみたいな奴は嫌いかなと。

 ――――……だから、初めて話した、入試の日。
 樹のトーンに合わせて、話し始めたっけ。

 そしたら、意外と、静かなだけのタイプじゃなくて面白くて。
 ――――……オレはオレで、樹と同じトーンで話す自分が、すごく楽だって事に気付いて。騒がなくても、楽しませようとしなくても、穏やかに笑ってくれる樹と話すのが楽しくて。

 ――――……オレって、ほとんど、一目惚れだったのかな……。

 綺麗とかよりも、樹の、その、まとう雰囲気に。
 あの時、気になった感覚が、一緒に暮らしても、残っている気がする。


 甘いものが好きなのが意外で。
 食べてる時、幸せそうなのが可愛いと思ったっけ。

 ――――……美味しいものを作って、食べさせて、幸せそうな顔をしてるのを見て、こっちまで幸せになったり。


「加瀬くん?」

 隣の坂井に不思議そうに呼ばれて、現実に引き戻される。

 何とか会話をしながら時を過ごしていると、急に、森田がお開きにした。
 片付けて、寝る準備をして。

 ――――……部屋の前で、樹と目が合う。
 どく、と、胸が弾む。

 それぞれの部屋の前で、おやすみと言い合って、部屋に入ったら、思わず鍵をかけた。

 男2人で寝る部屋にカギなんかかける必要がない、というかけたらおかしいだろう、とは、思ったのだけれど。

 樹に、触れたくて。

 本当は、もっと色々話そうと思ってた。
 ゆっくり、樹と、話そうと、思ってた。

 けれど、2人きりになって。樹が振り向いた瞬間。
 抑えられなくて、樹を抱き締めてしまった。


「……れん……」
「――――……樹、話すの後で――――…… キスしていい?」


 抱き締めたままで答えを待とうと思っていたら、樹はすぐに頷いた。
 樹がどんな顔してるのか見つめると。

 なんだかすごく可愛くて。
 我慢できなくなりそうで、思わず、

「――――……めちゃくちゃ、していい?」

 と聞いてしまった。


「……うん。良い、よ」

 すぐに答えてくれた樹。


 ――――……樹、オレに、甘すぎるよな……


「――――……嫌になったら、そこで言って」

 言うと同時に、キスしてた。


 いつもより、すこし深く。
 ――――……気持ちを話すより先に、めちゃくちゃキスするなんて良くない、と、思うのだけれど。
 触れてると、どんどん高揚していく。

「……蓮……」

 呼ばれて、樹の見上げてくる瞳を見つめ返した瞬間。
 理性が飛びそうになって。本当に、困った。

「……樹」

 舌でそっと唇に触れたら、樹は、唇を開いた。
 舌を入れると、樹から触れ返してくれて。


 本当に――――……樹、オレに甘すぎるだろ……。
 可愛くて、無理。

 小さく喘ぐ声も、呼ばれる名前も、しがみついてくる手も。
 可愛くて、しょうがない。


 思い切り、キスしてから、
 恋人になって、と伝えたら。
 ――――……恋人にして、と答えてくれた樹。



 その後、理性を総動員して、何とか樹の事を離した。

 それぞれのベッドに寝て、とりとめなく話していたけれど、しばらくして樹が返事をしなくなって。


「――――……」


 少し黙っていたら、樹の小さな寝息が聞こえてきた。


「蓮のことが、大好きだから」

 さっき、樹が言ってくれた言葉。


 ……なんか。
 すっげえ、嬉しいな。


 ――――……できたら、いますぐ、抱き締めたい。

 樹、寝ちまったし。
 皆が、すぐ近くに居るし。
 ……できないけど。



 樹。
 ――――…… 数か月前までは、話したこともなかったのに。


 なんでオレこんなに好きかな。
 ――――……樹、男なのに。

 たぶんオレ、樹以外の男には、何の反応もしないと思うんだけど。

 ダメだ。樹には触れたくて、そういう衝動を抑えるのが、辛いくらい。

 なんでなんだろう。


 キスすると、すぐ白い頬が赤くなる。
 睫毛が、震えて、涙が滲む。
 
 ほわ、と緩んだ顔で、見つめられると、止まらなくなってしまう。


 今まで何も言わず、触れるだけで過ごしてきたキスを、樹が、文句も言わずに、何も聞かずに、受け止めてくれたいた。

 樹って、オレのすること、ほんとに何も否定しない。
 拒否もしない。


 でも、別に、それだから好きな訳じゃない。

 嫌がってるのに我慢してるようなら、もちろん、やめる。

 ――――……でも、そうじゃなくて。
 ふわふわ、自然に、笑顔で、受け止めてくれる。


 樹と居ると、安心感が半端ない。

 ――――……このまま一生、こんな感じで一緒にいられるなら、絶対幸せに生きていけるんじゃないかなと、思ってしまう。


 ベットを降りて、樹を見下ろす。


 ――――……可愛いな……樹。
 自然とほころぶ気持ち。



 ずっと好きでいられる気がする。
 2人でずっと、生きていけたらいいな。


 そ、と頬に触れた瞬間。

 ――――……あ。


 寝たふりをしてる蓮に、樹が指先で触れた時のことを、不意に思い出した。


 ――――……もしかして、こんな風な、気分、だったのかな……。



 愛しさでいっぱいになって。
 微笑んでしまった。









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